単行本 - エッセイ

上皇后 美智子さまが愛読した、憧れの欧風料理研究家・初エッセイ集『さあ、熱いうちに食べましょう』装幀家エッセイ&試し読み公開

さあ、熱いうちに食べましょう
入江麻木・著

 

上皇后 美智子さまが著書を愛読し、息子 小澤征爾がその味を愛したみなの憧れの欧風料理研究家・入江麻木。その魅力的な料理エッセイを初集成した『さあ、熱いうちに食べましょう』が発売となりました。

本書のブックデザインを担当されたデザイナー・岡本洋平さんのエッセイを紹介いたします。合わせて、本書のエッセイ&レシピの試し読みも公開、ぜひお読みください!

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華やかに見える生活の中にある、来し方を深く見つめる自省と諦念

岡本デザイン室 岡本洋平(ブックデザイナー)

 デザイン担当させてもらったエッセイが素晴らしいので紹介させてください。
 著者の入江麻木さんは故人で、ロシア革命で亡命した貴族と結婚、難しい時代を生き抜いて戦後の昭和に洋風料理を紹介した人。一人娘が小澤征爾さんと結婚、小澤征良さん・征悦さんは孫にあたる。そんな華やかに見える生活の中に、来し方を深く見つめる自省と諦念があり、それでも他の人の喜びこそが自分の喜び…と料理を作り続けた。この本はそんな入江さんが生前書いたエッセイのアンソロジーです。
 料理を作る人のエッセイは若いころのぼくが読んだことのなかった本のジャンル。その中には素晴らしいものがいくつもあって、難解な言葉こそ出てこないけど人間に対する深い洞察で驚かされることもしばしば。入江さんの場合はライフスタイルエッセイとは違い、このようにしか出来なかった・ならなかったという地点から出発して、にもかかわらず無償の行為を続けた姿勢が多くの人を惹きつけるのでしょうか。
 カバーに使った写真は、戦後の料理写真の嚆矢となった故・佐伯義勝氏のポジフィルムを使用。佐伯さんの奥様(なんと声楽科卒)のもとに拝借にお邪魔したところ、当時の料理の撮影についてや入江さんのお話も伺うことが出来たのは幸いでした。
 デザインに先立って、いまは誰も住んでいない入江さんの旧宅を見学する機会もわざわざ作ってもらえました。華やかな日々の微かな名残とともに、特別な場所に置かれた数点のイコンに、故人が日々向かい合っていたものを感じることが出来たような気がします。

 

* * * ↓ 本書エッセイ&レシピ 試し読み ↓ * * *

 

パイ料理を食べたときから、私の食生活は大きく変わっていったのです

 私の結婚が決まって、嫁ぎ先の家に初めて招かれたときご馳走になったのがパイ料理でした。それは和食から洋食へと、私の食生活が変わっていく一番初めの日だったのです。パイをいただきながら、私の結婚する相手は、いつもこういうものを食べていて、これから私も作っていかなければならないのだなぁ、としみじみ感じたものでした。
 ロシアでは祝い事や来客の折、パイ料理をよく作るようで、中に詰める具も魚、肉、野菜、果物、ジャム、サワークリームと、ありとあらゆるものを使っていました。肉や魚のパイにはお米や茹で卵も加えました。皆さまもよくご存じの、パン生地に肉を詰めて油で揚げたピロシキ。「ロシア風まんじゅう」などと呼ばれていますが、これも、もとはといえばパイ皮でくるんだもので、このピロシキにはビズィーガ(春雨)を入れるのです。昔はビズィーガは中国からの取り寄せもので、貴重品でしたので、ピロシキにビズィーガが入っているかいないかで貧富の差がついたくらいです。お金持は金や銀のサモワールでいれたお茶を飲みながら、ビズィーガ入りのピロシキを食べ、貧しい人は真鍮(しんちゅう)のサモワールでいれたお茶を飲みながら、豚肉や茹で卵入りのピロシキを食べる。中身は違っても、金持も貧しい人も同じ名前の料理を食べていたのですね。
 私も結婚してからは、義母に教えてもらいながら、よくパイを作りました。パイ皮で包み込まれた料理は、中身が何であれ、味に深みが増しておいしいものです。

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クリームチキンパイ

材料
パイ生地
 小麦粉(強力粉) 100g (薄力粉) 100g  塩 小さじ⅓  バター(無塩) 160g  冷水 40〜50㏄  小麦粉(打ち粉用) 適量  卵の黄身(溶く) 1個分

鶏のクリーム煮
 鶏もも肉(骨と皮を取って) 200g  玉ねぎ ½個  マッシュルーム 4個  バター 大さじ1½  小麦粉 大さじ1  鶏のストック 150㏄  生クリーム 50㏄  塩、胡椒 各適量

作り方
パイ生地
 1 小麦粉と塩を合わせてボールにふるい入れます。
 2 1の中央にバターをのせ、バターカッターで刻み、あずき大になったら、手で小麦粉とバターをもむようにして合わせます。
 3 中央をくぼませて冷水を加え、周りの粉を重ねるように混ぜ、ほぼまとまったらビニール袋に入れて手で丸く平らにし、冷蔵後で3時間以上ねかせます。

鶏のクリーム煮
 4 鶏もも肉は2㎝角に切って塩、こしょうをふります。
 5 玉ねぎは薄切りにし、マッシュルームはサッと水洗いし、石づきを切り取って薄切りにします。
 6 フライパンにバターを熱し、中火弱で玉ねぎを少し色づくまでいためて鶏肉とマッシュルームを加え、軽く焦げめがつくまでいためます。
 7 小麦粉をふり込んでいため、火が通ったら鶏のストックを加えて混ぜ合わせます。
 8 弱火にして約10分煮、水分が少なくなったら生クリームを加え、塩、胡椒で味をととのえます。

仕上げ
 9 パイ生地は打ち粉をした台の上にのせ、めん棒で端から少しずつのばし、厚さ1㎝の長方形にして4つに折り重ね、打ち粉をしてこれをもう一度くり返し、厚さ3〜5㎜の四角形にのばします。
 10 生地の全面にピケローラーかフォークの先で空気穴をあけ、9㎝×9㎝と10㎝×10㎝の四角形各6枚を取り、生地が残ったら、クッキー型で抜いて木の葉形を6枚取ります。
 11 天パンに小さいほうの生地を並べて鶏のクリーム煮を等分にのせ、周囲に溶き卵を塗って大きいほうの生地をかぶせ、縁をフォークで押さえ、木の葉形に溶き卵を塗って中央にのせ、冷蔵庫で30分冷やします。
 12 11の表面に溶き卵を塗り、200℃に熱したオーブンの中段に入れて20〜25分、きれいな黄金色に焼きます。

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その他のエッセイは書籍でお楽しみください!

『さあ、熱いうちに食べましょう』入江麻木
単行本●2019年11月発売 本体1700円+税

1980年代、テレビや雑誌で欧風家庭料理を紹介し、本場仕込みのセンスと温かい人柄で、女性の憧れだった料理研究家・入江麻木。当時レシピに添えられた、魅力的な料理エッセイを初集成。
●寄稿「魔法使いのタァタ」小澤征良

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著者

入江麻木

料理研究家。東京生まれ。一九四二年、戦争が激しさを増すなか、白系ロシア人貴族の末裔ヴィタリ・イリインと結婚。義母から礼儀作法を、義父からロシア料理を教わる。一人娘の入江美樹(元ファッションモデル、指揮者の小澤征爾と結婚)とその家族と共に数多くの海外生活を送り、そこでの経験を後に自分の料理のスタイルに反映させた。離婚後、五十代で料理家としてスタート、愛情溢れる料理とあたたかい人柄、本場仕込みのセンスで人気を博し、一九七〇年代から八〇年代にかけて、女性たちの憧れの存在として雑誌、テレビ等で活躍した。一九八八年逝去。

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