単行本 - エッセイ

すぐに実践できる。健康維持と認知症予防の心得「一読、十笑、百吸、千字、万歩」

『一読、十笑、百吸、千字、万歩』石川恭三『一読、十笑、百吸、千字、万歩』石川恭三

一読、十笑、百吸、千字、万歩
医者の流儀

石川恭三【著】

 

健康維持と認知症予防の心得「一読、十笑、百吸、千字、万歩」を生活習慣に

 

五十年間、まがりなりにも医者を続けているという自覚が私の心の中に重量感を持って存在している。病気を治療することが医者の本分であり、そのためには自分自身が率先して病気にならないための最大限の努力をしてその範を示さなくてはならない、という医者としてごく当たり前のことを私はかなり忠実に実行してきた。今、こうしてまずまずの健康を維持していられるのは、「医者はこうあらねばならない」という意識をそれほど無理しないで持ち続けられた、幼稚とも言える単純な性格によるのだろうと思う。
これは年のせいかもしれないが、近ごろ日常のちょっとしたことが、そう言えばあの患者さんは……と、遠い昔の出来事を想起させる契機になることが多くなっている。頭の中には数え切れないほどの多くの患者さんの記憶が小刻みにされて、ぎっしりと内蔵されている。その記憶の一つひとつが、まるでパソコンに取り込まれたデータがキーワード一つで一瞬のうちに引き出されてくるように、何かの拍子に不意に甦ってくることがよくある。
こうして呼び出されてきた小さな記憶が火種になって、さまざまな想念に火がついて頭の中が賑やかになる。そうなると、絶景を目にしたときカメラで撮っておきたくなる気持ちと同様に、その場の感慨を文字として残しておきたくなる。このようにして悠々閑居の身の私の頭にたまたま飛び込んできた雑多な思いを掻き集めたものが本書である。
あつかましいことを言うようだが、私には傘寿を迎えたという自覚がまるでない。高齢であるという自覚はあるにはあるのだが、周囲が思っているよりはるかに若いと自惚れている。もちろん、加齢に伴い体のあちこちの部品が多少不具合になってはいるが、そんなことは今すぐ命に関わるものではないと、これまでの医者としての経験からそう判断して、適当にごまかしながら付き合うことにしている。それでも、年をたずねられたり、書類に年齢を記入するときなどでは、もうそんな年になってしまったのかと、いつものことながら軽い衝撃を受けている。
丁寧に生きたいという思いが頭から離れず定着していて、今という時間をいっそう愛おしくさせている。今、何を思い、何を感じているかをできるだけ鮮明に心に刻み込んでおきたいという願望から、ありのままを書きとめておく作業が日課になっている。こうして駄文を気にせずに書くことが多少なりとも老いのサビ止めに役立っていると思うことにしている。
中高年の人に対して、健康維持と認知症予防の心得として、「一読、十笑、百吸、千字、万歩」を生活習慣の中に組み入れることを長年にわたり推奨している。このことは第二章でも触れているが、一読(一日に一度はまとまった文章を読む)、十笑(一日に十回くらいは笑う)、百吸(一日に百回くらいは深呼吸をする)、千字(一日に千字くらいは文字を書く)、万歩(一日に一万歩を目指して歩く)のことである。
この「一読、十笑、百吸、千字、万歩」の生活習慣は「老い」の容を整えるのに有用だと信じて心がけている。老いはゆっくりと進んでいるが、生を愉しむ時間はまだたっぷりとある。老いを嘆くばかりではなく、老いた今だからこそ感知できる幸せを自ら創り出すべきではないかと思っている。

平成二十七年十一月吉日

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著者

石川恭三

1936年東京生まれ。慶應義塾大学医学部大学院修了後、アメリカのジョージタウン大学留学。杏林大学名誉教授。日本屈指の名医。『心に残る患者の話』『医者が見つめた老いを生きるということ』等著書多数。

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