単行本 - エッセイ

最果タヒ『きみの言い訳は最高の芸術』刊行記念書き下ろしコラム【2】本のなかとそと

きみの言い訳は最高の芸術』刊行記念書き下ろしコラム【全6回の2】
 

本のなかとそと

最果タヒ

すばらしい何かを読み終わった時、私を含めこの世界が虚構であればいいのにと思う。作品の内側だけが現実であればいいのに。そのほうが正しい、と言いたくなる。こんな気持ちになるのは本ぐらいだ。テレビも映画も夜空も音楽も好きだけれど、美しいものを見てもそれらと私は両立して存在できると思ってしまう。でも、本はどうしたって、自分が自分であることを忘れて読むことしかできないから、終わったって向こう側だけが残り続けばいいのにと願ってしまう。
逆に、街や駅でうつくしいものやかわいいものを見つけると、なぜかひどくおなかがすく。生きましょう、次に進みましょう、ということなのかな。私の所属する世界の一部が、肯定せざるをえないほどすばらしいとき、私は私のこともどこかで肯定してしまえる。月なんて、それ自体がおいしそうではないですか。
そんなこんなで、読書は秋がすばらしいです。本を読み終わって、すべてが噓であったらいいのに、この本の内側にあった世界だけが本当であればいいのに、と言いたくなるほど痺れた直後、秋の月を見つけたならおなかがすく。この世界もまたいいものです、なんてしれっと言ってみて、月餅なんかを食べてみる。

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著者

最果タヒ

1986年生まれ。詩人・小説家。2006年、現代詩手帖賞を受賞。07年、詩集『グッドモーニング』で中原中也賞を受賞。著書に『死んでしまう系のぼくらに』(詩集)、『星か獣になる季節』(小説)他多数。

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