単行本 - エッセイ

最果タヒ『きみの言い訳は最高の芸術』刊行記念書き下ろしコラム【5】「みんなだいきらい」な人がすき

きみの言い訳は最高の芸術』刊行記念書き下ろしコラム【全6回の5】
 

「みんなだいきらい」な人がすき

最果タヒ

全員が大嫌いだと目で主張しているようなひとにたいして、どうしても近づいてみたいような、というか「あ、でもきみのことはそこまで嫌いじゃないよ」と言ってもらえるのをどこか期待してしまうあの現象は何なのだろう。どうだってよかったはずのひとが、そういう態度を見せるとなんとなく近づいてみたいように思うし、それで嫌われたらがっかりするわけだから、正直私、私がよくわからない。
好かれたいなら、誰でも好きになるような、そんな子のところに行けばいい、はずだった。それなのに「みんなが嫌い」と言っている人が、本物に見える。本当のことを言っているように聞こえてしまう。本物に好かれたい、本当の意味で好かれたいと願ってしまう。要するに私は「誰かに好かれたい」なんて願うわりに、みんなのこと嫌いだとも思っていて、「嫌い」と言い張っている人を見ると「本物だ」なんて信じてしまう。本当のところはなにも、わからないのに。
攻撃的な人、自分を守ろうとしない人というのは、どうして「本物」みたいに見えるんだろうな。ただ共感しただけじゃないのかな。「本物」だとか「本当」だとかいう言葉で相手を捉えるのは、そんな人に共感できた自分が「本物だ」と肯定されたいだけじゃないのかな。なんてね、つきつめるとエゴしかでてこないそんな自分にはもう慣れた。私、生きようと必死だね。そしてだからこそたぶん、悪いことではないはずなんだ。だから素直にここにも書きます。

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著者

最果タヒ

1986年生まれ。詩人・小説家。2006年、現代詩手帖賞を受賞。07年、詩集『グッドモーニング』で中原中也賞を受賞。著書に『死んでしまう系のぼくらに』(詩集)、『星か獣になる季節』(小説)他多数。

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