単行本 - エッセイ

最果タヒ『きみの言い訳は最高の芸術』刊行記念書き下ろしコラム【6】「今生きている」株急上昇

きみの言い訳は最高の芸術』刊行記念書き下ろしコラム【全6回の6】最終回
 

「今生きている」株急上昇

最果タヒ

インターネットをやっていると本当に簡単に、人とつながっていける。遠い存在だと思っていたひとの目に自分の言葉が触れたりもして、それはとても嬉しい出来事だけれどそうやって世界が近くなっていくこと、そのこと自体は幸福なのかなと考える。「今生きている」ということがとても重要になっている。昔はテレビの中の人は歴史上の人物と同じぐらい非現実的だったけれど、テレビの人すらずっと近い存在になって、今はただただ死んでいるか生きているか、ということが大きな断絶を生んでいる。死んだ人はタイムラインに浮上しない、だから忘れられる、消えていく。頼むから死にたくないな、と強く強く願う。そりゃ最初から死にたくはないんだけど、「生きていない」っていうことがこんなにその人のことを考える上で重たい意味を成すようになっている、この「今」ってなんだか窮屈だなあ。だって、どうせそのうち全員死ぬ。同じ時
代に生きているということがすばらしい価値を成すたびに、そうではない未来を考えてぞっとする。なんだろう、なんていうか、ここまで生を、今を、刹那的にしてくれなくたってよかったのにな。未来、全員が確実に私を忘れ、私もほとんどの人を忘れていくような気がしている。

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著者

最果タヒ

1986年生まれ。詩人・小説家。2006年、現代詩手帖賞を受賞。07年、詩集『グッドモーニング』で中原中也賞を受賞。著書に『死んでしまう系のぼくらに』(詩集)、『星か獣になる季節』(小説)他多数。

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