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映画を探す人、映画を持っていた人、映画を修復する人、映画を鑑定する人…… それぞれのドラマを追った、初のノンフィクション!

映画探偵──失われた戦前日本映画を捜して 映画探偵──失われた戦前日本映画を捜して

『映画探偵──失われた戦前日本映画を捜して』

高槻真樹著

 

映画を「探偵」するということ

新聞の社会面に「幻の日本映画発見!」の見出しが躍ることは、けっこう当たり前のこととなった。だがそれでも、疑問を持つ読者は多いはずだ。「映画が幻、とはどういうことだ?」と。そもそも映画は消えたり現れたりするものなのか。映画会社は昔の作品を全部保存していないのか。そう考えたとして誰が責められよう。

ロードショー公開を終えた映画は、DVDで発売され、テレビ放映され、名画座でリバイバル上映される。そもそも、映画はネガフィルムをコピーしていくらでも複製できる。近年はデジタル化が進み、もっと簡単にダビングができる。多くの人々にとって、まず「映画が消える」という意味がわからない。

ある意味、「複製芸術」であることが映画の落とし穴であり、多くの人々の関心を「映画保存」から遠ざけてきたのだと思う。だがフィルムほど傷つきやすい存在もない。実はデジタル素材も簡単に破損してしまうのだが、それはまた別の話。あなたの家のパソコンがどれほど壊れやすいか、思い返していただければ、考える足掛かりにはなるだろう。デジタルにせよフィルムにせよ、コピーしやすいことと保存しやすいかどうかは実は何の関係もない。この二つは混同しやすいが、分けて考える必要があるのである。

ひとまず、発明以来これまで一二〇年間にわたって使われてきたフィルムに話を絞ろう。最近はリバイバル上映もデジタルなので傷ひとつないが、かつて一九九〇年ごろまでに名画座廻りをした方なら覚えておられるかもしれない。カラーフィルムは褪色して真っ赤、モノクロフィルムは傷だらけで場面も飛び飛び、そんなフィルムが平気で上映されていた。フィルムは上映されればどんどん傷つき擦り切れ、やがて消える。

一九五〇年代以前に使われていたセルロイド製フィルムはさらに大変で、可燃性だったため、とにかくよく燃えた。そんな物騒な素材を、熱を帯びやすい白熱電球の光にかざして、上映していたのである。火事にならないほうが不思議であり、そうでなくても光に弱く劣化は早かった。

にもかかわらず、映画人が危機意識を持つのは大変遅く、気が付けば多くの映画が失われてしまっていた。日本の場合、実は一九四五年までに作られた映画のほぼ九〇%が失われているそうだ。聞いてない、という文句を言いたい人もあるだろう。私だってそうだ。なぜか誰もそのことを教えてくれなかった。知っている人は言っても無駄だと思っていたのだろうし、知らない人は「あの映画、いつになったら上映されるんだろう」と思っていたのだろう。こうして多くの映画の「世界最後の一本」が、何の考えもないままに、無造作に捨てられ、消えた。

なんという無知。なんという蛮行。だが嘆くことはない。思い出してほしい。映画は複製芸術である。コピーを繰り返した孫の孫のそのまた孫コピーは、どこかの倉庫に眠っているかもしれない。あなたの家の蔵に、はたまた地球の裏側の映画会社や映画館に、はたまたコレクターの手元に。誰にも知られないまま生きながらえているかもしれない。

そんな希望はいつだってあり、実際に失われたはずの映画はひょっこりと甦ることもある。たとえ傷だらけになっていたとしても嘆くことはない。そんなときのためのデジタル技術だ。

映画は失われる。だが見つけ出すこともできる。だからこそ「映画探偵」というべき人々がいる。実際、失われた映画を探し出す行為はとてつもなく面白い。だれもが知る「幻の傑作」だけではない。誰も知らない、無名の珍品が、映写機にかけてみたら、腰を抜かすような先駆的野心作だった、なんてこともざらだ。

映画を探す人、映画を持っていた人、映画を修復する人、映画を鑑定する人、それぞれに思いがけないドラマがある。ロシアで見つかった、わずか五分のフィルムの断片。それを一目見て「ああ、これは〇〇だね」と言い当ててしまう、そんな人もいる。もしあなたが映画を観ることになんの関心もなかったとしても、映画を探す面白さはきっと伝わる。その映画本来の物語とは別に、あらゆる映画には、思いがけない歴史と物語と解かれるべき謎が詰まっているのだから。

(映画研究者・SF評論、高槻真樹)

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著者

高槻真樹

1968年生まれ。立命館大学在籍時に京都文化博物館映像ホールにてアルバイト勤務し、日本の戦前無声映画について多くの知識を得た。著書に『戦前日本SF映画創世記』(小社刊)がある。

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