単行本 - エッセイ
全世界に浸透しつつあるマインドフルネス瞑想の神髄を、本書でぜひ体感してください。――ティク・ナット・ハン『愛する』
2017.05.31
「マインドフルネス」という考え方を知っていますか?
今、ここで起こっていることに注意を向けることで自分の気持ちをコントロールし、ストレスや不安を軽減、創造性を高めることができると言われている瞑想法です。集中力が必要な世界のトップアスリートのトレーニングや、グーグルやインテルといったIT企業が多忙を極める社員のためのプログラムに取り入れたことで有名になった「マインドフルネス」、この考え方を世界中に広めた禅のお坊さんがいます。
彼の名はティク・ナット・ハン(釈一行)。
ベトナム反戦への貢献によってノーベル平和賞の候補にもなったことのあるこの禅僧は、戦争の余波によって亡命した先のフランスにて、1982年、僧院「プラムヴィレッジ」を創設します。そこで始めた瞑想法の指導を求めて世界中から人びとが集まり、地方の農場規模だった「プラムヴィレッジ」は、やがて西洋で最も大きな仏教僧院へと成長したのでした。
このたび、そんな彼が“愛”について語った法話をまとめた著書『愛する──ティク・ナット・ハンの本物の愛を育むレッスン』が刊行されました。
「仏教徒が“愛”を語るなんて、なんだかインチキくさい」──そう思われる読者もいらっしゃるかもしれません。実際、愛という言葉にはキリスト教的な響きがあります。本書の英語版タイトルは「How to Love」、平たく言ってしまうと「愛についてのハウツー本」なわけですが、ただ、ここでティク氏が唱える“Love”という単語は、どうも欧米で使われるそれとは少し意味が異なるようです。
ティク氏は本書でこのように語っています。「真実の愛は4つの要素でできています。やさしさ・思いやり・喜び・おおらかな広い心」。なんだかわかりやすくてポジティブな日本語すぎて、「ふ~ん」なんて感じで流し読みしてしまいそうになりますが、これら4つの要素は彼が思いついたものではなく、仏教に昔からある教え「慈悲喜捨」を翻訳したもの。「四量無心(しりょうむしん)」と呼ばれ、人を幸せにする心の持ちようとして釈迦が説いた教えです。そう、彼は“Love”という言葉を仏教的に解釈しなおし、新しい意味に変容させているのです。
「慈悲喜捨」という、ありがたいけれどなんだか難しそうな仏教用語ではなく、「やさしさ・思いやり・喜び・おおらかな広い心」という、身近で誰にでも理解できる言葉で、自分とパートナー、そしてまわりの人や世界を“愛する”ことについて語りなおす……たとえるならそれは、弊社で現在刊行中のシリーズ「日本文学全集」で試みられている、現代作家による古典作品の現代訳と似た試みかもしれません。ティク氏によっていったん英語に翻訳された仏教の教えは、実際、とてもわかりやすく現代的なイメージに更新されています。
本書を深く楽しむポイントは、わかりやすい言葉の奥に潜んでいる、古くから語り継がれてきた仏教の教えを読み取ること。それは「ありがたい教え」というよりは「使える教え」であり、わたしたちの忙しいライフスタイルを見なおし、深呼吸をするきっかけをつくってくれるという意味で、まさに「ハウツー本」でもあるのです。
世界13か国に翻訳されたベストセラー・シリーズの1冊、全世界に浸透しつつあるマインドフルネス瞑想の神髄を、本書でぜひ体感してください。
(編集部Y)