ためし読み - 14歳の世渡り術

【武田砂鉄さんの寄稿ためし読み!】『みんなどうやって書いてるの? 10代からの文章レッスン』の一部を特別公開します。 乗代雄介さんの寄稿文も同時公開!

 

文学フリマが活況を呈し、書店にも趣向を凝らしたZINEがならぶなど、いま「書くこと」の周辺は、かつてない盛り上がりを見せています。

 

本書はその第一線で活躍する15名が、それぞれの考えと方法、書く喜びと苦労とを綴ったアンソロジー。

日記、エッセイ、詩、小説、プレゼンの企画書から誰かにあてた手紙まで、宛て先の有無はべつにしても、私たちはみんな何かを書いています。

寄稿いただいた皆さんの、実に多彩な方法から、自分に合ったやり方が見つかるかもしれません。

 

好評につき、小説家の乗代雄介さんとライターの武田砂鉄さんの寄稿から、それぞれ冒頭の一部を特別公開いたします。

本ページでは、武田砂鉄さんの寄稿(一部)がお読みいただけます。

 

▷▷▷乗代雄介さんの寄稿ためし読みはコチラから!

 

 

==ためし読みはこちらから==

『みんなどうやって書いてるの? 10代からの文章レッスン』

小沼 理 編著

 

『書くのって、そんなに大変なことなのか』

武田砂鉄(ライター)

 

⚫︎物書きって、しんどそうですか?

 映画やドラマで漫画家や小説家が登場すると、その人は大抵、描く・書くのがしんどそうにしている。いいアイディアが出てこない。書き出しが思いつかない。ひとまず椅子に座ってパソコンの画面を眺めたり、紙にラフを描き始めたりするものの、うまくいかない。紙をクシャクシャにして椅子の後ろのほうに向かって投げている。こんな人いるんだろうか。少なくとも破ってゴミ箱に捨てるんじゃないか。あるいは、そのアイディア、意外と使える可能性もあるので、ひとまずとっておくんじゃないか。作品のリアリティを厳しく問いたいわけではない。どうやら、描く・書くって、それくらい大変な仕事だと思われているらしい。自分は漫画家ではなく物書きなので「描く」ではなく「書く」に絞るが、書くのは大変だと思われている。書くのが仕事なので、確かに毎日、大変だな、面倒臭いな、と思いながら書いているけれど、この大変や面倒って、どんな仕事にも共通するはず。

 

 パン屋さんの一日を追ったドキュメンタリー番組を観た。午前一〇時の開店に向けて、パン作りを始めるのは確か早朝四時。まずは店主がひとりでやってきて、各種の下準備をする。それなりにめどがたった辺りの時間帯にスタッフがやってきて、開店時間に向けて、一気に作っていく。人気のパン屋さんなので、開店から数時間であらかた売り切れてしまう。こんな日々を繰り返していく。大変そうだな、面倒臭そうだな、と思いながら観終わる。狭い厨房に限られた人がいたら、誰かとの仲が上手くいかないだけで殺伐としてしまうんだろうな、強めのオナラをしたら誤魔化すのが大変そう、ちょっとした体調不良では休めなさそうだけど、かといって、それで全体に風邪をうつしてしまったら厄介なことになりそう、などと思う。とにかく大変そう。

 でも、パン屋さん自体がその番組を観たら、いや、そんなに大変じゃないよ、って言うんじゃないか。日々繰り返している中で、よりよい作り方を模索してきたし、確かに朝は早いけど、逆に言えば昼すぎにはおおよその仕事が終わるし、なんて返ってくるのではないか。どんな仕事も大変だし、大変ではないし、楽しいし、楽しくはない。文章を書く仕事は、必要以上に尊いもの、クリエイティブなものとされすぎているのではないか、と感じてきた。なぜなら、パンと違って文章は、学校に通っていれば否応無しに書かされるし、学校に行かなくなっても何かしら書かされる機会があるし、誰かが書いた文章を本屋さんでわざわざ買わなかったとしても、何も読まずに暮らすのは難しい。「パンを作った経験」よりも「文章を書いた経験」のほうが、圧倒的に共有しやすい。

 共有しやすい上に、かなり早い段階から「文章書くのって、大変だよね」となりやすいのは、読書感想文を書くのに四苦八苦したり、その日の夜に書かなければいけない絵日記を二週間分ためこんで捏造に励んだりした経験があるからだろう。その結果、友だちと遊べなくなったり、親にられたりしたかもしれない。真っ白な原稿用紙に言葉を埋めていかなければいけないプレッシャー。言葉を埋め始めたけど、まだめちゃくちゃ先が長いプレッシャー。埋まったことは埋まったけれど、内容として納得がいかないプレッシャー。こういった過程に疲れてしまう。苦手意識が高まる。その結果、「書くってすごい」になりやすい。自分はパン屋に苦手意識はないのだが、それは、苦手になるほどパン作りを知らないからである。文章の場合、そういう距離感ではいられない。おおよその人が近い。自分は苦手なのに、この人はたくさん書いている、だからすごい、となりやすいのが書く仕事の特徴なのだ。

 

⚫︎厨房の裏で考えてみる

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続きは単行本

みんなどうやって書いてるの? 10代からの文章レッスン』でお楽しみください

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関連本

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著者

武田 砂鉄

1982年生まれ。大学卒業後、出版社で主に時事問題・ノンフィクションの編集に携わり、2014年よりフリー。著書『紋切型社会:言葉で固まる現代を解きほぐす』(新潮文庫)で2015年に第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞、2016年に第九回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞を受賞。多くの雑誌で連載をもち、インタビューを行うほか、TBSラジオ「武田砂鉄のプレ金ナイト」、文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ!」に出演中。近刊『テレビ磁石』(光文社)が好評発売中。

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