ためし読み - 14歳の世渡り術

11/20(木)対談イベントを記念して『国境って何だろう?ーー14歳からの「移民」「難民」入門』ためしよみを特別公開!! 内藤正典さん×金井真紀さん「移民と難民ーーあなたとわたしの境とケアのはなし」

 

『国境って何だろう? 

14歳からの「移民」「難民」入門』

内藤正典

 

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私たちは日々、気づかぬうちに「こちら」と「あちら」を分けながら生きています。
国境、文化、言葉、価値観……境界線は、世界の遠くにも、わたしたちの足元にもあります。
地理学者の内藤正典さんは、長年にわたりイスラム社会やヨーロッパの移民問題を研究し、国境を越えて移動する人びとと関わり、見えない境界が生まれるしくみを明らかにしてきました。

中学生むけに書かれたこの本では、世界や日本でいま起きている移民・難民問題をやさしくひもといて頂きました。
学生時代に留学した中東地域で見たこと、出会った人、研究者になってからガザの留学生を迎えたり、アフガニスタンの政権側とタリバン代表部の双方を招き対話の場をつくった経験から感じたこと、考えたことなども綴って頂きました。
日本のニュースでは報じられないことも、少なくありません。

本書の刊行を記念して、11/20(木)に東京・下北沢の本屋B&Bにて、金井真紀さんと内藤正典さんの対談を行います(来店+オンライン配信)。

今回、イベントの開催に合わせて『14歳からの「移民」「難民」入門』第1章の冒頭を公開します。
ご興味が湧いた方は、ぜひイベントにご参加ください!

*イベントのお申込み、詳細はこちら
https://peatix.com/event/4623399/view?k=e76d9e72609304970a77196bdcf326af8016f7e1

 

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『国境って何だろう?──14歳からの「移民」「難民」入門』

内藤正典

第1章 世界でいま何が起きているのか──国境を越える人たち

日本は島国だから、国の内と外は当たり前のように海で仕切られている。でも、世界の多くの国は陸でつながっている。陸続きなのに、あるところで線を引かれて、ここから先は君の国じゃないから勝手に入るなと言われる。自分の国の方が豊かで平和だと、隣の国から勝手に入ってくるなと思う。逆に、自分の国が殺し合いばかりで貧乏なら、なんとかして隣の国に行きたいと思う。それが自然だ。国境線とは、他人の邪魔をするときはありがたい線だが、自分が出ていこうとするときは、ひどく邪魔な線なのだ。

 

●国境は、あって当たり前?

 日本は島国ですから、周りを海に囲まれています。そのため日本の内と外は、はっきりわかります。しかし、これが陸続きになっている大陸の国だと、どこからどこまでが自分の国で、どこからほかの国なのか、わかりにくくなります。
 国、難しく言うと国家ですが、この「国」を構成するのは三つの要素です。「国民」「主権」そして「領域」です。国民というのは国家を構成するメンバーのことです。日本にいると、なんとなく日本人が国民、つまり日本人という民族が一つの国を持っているように見えます。日本にいる限りは当たり前のように思えますが、世界では単一民族からできている国などないと言ってよいほど少ないのです。なかでも、大陸の陸続きの国にとっては、同じ民族が一つの国を持つことは全然当たり前ではありません。
 二つ目の「主権」とは、国が物事を決めたり行ったり、あるいは正しいか間違っているかを判断したりする力のことを言います。一般的には、国民が主権を持つことになっています。
 三つ目の「領域」とは、国の領域、つまり国境線で仕切られた内側のことですが、それがどこからどこまでなのか、これは多くの国にとって大問題でした。国家は国民を国内に留めておこうとします。そうしないと国の軍隊の兵士を確保できませんし、税金を徴収できないからです。
 なぜ、国境を越えて人が動く現象がこれだけ大規模になっているのか? この本のテーマはそこにあります。
 しかしそれは、そもそも国境があるから、国境を越える移動がいろいろな問題になるのであって、国境がなければ問題にはなりません。そして、もともと人が住んでいたのに、突然、国境線が引かれて「ここは自分たちの土地だ」と言って他人が入ってきて、土地も自由も奪ってしまったらどうなるでしょう?
 2025年、アメリカにはとんでもないことを公言する大統領が誕生しました。2期目のドナルド・トランプです。なぜとんでもないかと言うと、隣のカナダという国をアメリカの51番目の州にしてやる、デンマーク領のグリーンランドもアメリカのものにしてやる、そしてパレスチナのガザは、戦争で瓦礫の山なのだから更地にしてアメリカがリゾート開発してやる、と言い出したからです。
 トランプ大統領がとんでもないことを言い出す前から、この問題に直面しているのが、パレスチナをはじめとする中東の地域です。そこで、国境を越えて生きることの意味を考える本書の最初に、他人が勝手に乗りこんできて(これを入植と言います)自分たちの国をつくってしまうと何が起きるかを考えることにします。
 えっ、そんなことが起きるのか? と思われるかもしれません。しかし、起きたのです。そして今も犠牲者が増え続けているのです。しかも、乗りこんできた人たちだけを責めるわけにはいかない。その人たちを大虐殺し、出ていくしかないところに追い詰めた国があったからです。

 

●ユダヤ人入植という移住に始まるパレスチナの悲劇

 通常、私たちが「パレスチナ」というとき、地中海の東に位置する沿岸地域でレバノンの南を指します。ここにはイスラエルという国がありますが、この国ができたのは第二次世界大戦後、1948年のことです。イスラエルは基本的にユダヤ人の国ですが、もともとそこに住んでいた人にはアラブ人もいました。イスラエルはパレスチナにいた人が国をつくったわけではなく、主としてヨーロッパにいたユダヤ人が移住し、入植してつくったのです。
 どうして移住してきたのでしょう?
 それはヨーロッパのキリスト教徒がユダヤ人を嫌って、2000年にわたり、何度も何度も虐殺を行ってきたからです。その最後が第二次世界大戦時(1939〜45年)、ナチスドイツによるホロコーストでした。600万人ものユダヤ人が殺され、生き残った人たちは自分たちの国を持つことを望みました。第二次世界大戦後、もう二度と戦争はやめようという世界の意思でつくられた国連は、ユダヤ人のための安住の地をつくることを決めました。そのために選ばれたパレスチナの地を分割して、もともと住んでいたパレスチナ人(民族的にはアラブ人)の国とユダヤ人の国イスラエルをつくることになったのです。こうしてヨーロッパをはじめ世界各地からパレスチナに向かう大規模なユダヤ人の移動が発生しました。
 歴史をさかのぼると、ユダヤ人の国が必要だ、自分たちの国をパレスチナに持たなければいけない、という政治運動(これを「シオニズム※」と呼びます)は、19世紀に生まれたものです。

※シオニズムは、ユダヤ人たちの国をつくることが目標でした。イギリスが今のパレスチナの土地にユダヤ人の「民族の故郷」をつくってあげると約束したために、ユダヤ人が続々と入植しました。ヨーロッパ、なかでもイギリスが中東を支配しようとしたときに、彼らを利用したのです。そして、ヒトラーに率いられたナチスのドイツが、600万人にもおよぶユダヤ人を殺戮するというホロコーストを引き起こしました。第二次世界大戦が終わった後、世界はユダヤ人の身に起きた悲劇のために、パレスチナにユダヤ人の国イスラエルが誕生することを認めたのです。

 ユダヤ人のこの願いを利用して、中東を手に入れようとする国が現れました。当時の大英帝国、今のイギリスです。パレスチナは第一次世界大戦(1914〜18年)が終わるまで、オスマン帝国が支配していました。戦争でオスマン帝国が敗れると、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、三つの一神教の聖地だったエルサレムを戦勝国が共同統治することになりました。しかし影響力を強めたかったイギリスは、ユダヤ人が国を持つことを後押ししたのです。1917年、イギリスのバルフォア外相の名前で短い宣言(この人の名前をとってバルフォア宣言として知られています)が、ヨーロッパにいるユダヤ人シオニストの団体に与えられました。「あなた方が、パレスチナに『民族のふるさと』をつくろうというなら、我が国は惜しみなく協力いたしましょう」というものです。
 狡猾なイギリスは「ユダヤ人の国」とは言いませんでした。「民族のふるさと=national home」と言ったのです。
 しかしもともと、そこに住んでいた人の多くはアラブ民族のパレスチナ人で、ユダヤ人は少数派でした。宗教的にはイスラム教徒が多くを占めていましたが、キリスト教徒もいました。そのため、ユダヤ人とパレスチナ人のあいだで、すぐに戦争になりました。他人の土地に踏みこんで国をつくったのですから当然です。それが今日まで続く、パレスチナでの戦いの始まりでした。
 
 
***つづきは単行本『14歳からの「移民」「難民」入門』でお楽しみください。***

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