ためし読み - 文藝
阿部和重 約十年ぶりの短編集『Ultimate Edition』刊行記念 全収録作解説インタビュー(9)「Set Me Free」
阿部和重
2022.11.02
十月二十五日、全十六作を収録した阿部和重の短編小説集『Ultimate Edition』が刊行された。初めて阿部和重を読む人に、阿部和重のこれからを読みたい人にうってつけの作品集。氏の作品を知り尽くすフィクショナガシン氏を聞き手に、この究極の一冊への扉として全収録作自作解説を十六日連続でお届けする。
「Set Me Free」
アメリカのボーカルグループ「The Three Degrees」の楽曲名
──お酒を飲めない下戸の人間の「上戸優位社会」への怒りがにじむ掌編ですね。
「これも二〇〇〇字で小説を書くという企画でした。動機としては、わたくし自身が下戸なんですね。ですから、酒を飲めない人間の憤りをそのままぶつけたような小説になってしまっています」
──それにしてはかなり大きな出来事が描かれていますね。
「どうしてそうなったのかはもう忘れましたが、下戸の人間は、それぐらいに大きな憤りを抱えているのだと見せたかったのかもしれません(笑)。なにゆえに、酒を飲める人だけが合法的にドラッグを許されているんだと。酒造メーカーからの広告の仕事がなくなる覚悟をもって書きました」
──そこからさらに、男性優位社会の温存という問題にも繫げていく。
「下戸の集団が社会に憤っているのですが、そんな連中もニュース視聴者に罵られ、さらにその彼も妻の憎悪の対象になっているわけです。そこは、うまくできたかなと感じています」
(つづきは明日3日公開)