
ためし読み - 文藝
阿部和重 約十年ぶりの短編集『Ultimate Edition』刊行記念 全収録作解説インタビュー(10)「Goodbye Cruel World」
阿部和重
2022.11.03

十月二十五日、全十六作を収録した阿部和重の短編小説集『Ultimate Edition』が刊行された。初めて阿部和重を読む人に、阿部和重のこれからを読みたい人にうってつけの作品集。氏の作品を知り尽くすフィクショナガシン氏を聞き手に、この究極の一冊への扉として全収録作自作解説を十六日連続でお届けする。
「Goodbye Cruel World」
イギリスのロックバンド「Pink Floyd」の楽曲名
──これもオチが効いています。少年の物語と思って読み進めると、意外な事実に突き当たります。読み始めたときには想像もできないような結末です。あなたにショートショートの才能がこんなにもあるとは驚きました。
「ホームレスの方々が街頭で売って、収益の一部を受け取れる仕組みになっている『ビッグイシュー』からの依頼で書いた一編です。『ホーム』をテーマに書くという企画でした。『ホーム』という言葉の受けとめ方は人それぞれ異なり、意味合いもさまざまです。わたくしはこの作品以外でも、一つのモノや言葉がもっている多義性を利用した小説を書いてきたところがあります。そういう部分を分かりやすく出せた作品ではないかと見ています」
──造語とか突飛な何かを創作するのではなくて、見慣れた言葉に対して思いがけない解釈を加えていく。そのことによって、多義性が生じてくるわけですね。そうしたひとつひとつの試みがこうやって単行本に収録されることで、テーマに沿って書き、誌面で掲載された初出とはまた違った意味を持つ気がします。
「そうですね。そうなればいいなと、本当に思いますね」
(つづきは明日4日公開)