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壮大な宇宙の中で、自分の心と向き合う 宇宙飛行士・山崎直子さんに聞く『ファースト・マン』の魅力 - 3ページ目

■メディアが作り出す華々しい宇宙飛行士像と、本人たちの意識とのギャップ

――月面着陸が成功すると「アメリカの英雄」と世界中で祭り上げられますが「ひとりの人間」なのだ、ということですよね。ニール・アームストロングは「宇宙開発でスポットライトが当たるのは宇宙飛行士だけれども、月面着陸はひとりで成し遂げたわけではないし、自分が月に最初に降り立った人間になったのも、たまたまだ」というスタンスを貫いています。

私も含めて、現場では「宇宙飛行士は宇宙開発に携わるごく一部」であり、宇宙飛行士はみな「われわれだけで宇宙に行けるわけではない」と思っています。ですからアームストロング船長だけでなく、すべてのスタッフ、それから家族まで含めた無数の人の力あっての「ファースト・マン」なんでしょうね。
アームストロング船長も、たとえ自分が月面に立たなくてもいずれ誰かが立っていただろうし、訓練中の事故で何人も盟友を亡くされる経験をするなかで「自分が死んでいてもおかしくなかった」とも思っていたはずです。


もちろん、とはいえ月に初めて降り立つというミッションに対して、名声やプレッシャーに惑わされることなく、また、燃料切れ寸前の危機的な状況でも興奮することなく冷静さを保って集中できた船長だからこそ、人類初の月面着陸があのタイミングで成功したのだとも同時に思います。
船長はアポロ11号の達成で注目を浴びましたが、その前のジェミニ計画の時代から宇宙船の実験にも携わっていらして、細かく挙げていくとキリがないのですが、実はひとつひとつの功績が大変に大きい方であることも付け加えておきたいところです。

 

――宇宙飛行士のメディアでの取り上げられ方と実際の現場での温度差を感じたことは山崎さんもありますか?

そうですね。やはりメディアでは宇宙飛行士に注目が偏ることが多いですよね。
ただ、最近は地上のフライトコントローラの方、管制官の活躍も見えるようになってきました。私が小学校で宇宙に関する授業を行うと「将来は管制官になりたい」「地上から宇宙で作業をする人を支える仕事をしたい」という子も最近では出てきて、嬉しく思っています。

 

■宇宙飛行士だからこそわかる『ファースト・マン』のリアルな宇宙描写

――原作本によると、ニール・アームストロングが月から大統領と電話することは当初予定になく、訓練もしていなかったそうですが、分刻みでスケジュールが進行する宇宙での作業にもかかわらず、そういったイレギュラーな事態が起こるのはよくあることなんでしょうか?

よくあります。宇宙に出てからもスケジュールはどんどん変わっていきます。たとえば宇宙で行う実験が予定よりも時間が長くかかったり、逆に短く終わってしまったり。私も、宇宙空間で長さ17メートルのロボットアームをちょうど操作し終わった際に、すぐに「地上との交信が始まる」と言われて急いで息を吐く間もなく中継が始まったりと、裏ではバタバタでした。
せわしないと同時に、映画ではアームストロング船長たちが月面に降りる際も、要所要所で立ち止まって「地上では準備はできているか?」とひとつひとつ確認しながら進みますよね。あれも、実際の宇宙でのミッションらしいと思えるシーンでした。
映画『ファースト・マン』は宇宙でのシーンがすごくリアルに作られていて、「ああ、こうだよね」と思い出すことが多かったですね。宇宙空間の本当に真っ暗な世界と、一方で太陽が当たっていることは非常にまぶしいという、その強烈な対比ですとか……。それから、どうやって撮影したのかわからないんですが、無重力に物が浮いているシーンもリアルですね。作中で描かれてるように、ちょっと押すだけで物がくるくる回ってしまったり、何かとぶつかるとすぐに自分の体のバランスも大きく崩れたりするんです。

 

次は:■宇宙開発の過去50年と、これからの50年を見つめる

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