文藝

百合でもシスターフッドでもない、名づけられない関係性 女性同士の支配と依存を描いた小説

第167回芥川賞候補にもなった注目の作家・山下紘加による最新作『煩悩』が刊行。本作の魅力を歌人の平岡直子さんが語る。   「煩悩」山下紘加 著 評者:平岡直子(歌人)    百合やシスターフッドと呼ばれる関係性が好きだ。女性同士が連帯し、無

「予測不能にして必然的なラスト」恋愛を手段に生き延びる女子を描く、気鋭の作家の最新作

気鋭の作家・日比野コレコによる文藝賞受賞後第一作『モモ100%』が刊行。本作の魅力を詩人の向坂くじらさんが語る。   「モモ100%」日比野コレコ 著 評:向坂くじら(詩人)    愛することはむずかしい。やっかいなことに、相手に向かう感情

『トップガン』にも描けない天才パイロットの物語 佐藤究・待望の新作を紹介

直木賞作家・佐藤究による最新作『幽玄F』が刊行。本作の魅力をドイツ出身で文筆や翻訳など幅広く活躍するマライ・メントラインさんが語る。  「幽玄F」佐藤究 著 評:マライ・メントライン(ライター)    『幽玄F』は超面白い、そして困難な物語

ブラックミックス・ゲイであることが隠した真実とは 注目作家の新作を移民者ラッパーが紹介

デビュー作が芥川賞候補、注目の作家・安堂ホセによる最新作『迷彩色の男』が刊行。本作の魅力を“移民者”ラッパーのMOMENT JOONさんが語る。  「迷彩色の男」安堂ホセ 著 評:MOMENT JOON(ラッパー)    『ジャクソンひとり』から「著

あの娘との時間を「闇」と呼べない、でも――芸能界で過ごした少女たちの物語を俳優が読む

作詞家としても活躍する作家・児玉雨子による第169回芥川賞候補作『##NAME##』が刊行。本作の魅力を俳優・映像作家・文筆家の小川紗良さんが語る。   『##NAME##』児玉雨子 著 評:小川紗良(俳優・映像作家・文筆家)   

新生児育児中に着想された小説『オレンジ色の世界』 妊娠中に死を間近に感じていた作家・谷崎由依が紹介

 『オレンジ色の世界』カレン・ラッセル松田青子訳 評:谷崎由依(作家)   妊娠していたときほど、死を間近に感じたことはない。命を身に宿しているのにおかしなことと思われるかもしれないが、わたしの感じていたのはその命の脆弱さだった。些細な(と普段であれば受け取れ

「人間をこんなふうに詰め込んではいけない 」東京の満員電車に異常さを感じたときの記憶が蘇った小説 作家・八木詠美が紹介

  『かっかどるどるどぅ』若竹千佐子著 評:八木詠美(作家)   はじめて東京の満員電車を見たとき、嘘だと思った。人間をこんなふうに詰め込んではいけない、きっと今の電車はどこかの学校が遠足のためにJRと約束をし、全校生徒を詰め込んだのだろう、と他県から来た小学

「弱い人間」がただ生きる物語――闘病中の 32 歳女性の視点で描いたマイノリティに対する社会の束縛

  『彼女が言わなかったすべてのこと』桜庭一樹著 評:竹田ダニエル(ライター)   我々が今生きている時代は、想像力が問われている。 主人公の小林波間なみまは、病気の治療をしているということ以外は「普通の三十二歳」。ある日、幸せそうな若い女性を狙った通り魔事件

ハンガリーで左手を移植した日本人男性の葛藤を描き、欧州の価値観浮き彫りに 皆川博子が激推しする小説

  『あなたの燃える左手で』朝比奈秋著 評:皆川博子(作家)   緊迫した場面から始まります。人物の行動が何を意味するのか、この段階では読者にはわからない。しかし引き込まれる。まず、文章に惹かれました。余計な説明は交えず、必要な事実を的確に、しかも魅力的に(こ

「公然不倫」中の母と暮らす娘が歩んだ青春……山崎ナオコーラが紹介する不思議な流れを味わえる小説

  『腹を空かせた勇者ども』金原ひとみ著 評:山崎ナオコーラ(作家)   ちゃんと生活して、たくさん食事して、行きたくて学校に通って、前を向いて人と関わっていく「陽キャ」の主人公。金原さんのこれまでの作品とはちょっと異なる風が、冒頭の数ページから清々しく吹いて

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