岸本佐知子が翻訳を切望した短篇集を、気鋭の20代歌人が読む
評者:初谷むい(歌人)
『五月 その他の短篇』アリ・スミス著岸本佐知子訳 評:初谷むい(歌人) あなたのすべてをわたしは知り得ない、という絶望がある。表題作「五月」は、次のようにはじまる。「あのね。わたし、木に恋してしまった。」 わたしたちの世界はひょんなことで線路のポイントが
2023.08.08文藝
評者:初谷むい(歌人)
『五月 その他の短篇』アリ・スミス著岸本佐知子訳 評:初谷むい(歌人) あなたのすべてをわたしは知り得ない、という絶望がある。表題作「五月」は、次のようにはじまる。「あのね。わたし、木に恋してしまった。」 わたしたちの世界はひょんなことで線路のポイントが
2023.08.08評者:深緑野分(作家)
『風配図 WIND ROSE』皆川博子著 評:深緑野分(作家) 人類という動物はなぜか、自分たちの半分を中心に社会を形成し権力を持たせ、もう半分は学問や権力に相応しくないとして、家庭や生殖の役割に縛り付ける。前者は男、後者は女である。 皆川博子の最新長編『風配図
2023.08.07評者:梅﨑実奈(書店員)
『うみみたい』水沢なお著 評:梅﨑実奈(書店員) 水沢なお「うみみたい」を説明するとき、〈反出生主義〉という言葉が力強く使われていたら、そうだけど、そうなんだけど、ちがうよね、と心に引っかかってしまうと思う。確かに主人公であるうみは、うみたいけれどそれ
2023.08.04桜庭一樹(作家)
自分はずっとずっと差別してきたと思う。 多くの場合、「心を痛めてはいるが、よく知らない事柄だから口を挟み辛い」として沈黙を選んできた。そもそもよく知らないんだから私は差別をしていない、という言い訳もしてきた。でも、知らないままでいる、知ろうとしないことも差別への加担だったんじゃないか。酷い時は、自
2023.02.28廣田龍平(文化人類学者、民俗学者)
十六歳の少女ふうかは父親と同じくらいの年齢のITベンチャーCEOである碧と同棲し、金銭的には不自由なく暮らしている。リビングルームには、碧が前に交際していた女性の制作したマネキンが置かれていて、それに見つめられながら、ふうかは「浮遊」というホラーゲームに没頭する。ゲームの主人公はふうかと同世代の少
2023.02.24橋本絵莉子(ミュージシャン、シンガーソングライター)
書評執筆のご依頼を受けてすぐに、ネットで書き方を調べました。普段から加納さんのエッセイを読んだり、Aマッソの漫才を見たりして、なんて頭の回転が速くてまっすぐな人なんだろうと思っていたから、そんな人が書いた本の書評が私に務まるんだろうかと、とても不安になったからです。 でも、新刊の発売をすごく楽しみ
2023.02.24上坂あゆ美(歌人)
短歌をつくるのが楽しかったことなど、一度もないのかもしれないということについて考える。私にとって短歌制作は、嘔吐をこらえながら自分の呪いを見つめ、ひたひたと泣く夜を乗り越え、なんとか形にする作業。どちらかと言えば快楽主義の自分が、なぜそこまでするのだろうと考えると、それはきっと私が、できるだけ鋭く
2022.11.15