枕女王

「枕女王」未瑠 4

「待ってくれよ。どうしても、中丸じゃなければだめなんだ!」放課後の屋上――篠原一馬演じる新庄俊が、中丸のり子演じる未瑠の腕を掴んだ。「篠原君って、最低」未瑠は、俊の腕を振り払った。「なんで、僕が最低なんだよ?」俊が、悲痛な顔で訊ねてきた。「本当に、わからないの?」「もしかして、ハンナのこと?」「もし

「枕女王」樹里亜 3

樹里亜 3黒革のソファに居心地悪そうに座った樹里亜は、パーティションの壁に囲まれたこぢんまりとした室内に首を巡らせた。壁沿いに設置されたスチール書庫には、ファイルがびっしりと並んでいた。背表紙には、「浮気調査」「素行調査」「結婚調査」「失踪調査」「借金調査」「盗聴器・盗撮器調査」「ストーカー調査」「

「枕女王」未瑠 3

放課後――スタジオセットの教室。「ハンナ。僕の気持ち、わかってるだろう?」新庄俊が、松井すずを壁際に追い込んだ。「涼の気持ちなんて知らない……」すずが、頬を膨らませ横を向いた。「子供じゃないんだから、拗ねるなよ」「拗ねてないもん。それに、まだ子供だもん」すずが、聞き分けのない幼子のように言った。「子

「枕女王」樹里亜 2

渋谷センター街の雑居ビルの五階――「梶田」の表札のかかったドアの前で樹里亜は大きく息を吐き出した。梶田は、「ギャルセレブ」の店長の名前だ。ここへきたいわけではなかった……というより、どちらかといえば嫌いな場所だった。だが、ほかに行くあてもなかったので、暇潰しのために結局ここにきてしまうのだ。「おつー

「枕女王」未瑠 2

「はやく、おいで。さあ、はやく」未瑠がバスルームから出てくると、既にベッドに仰向けになっている石田が手招きした。はだけたバスローブから、妊婦のように突き出た腹が醜く波打っていた。「電気を、暗くしてください……」ベッドサイドで佇む未瑠は、消え入るような声で言った。「ん? 恥ずかしいのか? かわいいねぇ

「枕女王」樹里亜 1

「おねえさん、ギャル誌の読モ?」プラチナブロンドの巻き髪、複数重ねたつけ睫、小麦色の肌、蛍光グリーンのタンクトップ、露出した臍に光るピアス……「109」の一階フロアのショップに入って三十秒もしないうちに、ギャル店員が声をかけてきた。ミルクティーカラーのロングヘアにブラウンのカラーコンタクト――ギャル

「枕女王」未瑠 1

「こっちに恋♪ 私の恋♪ はやく気づいて♪ 愛(あい)たいよ♪ 愛ラブユー♪ はやく気づいて~ こっちに恋♪ 伝えて恋♪ 私のこの想い♪ 愛(あい)たいよ♪ 愛ニードユー♪ はやく気づいて~」「宇宙一恋してる@君へ」――八十年代のアイドル風のメロディに載せて、未瑠は両手でハートを作り、流れる歌詞に口

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