単行本 - ノンフィクション

今年も8月12日がくる──。33年前 520人が犠牲になった日航機墜落、遺物の化学分析で判明した事実とは?

日航123便遺物は真相を語る_POPあの事故の背景に何があったのか──。

 

当時日本航空に勤務していた元客室乗務員が日航機墜落事故の真相に迫ったシリーズ新作、『日航123便墜落 遺物は真相を語る』(青山透子著)が発売されました。

9784309027111 2017年7月に刊行されたシリーズ第2弾『日航123便 墜落の新事実』は10万部を突破するベストセラーとなり、2018年5月26日 朝日新聞「売れてる本」でも紹介されました。本書はシリーズ第3弾です。

 

著者は、元日本航空国際線の客室乗務員。国内線勤務を経て国際線に異動した彼女の在職中に、当時単独機航空事故としては世界最大という、日本航空123便墜落事故が発生。殉職した客室乗務員たちは、新人時代直接指導してくれた先輩たち。当初、報道される事実を信じていた著者は、政府から発信される言葉に「事故原因究明」が無いことに疑問を抱き、続いて報道される記事や事故原因にも客観的に矛盾を感じていました。

 

その後職を辞し、航空業界などを目指す学生たちを指導する立場となって15年が経過した頃、受け持った学生たちが日航123便墜落事故のことをほとんど知らないという事実にショックを受け、改めて事故原因に迫るための調査に捧げる人生が始まりました。
徹底した聞き取り調査と丹念な物証の再検証を重ね、これは「事故」ではなく「事件」だという確証を深めていく著者。そして第1弾『日航123便墜落 疑惑のはじまり』(初版は2010年4月マガジンランド刊『天空の星たちへ』、その後『日航123便墜落 疑惑のはじまり』と改題して河出書房新社より2018年5月に復刊)、第2弾『日航123便 墜落の新事実』で積み上げられた事実に加え、今回の第3弾の今回は、さらに精度を増してこの事故の真相に近づいています。

 

たとえば
・当時の検死医が提出した資料を群馬県警が戻そうとしない。
例えば、乗員の衣服は大体残されていたが、機長の衣服はまったく見つかっていない。
・遺物である機体の一部を化学分析した結果、機体に含まれない成分が検出された。
その中に、化学合成オイルしか積載していない航空機であるのに、ベンゼンが検出された。
総合的に判断して、ベンゼンを成分とするガソリンを使う火炎放射器が使用された可能性がぬぐえない。
等、これまでの目撃証言などに加えて、さらなる分析・状況証拠を積み上げ、より具体的に真相に迫っています。
8月12日、墜落の日を前に、本書の冒頭を公開します。

 

改めて、この墜落によって亡くなられた520人もの方々、おひとりおひとりのご冥福を、心から、お祈り申し上げます。

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●上野村の桜の下で

 

また三十三年前のあの日が静かに近づいてくる。

上野村全体が薄紅色に染まる四月、地元で「仏乗桜」と呼ばれている樹齢約五百年のしだれ桜は、中正寺の境内にそびえ立ち、お寺の屋根瓦を桜色に染めていく。
その樹高二十五・二メートルの古木は、長く険しい年月を生き抜いてきた重みも感じさせず、そのしだれた枝は巨大な翼を広げ、まるで天空を舞う極楽鳥のごとくに見えた。

枝先の花々が風に揺れるたび、はらりと落ちる花びらに、私は一滴の涙を見た気がした。
その「涙」はあの日を忘れてはいけないと語りかけているようであった。
灼熱の夏に消えたあの人を想いながら、流す「涙」が一粒でもある限り、私たちは真実を追究し続けなければならない。
五百二十人ひとりひとりの人生が突然断ち切られ、残された家族の未来も止まったあの時。
蒸した夏の匂いがいつもあの日をよみがえらせる。
何年経っても衝撃的な記憶はずっと心に深く残り続ける。

 

なぜ、ファントム二機が墜落前の日航機を追尾していた事実を自衛隊は隠すのか。
なぜ、日航機の機体腹部付近に、赤い物体がくっついていたのか。
なぜ、上野村住民たちが真っ赤な飛行物体を目撃したことに注目しないのか。
墜落場所が不明という報道にもかかわらず、その日の夜のうちに自衛隊車輛や機動隊車輛が上野村に集結したのはなぜか。

 

これらの鮮明な記憶は唐突な発言でも曖昧なものでもなく、当事者が実際に見聞きしたことを記憶が生々しいうちに書き記したものである。三十三年間、真摯に向き合って取り上げる人がいなかっただけであり、これらの複数の目撃情報や疑問に対して「そんなはずがない」、「記憶が曖昧だ」、「あり得ない」といった批判をする人がいるが、自分が信じられないからといって否定する根拠にはならないだろう。

再調査を願ってきた遺族や、別の原因を追究してきた人たちに対して「別の事故原因を主張すれば、ご遺族の中で不快感を持つ人もいるのでやめるべきだ」という不用意な言葉を使う人もいる。そう思われるご遺族もいるだろうが、それで疑いを持つことに対して否定する理由には当たらない。それが逆に事故原因に疑念を持つ人が声を上げにくい環境を作ってきた言葉であるのは事実であり、特にジャーナリストや日航にいた人などが、この言葉を常套手段で使ってはならないのだ。

 

表面的には後部圧力隔壁破壊説を検証すると称し、事故調査委員会が出した結論と異なる見解を、何の検証もせずに異説や少数説、荒唐無稽説として否定し、そちら側に目が向かないように排除してきた人たちは、なんらかの意図をもって作為的に行っているとしか思えないほど欺瞞に満ち満ちており、それで民意を誘導しているつもりなのだろうか。

 

なぜならば遺族の方々は、運輸安全委員会(事故調査委員会が二〇〇八年十月に名称変更)による二〇一一年の解説書が出るまで事故調査委員会への質問の中に、墜落原因が異なる可能性についても検討してほしいと重ね重ね要請してきたのである。
もちろん、今もなお遺族の中には真相究明に執念を燃やしている人たちもいるのである。
私は信念を持って、死者の語りたくても語れない「声」を聴こうとし、見過ごされた人びとの想いを伝えて世に問うているのである。誰もがこの問題を避けてきた事実は明らかだ。

 

昨年、前著『日航123便 墜落の新事実』(以下、『墜落の新事実』と略記)において、さらなる目撃情報や新たな墜落原因の可能性について調査をした結果を提示した。案の定、火消しのように運輸省事故調査報告書を擁護する本が慌てて出版されたが、すでに事故調査委員会の出した不確かな結論を、いまさらながら補強する必要性などないはずだ。三十三年前で止まっているその人たちの情報量と、今日まで長い年月をかけてコツコツと小さな目撃証言や証拠物の調査を積み重ねてきた結果、別の視点でこの墜落事件を取り上げることになる筆者の情報量とは大きな差がある。

 

この事件は単独機として世界最大の犠牲者を出したのであり、五百二十名の失われた命を考えれば、たとえ三十三年間の事実を積み上げてきた結果が事故調査報告書と異なるものになったとしても、それを一括りにして「陰謀」という安易な言葉を用い、事実を否定する根拠は何処にもないのである。

 

いつまでたってもこういった発言を繰り返す人の心根は一体何だろうか。
真実が明らかになることへの焦りとしか思えず、おそらく真の墜落原因が明らかになれば不都合が生じる組織や、当時の関係者の必死の抵抗なのだろうが、逆にこういう人が出てくるからこそ、そこには不都合な事実があるとしか思えない。

 

そのような中で、私の調査結果について「まさかそんなはずはない」と言わなかった人たちがいる。私がお会いした元自衛隊員たちや、零式戦闘機搭乗員の訓練を受けた直後に終戦となり、自衛隊を経て日航機長となった信太正道氏、海軍少佐で零式戦闘機教官だった上野村村長の黒澤丈夫氏である。日航123便の検死担当医師がまとめた「ご遺体状況一覧表」に書かれた内容からは、明らかに武器燃料を被ったのではないかと思われるのだが、自衛隊の武器が関係している可能性があるのではないだろうか、という私の見解について「なるほど」と納得していただいた。実際に戦闘機に乗って戦う訓練を受けた人間や、レンジャー過程を修了した特殊隊員のようなスペシャリストで、過酷な戦闘訓練の経験を重ねた人のほうが、そういうことはあり得ると思った、ということになる。

 

つまり、経験のない部外者や都合の悪い部内者がとやかく言える次元のことではなく、そのような人たちの勝手な憶測による否定などは、真相を明らかにするのに障害こそあれ、何の役にも立たないのである。

 

その不都合な事実は、ほんの一部の人間にとって不都合なだけであって、事実を表に出して市民全体が情報を共有しなければ、罪を消し去ろうとする勢いを止めることはできない。

 

さらに情報の不透明さは誤った判断を生じさせ、偽りの土台の上に立つ決断は、未来をゆがめる。あっという間に無知な愚衆が多数となり、相手国を思う想像力と罪悪感が欠落し、戦争へと向かったのは歴史が証明している。

 

当然のことながら公開される公文書は、公務員が国民のために責任を持って作成した正確で正しい内容でなければならない。それが意図的に上司や権力者側にすり寄って改ざんされていた場合や、文書そのものが不存在の場合は民主主義の根幹を揺るがしかねない。
信憑性のないような公文書で私たちはどうやって正しい判断ができようか。
情報を遮断して脅威を煽り、権力者を祭り上げて利益を得ようとする人たちは、いつの世でも出没してくる。誰も生データなどの証拠資料を公表しないのをいいことに、新事実を否定して隠蔽しようとする人物の存在があるとするならば、それは許されることではない。そのためにも情報を公開していかなければならず、さらに冷静に一つずつ検証していかなければ事の真相にはたどり着けない。

 

こういう世の中において、今こそ事実を詳細に伝えなければ本当の意味での航空機墜落の再発防止などは望めず、国の未来まで捻じ曲げられると懸念して、私は本著を書かざるを得なくなったのである。

 

一体あの時、何が起きていたのか。
それにはまず、一九八五年八月十二日にあの事件が起きる数日前、一体どのようなことがあったのか、当時の防衛庁自らが発表した自衛隊の訓練の動きを追ってみたい。

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続きは『日航123便墜落 遺物は真相を語る』(青山透子著)でお読みください!

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