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選挙前だからもう一度考えたい! 【2日連続公開・第2回】民主主義ってなんだ?(高橋源一郎×SEALDs)試し読み

いよいよ7月10日は参議院選挙。皆さん、投票の準備はできていますか? 去年国会前デモで注目を集めた学生団体SEALDsは現在、夏の選挙に向けて活動を展開しています。そして最新刊『民主主義は止まらない』、またSEALDs創設メンバー・奥田愛基さんの初の書き下ろし単行本『変える』が間もなく発売。
今回は、2015年9月に発売され、ベストセラーになった、前著『民主主義ってなんだ?』の一部を2日連続で公開する第2回。

第1回はこちら

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高橋源一郎×SEALDs『民主主義ってなんだ?』

試し読み 第2回
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高橋:高橋源一郎
牛田:牛田悦正(SEALDs)
奥田:奥田愛基(SEALDs)
芝田:芝田万奈(SEALDs)
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「#本当に止める」誕生
高橋 SASPLが終わって、SEALDs結成が五月。それからまだ三ヶ月くらいしかたってないんだね。
牛田 そうですね。だから激動ですよ。恐ろしい。もう五年くらいたってる感じがする(笑)。
奥田 SASPLでの初めてのデモが終わって解散したときは、「またやろうな!」とか言ってたんですよ。そしたら帰りの電車でこいつがまた「勉強したい」だの「あいつはクソだ」だの「二度とやらない」だの文句ばっかり(笑)。なのに四月に入って「デモやるって言ってたよね? やったほうがいいよ」とかしれっと言ってくるんですよ。けっきょく五月三日にやるかやらないかになって、ドタバタで、集団的自衛権の閣議決定のときもやるって二日前に決まったんですよね。
高橋 SASPLやSEALDsはどうやって連絡とりあってるの?
奥田 LINEのグループがあっていつもそこで皆でやりとりしてます。今は百八十人くらいだけど、昨年の五月の時は三十人くらい。でもそのときはみんな責任をとりたくないから「五月三日にデモあるらしい」って言うんですよ。
牛田 探り探りなんですよ。「やる」って言った奴がやらなきゃいけなくなるから(笑)。
奥田 「お前、空いてるの?」「俺、ちょっとわかんない」って(笑)。十月二十五日と十二月だけは、やっとこれでもうやらなくていいって感じだったんだけど、終わってみたら俄然やる気が出ちゃって(笑)。案の定ですね、五月三日にSEALDs立ち上げってずっと議論してやってるのに、いざ四月になってみるとみんな「本当にやんの?」って。
高橋 ずっとSEALDsをつくる話をしてたんでしょ?
芝田 でも二月三月はずっと辺野古に行ってて。
奥田 みんな沖縄に行くって。SEALDs RYUKYUを立ち上げた人も行ってましたけど。沖縄に行く人もいれば、こもって勉強する人もいれば、卒業していなくなる人もいれば。そんなこんなでミーティングしようってなっても、来たのは四人くらいだった。
牛田 それでまた僕がキレる(笑)。「ミーティングするっつったのに、なんで四人なんだよ!」って。
奥田 キレてたよね。「しょうがないじゃん。SASPL解散するって言ったし、SEALDsだってまだ何するかわかんないんだよ」ってなだめたりして。
牛田 テーマとしてはずっと「ワンス・アゲイン」があるんですよ。一回一回終わっちゃう、そしてまた始まる。それが逆にいいなと思っていて、他の人とも共有してるつもりになってたんだけど(笑)。アキの「民主主義が終わってるなら、始めるぞ」って名言があって。つまり一回一回終わって始まる。継続して「諦めない! 諦めない!」ばかりだと擦り減っていくと思うんですよ。それがないから「またやるか!」ってできる。
高橋 それで五月三日のSEALDs結成イベントをやったわけだ。
奥田 でも、五月三日はみんなテンションだだ下がりですよ。デモに二千人来て、新聞の一面になったときはすごい高揚感があったのが、もう「あれ、何すんだっけ?」みたいな。完全にクールダウンしてた感じ。
芝田 もうデモはしない団体になってた。みんなで勉強する団体になるらしい、みたいな(笑)。
牛田 これからはアーティストとかも呼んじゃって、適当にイベントやろうよ、みたいな。
奥田 まあ、緊急時とかだけは官邸前に集まろっか、って。そういう緩い感じ。急激に優等生になるというか、「俺たち、もう若くないし、サウンドカーでデモはツラい」みたいな(笑)。
牛田 正直、SEALDsの発足は二〇一六年夏の参院選に向けて考えていたんですよ。だから長期のものとして考えてたのに、安保法制のせいでこんなことになってしまった。
奥田 五月三日の約二週間後、十四日に閣議決定があって。そのときもSEALDsで抗議をやるって決まってなかったんですよ。でも十四日の朝五時に、ツイッターの個人アカウントで「あんまり腹立つから官邸前で抗議したい」ってついつぶやいたんですよ(笑)。
牛田 アキがやっぱムカつくから一人でも国会前に行くって言い出した。全然みんなやる気なかったのに、こいつが言ったらワサワサ集まってきて、結局千五百人くらい集まったよね? 鶴の一声ってこういうことか、アキ、めっちゃかっこいいなって。
芝田 牛田くん、感動してたよね。
奥田 いろいろあったけど、一年たったらこれかよって思ってたんですよね。学校も卒論とか忙しいし、ぶっちゃけ安保法制が審議されだしたら、またデモとかに行けばいいやって思ってた。でも朝五時くらいにやっぱムカついてきちゃって。
牛田 その日、朝四時くらいに俺ら電話してたんだよね。
高橋 仲いいね(笑)。
牛田 朝まで電話で話しちゃうんですよ、三時間とか平気で(笑)。俺が「行かないよね」って言ったらアキが「どうしよっかな」って言い出して、「バカだろ、お前」とか言ってたんですけど、「やっぱ行くわ」ってなって。
芝田 しかも学校行く前の朝行くってね。
奥田 その日は三限か四限だったんで「夜七時に官邸前行きます」ってツイートしたあとに「ムカついてるので学校行く前に官邸前にも行きますよ」って。とりあえずそのまま朝行って、また夜に行ったら二千人くらい人がいて「お、待ってたよ!」みたいな感じだったんです。
高橋 そのときトラメガは?
奥田 持ってる奴が一人だけいて、そいつに朝借りてそれから学校に行った。さすがに学校に持って行くのは恥ずかしくて、ロッカーに入れてたんですけどね。そのときはもう「アキが行くなら行くわ」って人がけっこういたかもしれない。
牛田 俺そのときも行ってないんだよね。
高橋 なんで?
牛田 バイトで(笑)。
芝田 またちょうど木曜日だったんだよね。牛田くんは木曜バイトだから(笑)。
高橋 じゃあ五月十四日の夜が、いわばSEALDsの実質的なスタートだね。
奥田 その日初めて俺、読売新聞に載りました。「なんで参加したんですか。どうして興味をもったんですか」ってコメントを求められた(笑)。初めて官邸前で抗議をして、その後の六月から毎週金曜日にやろうとなった。
芝田 その頃はまだ毎週やるとか決めてなくて、月一回くらいでいっかって感じだった。
奥田 あのときは六月中旬採決、六月末か七月には参議院決まりって見通しだった。じゃあ六月中旬から七月にかけてやろうかって言ってたんですよ。でもスケジュールを見てたら怒りが込み上げてきた。
高橋 奥田くん、けっこうエモーショナルなんだなあ(笑)。
奥田 集団的自衛権の時も、通る一週間前から四万人集まってたらもっとすごかっただろうなって思ってたんですよ。だから、もう六月五日からやっちゃおうってフライヤーをつくってたら、ちょうど小林節さんとか長谷部恭男さんが国会で答弁して。
高橋 あれが六月四日だったよね。
奥田 あれでメディアが一気に盛り上がって、そこに俺が怒ったタイミングが重なった。ちょうど三日の夜にフライヤーをつくっていて。
高橋 この「本当に止める」っていうコピーは奥田くんがつくったんだね。すごいね。
芝田 これは思いつかなかった。朝五時くらいに「考えた」とかLINEで言ってきて、意味がわからないから「本当に止めるとは?」って送っちゃった(笑)。
奥田 日本語としてよくわかんないもんね。普通は「絶対に止める」とかでしょ。
高橋 「本当に止める気でやる」とかね。
芝田 いろんな人と話して考えてたんだよね。
奥田 いろいろLINEでも議論があったけど、一周したら「本当に止める」が日本語的にいちばん変でいいなって。
牛田 これがすごい力をもってると思ったんですよね。
芝田 今になったらほんとにそうだよね。
奥田 「絶対に止める」だと日本代表みたいで、絶対に負けられない闘いみたいで嫌だなって。絶対のほうが噓っぽいんですよね。
高橋 「本当に」は気持ちが入ってるからね。
奥田 そう、俺が止めたいから(笑)。朝五時に「本当に止める的な」ってメモに書いてバタッと倒れて起きて、「的な」を消した。でもこれは絶対に反対されるだろうなって思ったんですけど。
芝田 (LINEの履歴を見ながら)そうそう、六月三日に私が「本当に止めるとは?」って送ってる。「やっぱりそこ気になりました?」ってレスが来てるよ(笑)。
高橋 フライヤーはいつもどうやって決めるの?
奥田 キャッチフレーズとかみんながだいたいの方向性決めたら、あとはデザイン班が決める。
高橋 反対があるときもあるよね?
奥田 「本当に止める」はけっこう反対がありましたね。
芝田 けっこう揉めた。
高橋 最終的な決定システムは?
牛田 「まぁいいか」って人と、「これいいよね」って人と。
芝田 けっこう適当。
高橋 投票じゃないの?
一同 違います。
高橋 いいね(笑)。
奥田 LINEでなんとなく決まってく。
牛田 もう時間が迫ってるので「もうこれしかない!」ってなる(笑)。
奥田 だからその後国会の様子を見て、いけるかもって思った。西谷先生に「だってあのとき誰も止められると思ってなかったけど、君たちが止めるって言ってるのを見て『本当に止められるの?』ってみんなついてくる」って言われた。
牛田 信じるっていうか、賭けちゃうっていう感じ。
高橋 言葉の呪術的な力だね。
奥田 「戦争をしないこの国が好きです」とかポエムみたいなやつもつくってたんですけど却下されたりもして、一周回って「本当に止める」に帰ってくる。で、六月四日にリリースできて、六月五日に国会前。
牛田 そのときにアキが「二〇一二年の反原発運動は、毎週金曜にやることで広がっていったんだ」って言ってました。
奥田 場所をあっためていくっていうか。
牛田 でも六月からやるって、「早くね?」って思ったけど。
奥田 そしたらなんと一回目で小林節さんが現れるというね。突然出てきて、傘持って。
芝田 ちょうど梅雨なんですよ。しかも六月の金曜は毎週雨降ってて、半泣きになりながらやってた。

毎週の国会前抗議、スタート
奥田 俺、毎週雨でビシャビシャだった。でもマイク持ってたら昂っちゃうんだよね。
牛田 そのくせ「俺、感情ないかも」ってツイッターでつぶやいてたじゃん(笑)。
高橋 よく言うよ(笑)。
奥田 冷めてるところもあるんだよ。俺が生きてくことのほうが大事だから、何かあったらSEALDsいつでもやめるわって思ってる。
牛田 そうなの? この人、SEALDsに骨埋めますって人かと思ってた。
奥田 お前と同じだよ。バイトがあったら行かない(笑)。
牛田 俺もめっちゃ激しくコールしてるときとかも、心めっちゃ冷めてる。
高橋 でも国会前は一回も休んでないの?
芝田 ないですね。今週が十一回目です。
牛田 一度「今週はゼミのコンパがあって蕎麦食べに行くから」って言ったら……。
奥田 キレたよ(笑)。
芝田 私もガチギレ(笑)。
牛田 アキが泣いて「なんでだよぉ!」って言うから、「じゃあコンパやめるわ」ってなったんです(笑)。
奥田 ちがうよ。「コンパ行ってもいいか、どう思う?」ってお前が訊いてきたんだよ。
芝田 みんな、「知らねぇよ」って(笑)。
奥田 初めは地味に「国会前も大事だと思うよ」とか返してたんですよ。ちょうど衆議院を通るかもって言われてた日なんですよ。集まるのに超大事な日じゃないですか。それなのにコンパ行くっていうから。
芝田 びっくりした。
奥田 「じゃあ、六時から七時までは抗議やって、七時半くらいからコンパ行ったら? コンパは十一時過ぎとかまでやってるでしょ」って努めて冷静に言ったら、「でもさぁ、俺が企画してて、蕎麦食いにいくんだよね」とか言うんですよ。金曜日の抗議の後で、こっちは声もガラガラで放心状態なのに、なんでこんなどうでもいいことで頭使ってるんだろうって(笑)。とうとう俺がガチギレしたら、こいつ最後に「アキ、最近感情的じゃない?」ってさらっと言うんです。
芝田 ありえない(笑)。
奥田 それ以上キレるにキレらんないし、知るかよ自分で考えろよって泣きながら。
牛田 で、結局僕は蕎麦を食べてから、ゼミ生をたくさん連れて国会前に行きました(笑)。
奥田 いっつもこいつに泣かされるんですよ。
牛田 SASPL終わったときもね。
奥田 ガン詰めしてきて、「お前、政治家やりたいの? 俺はお前とちがうから」とか言われて。「お前は友達をデモのために犠牲にするんだな」って言われたよ(笑)。
牛田 今はリスペクトしかしてないです(笑)。
奥田 毎回それ言うよな(笑)。
牛田 デモの神だから(笑)。
奥田 ないわー。
芝田 六月中は抗議の後に飲み会してました。今はもうそんな元気がないです(笑)。
奥田 朝までボウリングやったりしてたよね。
牛田 今週やる?
奥田・芝田 やらないよ……。
奥田 でもキャンプ行こうよ、今度。
牛田 空きが今週末しかないよ。キャンプより海行きたい。
芝田 ずっと言ってるよね(笑)。
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SEALDs新刊情報
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9784309247632.IN01民主主義は止まらない』SEALDs
「国会前デモ」から「選挙」へ。SEALDsの現在。そして今夏、解散……!?
対談:小熊英二/内田樹
【初回出荷限定・参院選2016ブックガイド付き】

 

 

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9784309024714.IN01変える』奥田愛基
「失われた20年」に生まれ、育ってしまった新世代の旗手による、怒りと祈り。
いじめ、自殺未遂、震災、仲間たちとの出会い、そして……
SEALDs創設メンバー、23歳のリアル。
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著者

高橋源一郎

1951年、広島県生まれ。明治学院大学教授。81年『さようなら、ギャングたち』でデビュー。『優雅で感傷的な日本野球』で三島賞、『日本文学盛衰史』 で伊藤整文学賞、『さよならクリストファー・ロビン』で谷崎賞を受賞。他の著書に『「悪」と戦う』『ぼくらの民主主義なんだぜ』など。

SEALDs

2015年5月3日に結成された、10代〜20代の大学生を中心としたグループ「自由と民主主義のための学生緊急行動」〈Students Emergency Action for Liberal Democracy-s〉。15年夏、安保関連法案に反対する国会前抗議を毎週金曜日に主催し、大きな注目を集める。現在は参議院選挙に向けて、活動を展開中。
http://sealdspost.com/

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