単行本 - 人文書

徹底討議!この国はいったいどこへ行くのか──

いま、〈日本〉を考えるということ

木村草太:編
山本理顕:著
大澤真幸:著

さまざまな局面で積年の論点が噴出した観のある昨今、いったいこの国はどこへ行こうとしているのか――。建築学、社会学、憲法学の3つの観点から、今日の日本の課題を徹底討議。
 
目次
Ⅰ シンポジウム
はじめに◉木村草太
住宅の起源から考える◉山本理顕
憲法は細部に宿る――テロ・家族・緊急事態◉木村草太
現実をどう乗り越えるか◉大澤真幸
【鼎談】山本理顕×大澤真幸×木村草太
〈日本〉をどう見るか、これからどう生きるか
Ⅱ 論考
1933―2016◉山本理顕
日本人の空威張り◉大澤真幸
地域社会圏と未来の他者
――山本理顕と大澤真幸の好奇心を引き受ける◉木村草太
【補論】
公共建築における創造と正統性
――邑楽町建築家集団訴訟の示唆◉木村草太

おわりに◉木村草太
 
ーーーーーーーーーー
 
はしがき
木村草太

 

「建築家と社会学者と憲法学者。何の関係もなさそうな異分野の三人が集まったところで、いったい何ができるって言うんだ?」そんな声が聞こえる気がする。

「何ができたのか」、「本として成功しているのか」は、各自で本書をお読みになり、ご判断願いたい。ただ、これだけはお伝えしておきたい。本書は、行き当たりばったりで生まれたものではない。私が一〇年来温めてきた企画なのだ。

私は大学卒業後、山本理顕先生と大澤真幸先生の業績をそれぞれ独立に研究し始めた。憲法学とは遠く離れた分野に見えるが、両先生の社会科学者としての人間分析・社会分析の鋭さに強く惹かれたのだ。そして、とあるきっかけで山本先生の仕事場に伺ったとき、書棚に大澤先生の著作が多数並んでいるのを目にした。

文献の中で相互に言及する箇所があるのは知っていたが、それは、優れた建築家の一人、あるいは、優れた社会学者の一人として、言及されているようにも思われた。しかし、その書棚を見たとき、両先生の作品には共通する思想があるのだと感じた。両先生に直接の接点はなかったようだが、それぞれの論文を通じて、互いに議論を交わしているように感じられることもあった。

私はその時から、超一流の感性、知性、そして好奇心を持つ両先生と議論ができたら、きっと素晴らしい企画になるだろうと夢見てきた。そのような中、河出書房新社の藤﨑寛之氏から、創業一三〇周年記念企画のお話を頂いた。そして、三人でシンポジウムを開催した上で、それぞれ執筆した論文をまとめるという本書が実現した。

本書は、二部構成になっており、第一部は、シンポジウムの報告と討議のまとめを、第二部は、両先生と私が執筆した論文を掲載している。

シンポジウムは、二〇一六年一月二三日に開催された。山本理顕先生が、アレントの議論を参照しながら、古代ギリシアから近代の居住空間のありようを検討している。私は、「神は細部に宿る」という概念から、両先生の議論をつなぐ報告を行い、大澤真幸先生は、既に破局が起こった未来の時点から今を見る、という大胆な構想を提示している。引き続く討議では、家族モデルや現代宗教といったテーマを検討した。特に、アイロニカルな没入という概念を掘り下げるところで、三人の議論は盛り上がる。

山本理顕先生の論文「1933─2016」は、住宅とコミュニティを建築の視角から分析し、「1住宅=1家族」の構想に批判的な検討を加えている。批判的検討を建設的に行うのは案外難しい。現状に問題があることを指摘しつつも、ではどうすればよいのか、という問いに答えてくれないものも多い。場合によっては、行き場のない悪口で終わってしまうこともある。しかし、山本先生は、明るく前向きな卓越した建築家である。この論文では、今後、どのような住宅を建築すればよいのか、きちんとビジョンを示してくれる。

他方、大澤真幸先生の論文「日本人の空威張り」は、経済力も国際的影響力も弱まりつつある近年の日本で、なぜか国家への自信の回復が生じる、という不可解で不気味な現象を分析している。このような現象を分析すれば、普通は、「自信を回復させている場合ではない」という暗い結論になるところだろう。しかし、大澤先生は、鋭く前向きな卓越した社会学者である。日本人がどのように自信を回復させるべきかまで、きちんと提示してくれる。

私の論文「地域社会圏と未来の他者」は、山本先生の新しい住宅ビジョンを、大澤先生の社会学理論の観点から分析し、そのビジョンのどこがどう優れているかを検証している。また、その検証を通じて、大澤社会学の中核にある他者概念の理解を深めようと試みている。この論文は、私の憲法学の核となる思想を形にするものとしても、非常に重要な意味を持っている。

続く、補論「公共建築における創造と正統性」は、私が山本先生と交流を持つきっかけとなった邑楽町建築家集団訴訟を憲法学の観点から検討したものである。首都大学東京法学会雑誌四八巻二号(二〇〇七年)が初出で、執筆後の和解文を紹介する補足を付して、掲載している。

私は、本書の特徴は「明るさ」にあると思う。

社会問題を前に、眉間にしわを寄せて難しい顔をしていると、何となく思慮深い、偉い人のような雰囲気を醸し出せる。他人に敬われたい人にとっては、そうした態度はかなり有効だ。しかし、それでは、社会にとっては何の役にも立たないだろう。

難しい社会問題に出会ったときに必要なのは、今ある課題を明晰に認識することだ。課題が明確になれば、解決のための方向性も明確になる。本書の各論稿を読んでいただければ、明るくすっきりした気分になれるはずだ。

ぜひ、楽しく、前向きな気持ちで、読み進めてほしい

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著者

【編著】木村草太

1980年生まれ。首都大学東京法学系教授。専攻は憲法学。『平等なき平等条項論』『憲法の急所』『キヨミズ准教授の法学入門』『憲法の創造力』『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』など。

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