単行本 - ノンフィクション

荒野を走って過ごすことで知った、人間の驚異的な生命力と人生のすばらしさ!

『ぼくは原始人になった』
マット・グレアム/ジョシュ・ヤング 著
宇丹貴代実 訳

腰布にサンダルというスタイルで狩猟採集生活を始め、荒野を走ることで知った、人間の驚異的な生命力と人生のすばらしさ!20年にわたり原始的な狩猟採集生活をおくり、58日間で2700kmを走り、山岳レースで馬と速さを競うなど、数々の驚くべき体験を通して、著者が考え、学んだこととは?大地を信頼し、自然を理解することで得られる心の平穏や健全さとは?大自然と絆を結ぶための20章!

 

【訳者あとがき】

世界屈指の岩壁にロープなしに単独で挑み、標高三〇〇〇メートル超のトレイルを最小限の装備で何日間もひた走り、灼熱の砂漠や雪に覆われたグランドキャニオンを歩いて越える……映画の一シーンのようなこうした冒険に、一度は憧れた読者も多いのではないだろうか。
本書〝Epic Survival:Extreme Adventure, Stone Age Wisdom, and Lessons in Living from a Modern Hunter-Gatherer〟の著者にして語り手のマット・グレアムは、前記の冒険のほか、原野でひとり半年間の自給自足生活を送ったり、山岳レースで馬と速さを競ったり、アリゾナ州から七〇〇キロあまりの距離を歩いてユタ州の自宅へ帰宅したりと、数々の驚くべき体験を披露している。その超人的な身体能力もさることながら、精神力の強さ、大自然への畏敬の念と愛情の深さには目をみはるものがある。彼はいったい何者で、どういう人物なのだろうか。
マットは現在、四〇代なかば。二〇一四年から一五年にかけてディスカバリーチャンネルの人気番組『デュアル・サバイバル(Dual Survival)』に出演し、アメリカ陸軍特殊部隊群の隊員だったジョー・テティとともに過酷なサバイバルを次々に実践してみせ、そのワイルドで精悍な顔立ち、持ち前のユーモアと独特の感性、豊富な実用知識で数多くのファンを得ている。彼の名前をネットで検索すれば、たとえば弓矢で野生の動物を狩る場面、ヒヒの群れに襲われそうになって岩山の崖をロープ一本でおりていく場面、履き物やナイフを手作りする場面、簡単な道具で迅速に火を熾す場面などが、さまざまな動画で観られるはずだ。
テレビ初出演は二〇一三年、同じくディスカバリーチャンネルのリアリティ番組〝Dude, You’re Screwed〟だったが、それ以前は、アトラトルや火熾し等の原始生活スキル分野、トレイルランやクライミングといったアウトドア分野の仲間うちでたぐいまれな能力が知られていただけで、本国アメリカでも一般の人にはほぼ無名だったらしい。
本書は、そんな彼が大自然といかに関わってきて、何を考え、どのような暮らしを送っているのかを語った本だ。サバイバル関係の書籍というと、詳細なテクニックや知識を並べたマニュアル、ハウツー本が多いし、読者側もそういうものを期待する。だが本書は、個々のスキルや情報を文章で詳述するよりも、個人的な経験とその背景となる精神のありようを綴った自伝的要素の強い内容となっている。自分が歩んできた道筋を示すことで、読み手に何かを学びとってもらおうとするスタイルだ。手引書はあくまで大まかな指針であって、サバイバルに本当に必要なのは観察眼と考える力と大地への信頼だ、という彼独自の信念が貫かれている。
もちろん、書かれている内容のすべてにうなずけるわけではない。自然界には病原菌が存在しないので自分は病気にかからないとか、いくらなんでも言いすぎと思える主張が見受けられるうえに、「自慢する気はさらさらない」「謙虚な心持ち」と述べつつ強い自負心が見え隠れするのが気になる読者もいるだろう。そもそも、マットの生活スタイルは万人がまねできるものではない。だれもが彼みたいな身体的、精神的能力に恵まれてはいないし、万人が同じことをやったら、まちがいなく環境破壊につながってしまう。個人として生態系のバランスにいかに気をつけていようと、大勢の人間が原野に繰り出して鳥の巣から卵を失敬したりネズミやリスを罠で捕まえたりしたら、これらの種が絶滅しかねない。排泄物や焚き火の始末に関しても、同じことが言える。ある意味、管理された人工的な都市空間に大多数の人間が閉じこめられているからこそ、原野の生態系がなんとか保たれているのだろう。
とはいえ、本書の語りには、テレビ番組で人気が出た一因であろう、真摯で無邪気で愛嬌たっぷりなマットの性格がにじみ出ている。並はずれた体験談や独特な生活スタイルをただ読むだけで愉快な気持ちになる。それより何より、原野に足を踏み入れて大自然と絆を結ぼう、というマットの呼びかけには抗いがたい魅力を感じる。たとえ彼と同じことをしなくても、たとえば裏山をほんの数十分歩くだけで、彼の言わんとすることがなんとなくわかってくるのだ。
自然と触れあう魅力をすでに知っている人も、野外活動の何がおもしろいのかさっぱりわからないという人も、ぜひ本書を手にとって楽しんでいただきたい。

二〇一六年九月

宇丹貴代実

 

【目次】
序──手つかずの自然の中心にて
第1章 黄金の日の出
第2章 ふたつの世界にまたがる
第3章 思うがままに行動する
第4章 〝筋肉頭のマット〟
第5章 古代の健脚な使者たち
第6章 極限まで走る準備
第7章 カリフォルニアを走る
第8章 馬なみの壮健さ
第9章 自分の居場所を見つける
第10章 人といかにかかわるか
第11章 わが家への長い歩き旅
第12章 原始時代のいでたちで歩く
第13章 ひとりで過ごす
第14章 死の瀬戸際
第15章 幻覚(ルビ:ヴィジョン)とヴィジョンクエスト
第16章 冬至から夏至までの旅
第17章 サバイバル道具
第18章 食べ物と絆を結ぶための狩猟
第19章 〝シュライバル〟を教える
第20章 裸足で原野を走る
謝 辞
訳者あとがき

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著者

マット・グレアム

10代から狩猟採集生活を送る冒険家。ディスカバリーチャンネルの人気番組『デュアル・サバイバル(Dual Survival)』に出演し、多くのファンを得ている。

ジョシュ・ヤング

エンターテインメント、スポーツ、ビジネス、科学、政治など、多岐にわたるジャンルを手がけるライター。共著のうち5冊がニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリストにランクインしている。

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