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「ある映画が「メインストリーム」だというとき、それは「白人がそれを好き、あるいはそれを制作した」という意味だ。」アディーチェ自身が朗読した『アメリカーナ』日本語訳を公開します。その3
チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ くぼたのぞみ訳
2020.07.04
ナイジェリア・イボ族出身の作家 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェが、自身のInstagramで自作『アメリカーナ』の一部を朗読、瞬く間に総再生数127万回を突破、世界中で話題を呼んでいます。
アディーチェは『半分のぼった黄色い太陽』、『なにかが首のまわりに』など傑作を次々発表、オー・ヘンリー賞、オレンジ賞、全米批評家協会賞など数々の栄誉に輝きました。
また2012年のTEDxトークイベント『We Should All Be Feminists(日本語訳『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』が公開されて以降は、作家の枠にとどまらない現代のオピニオンリーダーとして活躍。今や彼女の言葉は世界中から待ち望まれています。
『アメリカーナ』はそんなアディーチェがアフリカ人の作家として初めて全米批評家協会賞を受賞した作品。
主人公はナイジェリアから渡米してきたイフェメル。アメリカでイフェメルは、初めて自分が「黒人」なのだと「人種」を知ります。「レイスティーンス、あるいは非アメリカ黒人によるアメリカ黒人(以前はニグロとして知られた人たち)についてのさまざまな考察」というブログを立ちあげ、それはスポンサーがつくほどの人気ブログに。絵に描いたような成功者となった彼女。でも……というお話。
6月4日、アディーチェは自身のインスタグラムで自作『アメリカーナ』のそのブログ部分の朗読を公開。#Black Lives Matter で揺れる世界のなかで大きな共感を呼び、2013年の作品ながら本作は再びベストセラーリストに浮上しています。
彼女の意思に敬意を表し、朗読部分の日本語訳(翻訳=くぼたのぞみ)を4回にわたり全文公開することを決定しました。今回は第3回「非アメリカ黒人のためのアメリカ理解── 物事の本当の意味を伝える二、三の説明」をお届けします。 #BlackLivesMatter
(3)
非アメリカ黒人のためのアメリカ理解── 物事の本当の意味を伝える二、三の説明
一、アメリカ人の部族主義のなかでも、とりわけ人種は彼らがもっとも不快に感じるものだ。あるアメリカ人と話をしていて、そのときあなたが興味をもったことに人種が絡んでいると、そのアメリカ人は「いや、それが人種だというのは単純すぎる、レイシズムは複雑なんだ」という。それはあなたにもう口を閉じてほしいという意味なのだ。なぜなら、もちろんレイシズムは複雑だから。多くの奴隷廃止論者は奴隷を自由にすることを望んだけれど、黒人が近所に住むことは望まなかった。今日でも多くの人は黒人が乳母やリムジン運転手になるのは嫌がらない。ところが黒人の上司となると絶対に嫌がる。単純すぎるというのは「ことはそのように複雑なのだ」ということなのだ。でも、とにかく口を閉じること、もしあなたがそのアメリカ人に仕事をまわしてもらうとか、その人の好意にあまんじなければならないときは、とくに。
二、多様性というのは、異なる民族にとっては何事も異なるという意味だ。もしもある白人が、近所にはいろんな人が住んでいるというとき、それは九パーセントが黒人という意味だ(黒人が一〇パーセントになるとすぐに白人たちは引っ越していく)。もしもある黒人が、近所にはいろんな人が住んでいるというとき、それは四〇パーセントが黒人という意味になる。
三、ときに彼らは人種の意味で「文化」ということがある。ある映画が「メインストリーム」だというとき、それは「白人がそれを好き、あるいはそれを制作した」という意味だ。彼らが「都市の(アーバンの)」というとき、それは黒い、貧しい、危険をはらんだ、わくわくさせてくれるかも、という意味になる。「人種的な偏見に基づく」ときたら、それは「レイシスト」と口にするのは居心地が悪い、という意味なのだ。
『アメリカーナ』下巻(河出文庫)202ページより
第1回はこちら。
「親愛なるアメリカの非黒人のみなさん、もしもひとりのアメリカ黒人が黒人であることの経験をあなたに語ったら、どうか自分の人生から事例をむやみに引っ張り出さないで」 アディーチェ自身が朗読した『アメリカーナ』日本語訳を公開します
第2回はこちら。
「アメリカの世論調査員が白人と黒人に人種差別は終ったかどうか質問するなんて変じゃないか、といってもらおう。」アディーチェ自身が朗読した『アメリカーナ』日本語訳を公開します。その2