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グーグルに神が宿る日はくるのか?人類が辿る道を予言する恐ろしい本──『ホモ・デウス』書評(評者:藤原和博)

 恐ろしい本である。

 『サピエンス全史』で人類が生まれてからこのかた、どのように「意識」を進化させたかを描き、今度は、これから人類が辿る道を予言している。例によって、ウィットとユーモアのある読みやすい文章でだ。

 だから、もし中高生に2冊だけ、3年ずつかけて学ぶ教科書を挙げよと言われたら、私は躊躇なく『サピエンス全史』と『ホモ・デウス』を推すだろう。

 結論からすると、グローバルなネットワーク社会とAIと生物工学が結びついて、人間がますます判断をそちらに委ねるようになると、やがて人間の意味が消える。

 ホモ・サピエンスはその役割を終え、消滅してデウス(神)になるという。神になるとは言い得て妙だが、遠慮なく言えば、生きたまま死んだような状態に移行するのだろう。思考を完全にクラウド上のAIに委ねることで。

 著者は遠慮ない。「自動車が馬車に取って代わった時、私たちは馬をアップグレードしたりせず、引退させた。ホモ・サピエンスについても同じことをする時が来ているのかもしれない。」のだと。

 古代の農耕社会では死因の15%が人間の暴力だった。それが21世紀には1%。

 2012年には世界中で5600万人の人が死んだが、人間の暴力によるものは62万人(戦争で12万人、犯罪で50万人)、自殺の方が多くて80万人。糖尿病では150万人が亡くなっているから、もはや砂糖の方が火薬より危険なのだとも述べる。

 このように、これまでは歴史的に「飢饉」と「疫病」と「戦争」を克服するのが人類の命題だった。だが、これらはほぼ克服しえたと理解していい。

 次に、人類が求める命題は、「不死」と「至福」と「神性の獲得」だ。

 神性の獲得とは、人間がアップグレードして神を目指すことを言う。

 つまり、死なないこと、至福の時を過ごすこと(ドラッグに頼ると頼らないとにかかわらず)、そして神のようになることを人間は希求するだろうと著者は述べている。そのために役に立つのが、グローバルネットワークとAIと生物工学技術であり、その発展はもう始まっているから止めることはできない。

 わかりやすい例は、グーグルのNAVIアプリだ。自分の位置情報を教えて、どの道を行けばいいかが一目でわかる。しかも、同じように情報を与えているドライバーがいっぱいいるから、リアルタイムで渋滞や混雑状況がわかる。個人のデータの集積とAIによる分析がグーグルに神を宿す。そのうち、人生の大事な選択、例えば仕事や結婚や住宅についても、個人から吸い上げたリアルなデータをAIが分析した結果を、お告げとしてほしい人で溢れるだろう。

 データ至上主義という宗教の信者が増え、人間が面倒な判断をしていた道を開け渡せば、むしろAIネットワーク側が主体となり、人間がいる必要はなくなる。

 言い方を変えれば、ホモ・サピエンスが進化して個人個人が情報のかけらとなり、ネットワークに溶け込んでいくことで、ホモ・デウスの「神」と化すのだ。

 落合陽一くんの言説にも近く、十分説得力がある。

 上下巻だが、下巻の中盤に、私が『10年後、君に仕事はあるのか?』に記したり、たびたび講演で語っている例がそのまま出没するのも興味深い。

 日本の例も繰り返し出てくるので、その意味でも読みやすい予言書である。

 最後に、グーグルに神が宿る日は確実にくると思うが、それで「意識」が宿るかどうかは怪しい。著者はこの点のみが人類の救いかもしれないと言い残している。

 

 

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著者

藤原和博(ふじはら かずひろ)

教育改革実践家/元リクルート社フェロー

奈良市立一条高校・前校長/和田中学校・元校長

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