単行本 - ノンフィクション

JR完全乗車のローカルジャーナリストが、日本中の「愛される鉄道」の現場を駆けめぐった。

9784309226767『ローカル鉄道という希望──新しい地域再生、はじまる』

 

【著者】田中輝美
 
未来へのヒントがここにある!
乗客と信頼とにぎわいを取り戻した路線では、いったい何が起こっているのか──?
「お荷物」と思いきや、ヒト・モノ・カネを呼び込む、劇的な改善例が続出しているローカル鉄道。
丹念な現場取材から、鉄道と地域の可能性が見えてきた。
 
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【もくじ】
●第1章 どん底からの希望――変わるローカル鉄道
●第2章 呼び込む鉄道――人・モノ・カネを動かす

トイレと駅が地域自慢の“名所”――北条鉄道
「日本一」のレストラン列車――肥薩おれんじ鉄道
リアル「電車でGO!」が大人気――一畑電車
「700万円持参」運転手も呼び込む――いすみ鉄道
●第3章 解決する鉄道――移動しやすい地域へ
制服を着た「何でも屋」――えちぜん鉄道
車もバスも「敵」じゃない――熊本電鉄
「地道」こそが最強――ひたちなか海浜鉄道
みんなが乗れる地方交通――京都丹後鉄道
●第4章 稼ぐ鉄道――地域全体を黒字に
過疎の町の救世主――若桜鉄道
改札を出た先の仕掛け――天竜浜名湖鉄道
めざせ、地域の黒字化――わたらせ渓谷鐵道
ローカルも鉄道も「フロンティア」――高松琴平電気鉄道
●第5章 鉄道と地域の未来――可能性を生かす
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はじめに

ローカル鉄道のイメージは、日本国内でも危機的な、苦しんでいる業界の代表ではないでしょうか。田んぼの中を走るさびた1両のワンマン列車はガラガラ。たくさんの赤字を抱えて地域の「お荷物」になっている。そして、地方の人口は減り続け、車社会は揺るぎない。とても復活の芽など……。いえ、そんなことはありません。ローカル鉄道こそ、いま、ローカルにイノベーションを起こす最前線となっているのです。

データが裏付けています。2013年度、全国82のローカル鉄道で前年度に比べて乗客の数が増えたのは、6割近い49。トータルでの乗客数も、前年比104%と伸びています。2012年もほぼ同じ傾向です。ちょっと意外ではありませんか。

この本には、全国15のローカル鉄道が登場します。取材で現場を歩いてみると、驚きの連続でした。住民の寄付とボランティア工事で、全駅のトイレを地域自慢の場所へと変えた鉄道。「乗務員」のサポートがあり、乗り継ぎやダイヤも改善されて劇的に便利になった鉄道。地域に人を呼び込み、地元企業とつくったグッズを売ってともにもうけている鉄道もありました。ローカル鉄道によって、人々が移動しやすく、また、稼げる地域ができていたのです。こうしたローカル鉄道には、乗る人が増えるという数字の結果が表れていました。

何より私の心をつかんだのは、少しでも乗りやすく、役に立ち、愛される鉄道を目指して試行錯誤する経営者や担当者の目の輝きでした。その熱意と志が伝わってきて「これは面白い!」「努力は裏切らないんだ!」と取材後は胸が熱くなっていました。例えば、日本酒業界は今、若い蔵元の力でおいしい日本酒が続々と生まれ「日本酒ルネッサンス」と呼ばれることもありますが、この次にはきっと「ローカル鉄道ルネッサンス」がくるのではないかと。

ところが、一般の人々はもちろん、業界の中の人も地域の人も、そんなうねりを感じている様子はありませんでした。「もっと他の鉄道のいい事例を知りませんか」と尋ねられ、紹介すると「うちと同じですね。これでいいんですね!」と喜ばれました。単に他の取り組みが共有されていないのだということに気づきました。ローカル鉄道は、地方のへんぴな場所にあることが多く、足を運びにくい。現場や最近の息吹を伝える本も多くはありません。

そうか、ローカル鉄道は、ダメなんじゃない。伝わっていないだけなんだ。現場の挑戦や知恵を伝えることは、同じ鉄道業界の人はもちろん、地元のローカル鉄道をなんとか生かしたいと動いている住民や自治体の人に、きっと参考になる。そして、ほかにも苦しんでいる業界や企業、地方でもがいている人にもヒントになる。確信へと変わりました。

この本は、第1章〜第5章で構成されています。第1章は、現場を歩く前提となるローカル鉄道の現状をコンパクトにまとめています。現場の取り組みに興味がある方は、第1章をとばして読んでもらってもいいかもしれません。第2章から第4章までは、地域に人を呼び込み、課題を解決し、そして地域とともに稼ぐという、ローカル鉄道が実現した価値ごとに、12のローカル鉄道の物語を追っています。第5章で分析に加え、あらためてローカル鉄道の可能性とそれを生かすための条件を整理しています。

ことわっておかなくてはいけないのは「鉄道は無条件に守るべき、残すべきである」という「べき」論には立っていないことです。また、私自身は鉄道の専門家ではなく、車両やダイヤ編成などに猛烈に詳しいわけではありませんので、こだわりのある方々にとっては物足りないかもしれません。それよりは、繰り返しになりますが、ローカル鉄道の進化と可能性を体現している実例を記録し、伝えることで、未来の参考にしてもらいたいという想いを込めています。

それでは、一緒に出掛けましょう。新しいローカル鉄道の風景に出会う旅へ。

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【田中輝美さんイベント出演情報】
『希望のレール 若桜鉄道の「地域活性化装置」への挑戦』(祥伝社)発売記念 
若桜鉄道社長 山田和昭さんトークイベントへゲスト出演します。
詳細はこちら

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著者

田中輝美

ローカルジャーナリスト。島根県浜田市生まれ。山陰中央新報社記者として、2013年、琉球新報との合同企画「環(めぐ)りの海」で新聞協会賞を受賞。2014年秋、独立。『未来を変えた島の学校』(共著)など。

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