書評

恩田陸『灰の劇場』文庫化記念! 武田砂鉄さん書評掲載。──日常と絶望は近い

  今、生きている人間が全員漏れなく死ぬことになっているというのは、なかなか恐ろしい事実である。いや、でもですね、自分に限ってはそんなことなくって、もうずっと生きているんです、かれこれ540年くらいになりますかね、という人は見当たらない。みんな死ぬのだ。「死」を漠然と怖がっていた幼少期、自

恩田陸『灰の劇場』文庫化記念! 小島慶子さん書評掲載。──想像の中では誰もが等しく肉体をもたない生者である

  恩田氏本人を思わせる作家が主人公である。実際の事件を題材にした作品が舞台化されることになり、役者のオーディションに立ち会う。そこで思いがけず、大きな動揺を覚えることになる。「ほんとうにあったこと」は、形にしようとすればするほど見えなくなっていく。一度きりの人生は、誰もその本当の姿を知る

恩田陸『灰の劇場』文庫化記念! 斉藤壮馬さん書評掲載。──「救済を感じた」ラストシーン

記憶と記録――恩田陸著『灰の劇場』斉藤壮馬  灰色の羽根が降り積もり、やがてすべてを掻き消してしまう。あとに残るものは、いったいなんなのだろう。記憶する、記録するとは、いったいどういうことなのだろう。恩田陸さんの『灰の劇場』は、そんなことをしみじみと考えさせられる、不思議な味わいの作品だっ

神話の解体と誕生――文庫版刊行記念! 歌人・瀬戸夏子が読む、川本直『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』

 「ジュリアン・バトラーの真実の生涯」川本直 著 評者・瀬戸夏子(歌人)    もはや文学に贅沢など許されない時代に、これ以上ないほど、溢れ出しそうなほど山盛りに模造のダイヤを詰め込んだ宝箱、きわめて反時代的な書物である。 もう二十世紀のように文学からスターな

謎の国際テロも大統領選もあらゆる重要な仕事も、全てが無に帰る フランス発大ベストセラー

ヨーロッパを代表する作家・ウエルベックによる最新作『滅ぼす』が刊行。本作の魅力をSF作家の樋口恭介さんが語る。   「滅ぼす(上・下)」ミシェル・ウエルベック 著野崎歓/齋藤可津子/木内尭訳  評:樋口恭介(作家)   宇宙が誕生したとき、巨大な爆発

百合でもシスターフッドでもない、名づけられない関係性 女性同士の支配と依存を描いた小説

第167回芥川賞候補にもなった注目の作家・山下紘加による最新作『煩悩』が刊行。本作の魅力を歌人の平岡直子さんが語る。   「煩悩」山下紘加 著 評者:平岡直子(歌人)    百合やシスターフッドと呼ばれる関係性が好きだ。女性同士が連帯し、無

「予測不能にして必然的なラスト」恋愛を手段に生き延びる女子を描く、気鋭の作家の最新作

気鋭の作家・日比野コレコによる文藝賞受賞後第一作『モモ100%』が刊行。本作の魅力を詩人の向坂くじらさんが語る。   「モモ100%」日比野コレコ 著 評:向坂くじら(詩人)    愛することはむずかしい。やっかいなことに、相手に向かう感情

『トップガン』にも描けない天才パイロットの物語 佐藤究・待望の新作を紹介

直木賞作家・佐藤究による最新作『幽玄F』が刊行。本作の魅力をドイツ出身で文筆や翻訳など幅広く活躍するマライ・メントラインさんが語る。  「幽玄F」佐藤究 著 評:マライ・メントライン(ライター)    『幽玄F』は超面白い、そして困難な物語

ブラックミックス・ゲイであることが隠した真実とは 注目作家の新作を移民者ラッパーが紹介

デビュー作が芥川賞候補、注目の作家・安堂ホセによる最新作『迷彩色の男』が刊行。本作の魅力を“移民者”ラッパーのMOMENT JOONさんが語る。  「迷彩色の男」安堂ホセ 著 評:MOMENT JOON(ラッパー)    『ジャクソンひとり』から「著

あの娘との時間を「闇」と呼べない、でも――芸能界で過ごした少女たちの物語を俳優が読む

作詞家としても活躍する作家・児玉雨子による第169回芥川賞候補作『##NAME##』が刊行。本作の魅力を俳優・映像作家・文筆家の小川紗良さんが語る。   『##NAME##』児玉雨子 著 評:小川紗良(俳優・映像作家・文筆家)   

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