書評

あの娘との時間を「闇」と呼べない、でも――芸能界で過ごした少女たちの物語を俳優が読む

作詞家としても活躍する作家・児玉雨子による第169回芥川賞候補作『##NAME##』が刊行。本作の魅力を俳優・映像作家・文筆家の小川紗良さんが語る。   『##NAME##』児玉雨子 著 評:小川紗良(俳優・映像作家・文筆家)   

新生児育児中に着想された小説『オレンジ色の世界』 妊娠中に死を間近に感じていた作家・谷崎由依が紹介

 『オレンジ色の世界』カレン・ラッセル松田青子訳 評:谷崎由依(作家)   妊娠していたときほど、死を間近に感じたことはない。命を身に宿しているのにおかしなことと思われるかもしれないが、わたしの感じていたのはその命の脆弱さだった。些細な(と普段であれば受け取れ

「人間をこんなふうに詰め込んではいけない 」東京の満員電車に異常さを感じたときの記憶が蘇った小説 作家・八木詠美が紹介

  『かっかどるどるどぅ』若竹千佐子著 評:八木詠美(作家)   はじめて東京の満員電車を見たとき、嘘だと思った。人間をこんなふうに詰め込んではいけない、きっと今の電車はどこかの学校が遠足のためにJRと約束をし、全校生徒を詰め込んだのだろう、と他県から来た小学

「弱い人間」がただ生きる物語――闘病中の 32 歳女性の視点で描いたマイノリティに対する社会の束縛

  『彼女が言わなかったすべてのこと』桜庭一樹著 評:竹田ダニエル(ライター)   我々が今生きている時代は、想像力が問われている。 主人公の小林波間なみまは、病気の治療をしているということ以外は「普通の三十二歳」。ある日、幸せそうな若い女性を狙った通り魔事件

ハンガリーで左手を移植した日本人男性の葛藤を描き、欧州の価値観浮き彫りに 皆川博子が激推しする小説

  『あなたの燃える左手で』朝比奈秋著 評:皆川博子(作家)   緊迫した場面から始まります。人物の行動が何を意味するのか、この段階では読者にはわからない。しかし引き込まれる。まず、文章に惹かれました。余計な説明は交えず、必要な事実を的確に、しかも魅力的に(こ

「公然不倫」中の母と暮らす娘が歩んだ青春……山崎ナオコーラが紹介する不思議な流れを味わえる小説

  『腹を空かせた勇者ども』金原ひとみ著 評:山崎ナオコーラ(作家)   ちゃんと生活して、たくさん食事して、行きたくて学校に通って、前を向いて人と関わっていく「陽キャ」の主人公。金原さんのこれまでの作品とはちょっと異なる風が、冒頭の数ページから清々しく吹いて

岸本佐知子が翻訳を切望した短篇集を、気鋭の20代歌人が読む

 『五月 その他の短篇』アリ・スミス著岸本佐知子訳 評:初谷むい(歌人)   あなたのすべてをわたしは知り得ない、という絶望がある。表題作「五月」は、次のようにはじまる。「あのね。わたし、木に恋してしまった。」 わたしたちの世界はひょんなことで線路のポイントが

何度となく吹いてきた、女という風の記録。作家・皆川博子が12世紀を舞台に描く少女の物語

  『風配図 WIND ROSE』皆川博子著 評:深緑野分(作家)   人類という動物はなぜか、自分たちの半分を中心に社会を形成し権力を持たせ、もう半分は学問や権力に相応しくないとして、家庭や生殖の役割に縛り付ける。前者は男、後者は女である。 皆川博子の最新長編『風配図

言葉で想像の幅を突破する中原中也賞詩人が描く、肉体ではない新たな関係の物語

  『うみみたい』水沢なお著 評:梅﨑実奈(書店員)   水沢なお「うみみたい」を説明するとき、〈反出生主義〉という言葉が力強く使われていたら、そうだけど、そうなんだけど、ちがうよね、と心に引っかかってしまうと思う。確かに主人公であるうみは、うみたいけれどそれ

ベストセラー『水曜の朝、午前三時』の著者が再び描く愛の物語。青春という過去を抱きつつ、いま身近にいる人を大切に思う。だから人生は美しい――

「美しき人生」書評:田村文(共同通信編集委員)  1970年の大阪万博を舞台に苦く哀しい恋を描き、ベストセラーとなった蓮見圭一の小説『水曜の朝、午前三時』(2001年)のタイトルは、サイモン&ガーファンクルの曲名と同じだった。本書『美しき人生』の題名は一見平凡だが、英訳として「What i

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