新生児育児中に着想された小説『オレンジ色の世界』 妊娠中に死を間近に感じていた作家・谷崎由依が紹介
評者:谷崎由依(作家)
『オレンジ色の世界』カレン・ラッセル松田青子訳 評:谷崎由依(作家) 妊娠していたときほど、死を間近に感じたことはない。命を身に宿しているのにおかしなことと思われるかもしれないが、わたしの感じていたのはその命の脆弱さだった。些細な(と普段であれば受け取れ
2023.10.04書評
評者:谷崎由依(作家)
『オレンジ色の世界』カレン・ラッセル松田青子訳 評:谷崎由依(作家) 妊娠していたときほど、死を間近に感じたことはない。命を身に宿しているのにおかしなことと思われるかもしれないが、わたしの感じていたのはその命の脆弱さだった。些細な(と普段であれば受け取れ
2023.10.04評者:八木詠美(作家)
『かっかどるどるどぅ』若竹千佐子著 評:八木詠美(作家) はじめて東京の満員電車を見たとき、嘘だと思った。人間をこんなふうに詰め込んではいけない、きっと今の電車はどこかの学校が遠足のためにJRと約束をし、全校生徒を詰め込んだのだろう、と他県から来た小学
2023.10.03評者:竹田ダニエル(ライター)
『彼女が言わなかったすべてのこと』桜庭一樹著 評:竹田ダニエル(ライター) 我々が今生きている時代は、想像力が問われている。 主人公の小林波間なみまは、病気の治療をしているということ以外は「普通の三十二歳」。ある日、幸せそうな若い女性を狙った通り魔事件
2023.10.02評者:皆川博子(作家)
『あなたの燃える左手で』朝比奈秋著 評:皆川博子(作家) 緊迫した場面から始まります。人物の行動が何を意味するのか、この段階では読者にはわからない。しかし引き込まれる。まず、文章に惹かれました。余計な説明は交えず、必要な事実を的確に、しかも魅力的に(こ
2023.09.29評者:山崎ナオコーラ(作家)
『腹を空かせた勇者ども』金原ひとみ著 評:山崎ナオコーラ(作家) ちゃんと生活して、たくさん食事して、行きたくて学校に通って、前を向いて人と関わっていく「陽キャ」の主人公。金原さんのこれまでの作品とはちょっと異なる風が、冒頭の数ページから清々しく吹いて
2023.09.28評者:初谷むい(歌人)
『五月 その他の短篇』アリ・スミス著岸本佐知子訳 評:初谷むい(歌人) あなたのすべてをわたしは知り得ない、という絶望がある。表題作「五月」は、次のようにはじまる。「あのね。わたし、木に恋してしまった。」 わたしたちの世界はひょんなことで線路のポイントが
2023.08.08評者:深緑野分(作家)
『風配図 WIND ROSE』皆川博子著 評:深緑野分(作家) 人類という動物はなぜか、自分たちの半分を中心に社会を形成し権力を持たせ、もう半分は学問や権力に相応しくないとして、家庭や生殖の役割に縛り付ける。前者は男、後者は女である。 皆川博子の最新長編『風配図
2023.08.07評者:梅﨑実奈(書店員)
『うみみたい』水沢なお著 評:梅﨑実奈(書店員) 水沢なお「うみみたい」を説明するとき、〈反出生主義〉という言葉が力強く使われていたら、そうだけど、そうなんだけど、ちがうよね、と心に引っかかってしまうと思う。確かに主人公であるうみは、うみたいけれどそれ
2023.08.04評者 田村文・共同通信編集委員
「美しき人生」書評:田村文(共同通信編集委員) 1970年の大阪万博を舞台に苦く哀しい恋を描き、ベストセラーとなった蓮見圭一の小説『水曜の朝、午前三時』(2001年)のタイトルは、サイモン&ガーファンクルの曲名と同じだった。本書『美しき人生』の題名は一見平凡だが、英訳として「What i
2023.06.26桜庭一樹(作家)
自分はずっとずっと差別してきたと思う。 多くの場合、「心を痛めてはいるが、よく知らない事柄だから口を挟み辛い」として沈黙を選んできた。そもそもよく知らないんだから私は差別をしていない、という言い訳もしてきた。でも、知らないままでいる、知ろうとしないことも差別への加担だったんじゃないか。酷い時は、自
2023.02.28