書評

言葉で想像の幅を突破する中原中也賞詩人が描く、肉体ではない新たな関係の物語

  『うみみたい』水沢なお著 評:梅﨑実奈(書店員)   水沢なお「うみみたい」を説明するとき、〈反出生主義〉という言葉が力強く使われていたら、そうだけど、そうなんだけど、ちがうよね、と心に引っかかってしまうと思う。確かに主人公であるうみは、うみたいけれどそれ

ベストセラー『水曜の朝、午前三時』の著者が再び描く愛の物語。青春という過去を抱きつつ、いま身近にいる人を大切に思う。だから人生は美しい――

「美しき人生」書評:田村文(共同通信編集委員)  1970年の大阪万博を舞台に苦く哀しい恋を描き、ベストセラーとなった蓮見圭一の小説『水曜の朝、午前三時』(2001年)のタイトルは、サイモン&ガーファンクルの曲名と同じだった。本書『美しき人生』の題名は一見平凡だが、英訳として「What i

「向き合わずにいられて、安全圏で生きられて、いいな」 “差別”に向き合う作家・桜庭一樹が五度、六度と読み返した作品

 自分はずっとずっと差別してきたと思う。 多くの場合、「心を痛めてはいるが、よく知らない事柄だから口を挟み辛い」として沈黙を選んできた。そもそもよく知らないんだから私は差別をしていない、という言い訳もしてきた。でも、知らないままでいる、知ろうとしないことも差別への加担だったんじゃないか。酷い時は、自

少女は何から逃げているのか? 現代ネットホラーの第一人者が紹介する複雑かつ緻密な上に歪んでいる物語

 十六歳の少女ふうかは父親と同じくらいの年齢のITベンチャーCEOである碧と同棲し、金銭的には不自由なく暮らしている。リビングルームには、碧が前に交際していた女性の制作したマネキンが置かれていて、それに見つめられながら、ふうかは「浮遊」というホラーゲームに没頭する。ゲームの主人公はふうかと同世代の少

「自分の生活を今よりもっと面白がれるはず」橋本絵莉子がそう思わされたAマッソ・加納の初小説集の魅力とは?

 書評執筆のご依頼を受けてすぐに、ネットで書き方を調べました。普段から加納さんのエッセイを読んだり、Aマッソの漫才を見たりして、なんて頭の回転が速くてまっすぐな人なんだろうと思っていたから、そんな人が書いた本の書評が私に務まるんだろうかと、とても不安になったからです。 でも、新刊の発売をすごく楽しみ

「ちょっとフリージャズとかそういうのの演奏に似ている。」(本文より)――山﨑修平デビュー小説『テーゲベックのきれいな香り』書評

 この詩になりかかりつつ小説であることを堅持している小説の書き方は、自分の『詩歌探偵フラヌール』を書いていた時の息の使い方に似ていると思った。『詩歌探偵フラヌール』は文字で記録をするものの、その言葉の広げ方は一回限りの、ライブのような姿勢で書かれた。「文学の本領とは、言葉を書き連ねていくごとに世界が

「いい加減にしろ! いじきたねえんだよ」人間の一番見せてほしくない真実をえぐる19歳の独白 歌人・上坂あゆ美が紹介

 短歌をつくるのが楽しかったことなど、一度もないのかもしれないということについて考える。私にとって短歌制作は、嘔吐をこらえながら自分の呪いを見つめ、ひたひたと泣く夜を乗り越え、なんとか形にする作業。どちらかと言えば快楽主義の自分が、なぜそこまでするのだろうと考えると、それはきっと私が、できるだけ鋭く

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