文藝

話の通じない「おじさん」との結婚生活でボロボロに…会社と家の往復でいいと思っている45歳バツイチ女性を描いた金原ひとみのエンタメ小説

 『ナチュラルボーンチキン』金原ひとみ 著 評: 高瀬隼子(作家)    平木直理(ひらきなおり)がヒーローだった。登場した時は正直警戒した。スケボーで通勤し、転んで捻挫したことを理由に在宅勤務を希望する入社五年目の編集者ってやばいやつでしょと思った。平木は確

「デモや集会で見かける人々はごく普通」陰謀論にハマる理由に迫った直木賞作家・小川哲のサイコサスペンス小説の読みどころ

 『スメラミシング』小川哲 著 評: 雨宮純(ライター)   「ワン、ツー、スリー、フォー、光の戦士!」「皆さんは光の戦士です」 これは、筆者が陰謀論関連のデモや集会で耳にしてきた言葉である。世界は闇の勢力によって支配されているが、覚醒者である光の戦士たちが集

「こんな風に人間のことも愛せたら」宮田愛萌が共感した、犬への愛を切なく描いた直木賞作家の最新作『雷と走る』

 『雷と走る』千早茜 著 評: 宮田愛萌(タレント・作家)    犬が人間と違うということはよくわかっていた。私の家にも犬がいる。小さくてほやほやと甘やかされた七キロのダックスで、ハウスの段差につまずいて転んだり、ベッドから落ちたりするどんくさい犬。それでも犬

温かくも意外とシビアな下町を舞台にした吉本ばななの最新小説とは? 人気エッセイスト古賀及子が魅力を語る

 『下町サイキック』吉本ばなな 著 評:古賀及子(ライター、エッセイスト)    見えないなにかが見えてしまう中学生のキヨカと、その能力を理解しながら繊細な成長をあたたかく見守る、近所で自習室を運営する友おじさん。下町で生活感をもってそれぞれに暮らすふたりは、日々理屈で

わかりやすくない有害な男性らしさが生む混乱を描く 俳優・長井短の小説『ほどける骨折り球子』を児玉雨子が読む

 『ほどける骨折り球子』長井短 著 評:児玉雨子(作家、作詞家)   「きっと何者にもなれないお前らに告ぐ」という名台詞がアニメファンの間で話題になったのは何年前のことだろう。顧みれば、当時の社会は「何者かになるべきである」という課題に頭のてっぺんまで浸されていたように

今日における批評の条件、創造の条件を探究…博士論文をもとにしたドゥルーズ研究書を読み解く

 『非美学』福尾匠 著 評:小倉拓也(フランス哲学研究者)    迷宮のような本だ。迷宮は、複雑で出口を見いだすことが困難な建築物だが、実際には分岐のない一本道である。ボルヘス的な直線ではない。一本道である。私にとってこの本は、一本道だと信じることでしか歩きとおすことが

小学校の先生に恋した少女の動揺と混乱の日々 極限の理性を書いた作家・リスペクトル作品の読みどころとは?

 『ソフィアの災難』クラリッセ・リスペクトル 著福嶋伸洋/武田千香編 訳 評:島本理生(作家)   クラリッセ・リスペクトルの小説を途中まで読んだという友人が言った。「難解だけど、自分の中でピースが一つ合ったら、その瞬間にすべて理解できるような気もする」 それはリスペク

紫式部、現代京都でオペラをかます!? 直木賞作家・河﨑秋子が語る、古川日出男のワンアンドオンリーな快作の魅力

 『京都という劇場で、パンデミックというオペラを観る』古川日出男 著 評:河﨑秋子(作家)   パンデミック。一瞬、その意味を正確に思い出せず、そんな自分に驚いた。たった三、四年前の新型コロナ騒ぎに伴う制約や息苦しさを、進んで記憶に留めておきたいと思えなかったせいか。そ

マリリン・モンローを通して女性の差別問題を描いた小説『マリリン・トールド・ミー』とは? 花束書房の代表・伊藤春奈が紹介

 『マリリン・トールド・ミー』山内マリコ 著 評:伊藤春奈(花束書房/文筆家・出版業)    マリリン・モンローをフェミニズムの視点で見直す動きがあるとどこかで読み、調べてみようと思いつつ数年が経ち、気づくと「誰か書いてくれないかな」になっていた。Netfli

全人類の不死と祖先の復活、そして宇宙進出を思想とする「ロシア宇宙主義」とは? 思想家ボリス・グロイスの論文集を紹介

 『ロシア宇宙主義』ボリス・グロイス編乗松亨平監訳上田洋子/平松潤奈/小俣智史訳 評:木澤佐登志(文筆家)   ロシア宇宙主義と呼ばれる特異な思想潮流がかつてロシアに存在した。その端緒は一九世紀末に活動したニコライ・フョードロフにまで遡る。フョードロフの哲学を一言で要約

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