単行本 - 日本文学

穂村弘と「世界の秘密」を探る魅惑――『きっとあの人は眠っているんだよ 穂村弘の読書日記』『これから泳ぎにいきませんか 穂村弘の書評集』

穂村弘を知ったのは、初エッセイ集の『世界音痴』(小学館、2002年)でした。

帯にはこうあります。〈穂村弘(39歳・独身・総務課長代理)。寿司屋で注文無視されて、夜中に菓子パンむさぼり食い、青汁ビタミン服用しつつ、ネットで昔の恋人捜す〉

当時、独身、平社員、喫茶店で注文無視されて、夜中にすっぱムーチョむさぼり食い、ドクターペッパー服用しつつ、ネットで昔の片思いの人を捜していたわたしにとって、まさにスターの出現でした。

ただ、どうも大きな勘違いをしていました。穂村弘を「もてない男界隈のスター」として親近感と感動を覚えていたようなのです。のちに実際にお目にかかったとき、一瞬で悟りました。「このひとは、ちがう。もてるひとだ」。そこはかとない失望も感じたように記憶していますが、それでも穂村さんの文章を読んで失望したことはその後もありません。漫画家の故・吉野朔実さん曰く、穂村弘は「世界の三大天才」の一人である。その評価は伊達じゃない。

……ともあれ、もちろん『世界音痴』以前より歌人として大いに名を馳せていたわけですが、このエッセイ集は各紙誌の書評欄でも取り上げられて評判を呼び、一般的な知名度も一気に上がったことと思います。翌年の2003年には読売新聞の書評委員に就任、穂村さんの手がける書評は各紙誌に掲載されるようになります。

穂村さんが書評でとりあげる本を大きく分ければ、小説(純文学、ミステリ、SF)、漫画、絵本、詩歌集が中心でしょうか。歌集や詩集に疎いわたしでも、穂村さんが紹介すると、その本を読んでみたくなる。この吸引力は、なんだろう。書評を読んでいるだけで(穂村さんの言葉を借りれば)「ときめく」のです。

穂村さんが朝日新聞の書評委員を務めていた(2009~2012年)頃、書評集を出しませんか?と御提案したところ、「ありがとうございます。でも、書評集なんて売れるかなあ」と御快諾されました。

そのときは、あとすこしたったら1冊分くらいは原稿がたまると思う、という御返事だったのですが、その後、しばらくお待ちしては、そろそろどうですか?とうかがうものの、つれない御返事が続きます。昔の御原稿をまとめるのが、めんどくさかったのでしょうか……4、5年たってようやく、雑誌・新聞に掲載されてきた書評関係の御原稿をまとめてお預かりすることができました。なんかこの量、1冊分どころじゃないんじゃないの??と思いながらざっと整理して計算してみたら、1000ページ分近くあった! しかも、その御原稿の束には、こちらで把握していた原稿が洩れてたりもしましたので、もっともっとあるはず。

どうしようかなこれ……と途方に暮れながらも、気を取り直し、えい!まとめて2冊出しちゃえ! ということで完成したのがこの2冊です。

『穂村弘の読書日記』は、「週刊現代」連載の「リレー読書日記」全回分と、「週刊文春」で現在も連載中の「私の読書日記」を今年の初夏頃までの分を収録しました。『穂村弘の書評集』は、新聞や雑誌に掲載された単発の書評をセレクトし、あわせていろんな方々の文庫に寄稿された文庫解説を収録、過去10年ほどの書評関係を凝縮した1冊になっています。

それぞれ320ページ程ありますが、すべては収まりきれません。泣く泣くばっさばっさと削り落としていきました。穂村さんの書評は名エッセイを読むような魅力があり、おなじ本を扱った書評でも一見内容的にダブっているように思えながら、読んでみるとそれぞれに切り口も異なります。ほんとはぜんぶ載せたかったんです。

収録原稿の選定作業を中心的に行なったのは、編集者の須川善行さん(元「ユリイカ」編集長)。穂村さん、須川さんのコンビでは『短歌の友人』(2007年刊/第19回伊藤整賞受賞)という名著があります。

『世界音痴』のあとがきに、〈生きることの意味が知りたかった。(略)私は確かにそんな風に考えていたはずだ。今もそう考えている〉とあります。どうも穂村さん本に対しても、本とは未知の世界への扉でありその中には「生きることの意味」「世界の秘密」が隠されている、そんなことを思っておられるように感じられ、事実、『穂村弘の読書日記』『穂村弘の書評集』の中には、「世界の秘密」の欠片があちこちにちりばめられています。

どこから読んでも面白く、読書欲が刺激されるこの2冊、これから年末年始のお供としてもぜひ。

編集担当:伊藤靖

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