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世界でひとつだけの花──山内マリコ『選んだ孤独はよい孤独』書評

 孤独はカッコいい。なんだかハードボイルドだ。闇を背負っている雰囲気があるし、それだけですごい特別な存在っていう感じがする。思春期はとくに孤独を好みがちだけど、思春期マインドにあふれた中年のぼくも、いまだ孤独の大ファンだ。十代の頃、孤独に酔いたいがために家出して、駅前で物乞いをしたことがある。あれはすごい孤独だった。寒かったので一日で家に帰ったけど(真冬だったのだ)。とにかく孤独最高。
 簡単に孤独を手に入れたいなら、なんといっても読書に限る。書かれた文字をなぞるとき、ぼくらはいつも孤独だ。
 そんなわけで今ぼくが読んでいるのは『選んだ孤独はよい孤独』という本なのだけれど、タイトルから分かるとおり孤独がテーマの小説だ。ただでさえ読書は孤独なのに、書かれていることも孤独。孤独×孤独。単純計算で二倍以上の孤独が得られる。やばい。
 この十九の短編では様々な男たちの孤独が描かれる。地元から抜け出したいのに、ぼろぼろのニューバランスを履いて、気が合わない友達と過ごす無職の孤独。優れた先輩が去ったあと、冴えないチームを率いるキャプテンの孤独。女の子と付き合うということに希望を失ってしまった高校生の孤独。同棲を解消したあとも、彼女の荷物とともに部屋に住み続ける捨てられた家具のような男の孤独。
 うーん、これはなかなかいい孤独だ。惨めな男たちに感情移入して読んでいると、自虐的でマゾい快感が得られる。
 ところで『選んだ孤独はよい孤独』という言葉は一体誰視点のものなのだろう?
 そう考えてふと気づいてしまった。ここに描かれる男たちは誰も孤独を自ら選んでいない。自ら孤独を選んでよきものとしているのは、男を捨てた女たちのほうなのである。
 男たちはなぜ自分が捨てられたのか、まったく理解していない─つまり、なぜ自分が孤独になったのかすら理解できないという、より深い孤独状態に陥っている。
 この本を読むことで孤独を満喫したぼくは、とりあえず紙パックのピルクルを飲んで暗い部屋でひとり仕事を始める。
 そしてインターネットに接続し、息抜きに英語で孤独を意味する「alone」と「lonely」をGoogleでラテン語翻訳してみると、どちらも「solum」という単語になった。
 それをもう一度英語にすると「only」(~のみ)。
 おもしろくなってきて、さらに孤独の英語「solitary」という言葉を入力すると、出てきた単語は「unum」、英語では「one」。
 孤独の語源をさかのぼると「only one」が現れる。深い……すごく深い気がする。
 なのにどうしてだろう。さっきからぼくの頭の中では、先頃解散した某アイドルグループの軽薄な曲が流れているのだ。

海猫沢めろん

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