単行本 - 日本文学

やっかいな他者──「関係性マニア」が編み出す人間関係の妙──青山七恵『ブルーハワイ』書評

 

 そういえば以前インタビューで、青山七恵は自分を「関係性マニアだ」と言っていたな──と、新作短篇集『ブルーハワイ』のページをめくりながら思い出した。収録作六篇はどれも、人間関係の中で生まれる複雑な感情の振動が微細に綴られている。描かれるのは家族や友人といった間柄が多いが、どれも女同士である点が共通している。

 理不尽な思いもさせられる主人公たちだが、みな辛抱強い。苛立ちを感じても感情を爆発させたりはしない。だが、心の中は暴風雨状態だったりもして、その嵐の中に読者を誘っていく。つまりは視点人物と一緒になって苛立ったり不安になったりするわけだが、と同時に、そんな人間の滑稽さをいつしか楽しんでいる自分もいる。

 いや本当、読みながらこんな相手と一緒にいるのは耐えられん! と思うことがしばしば。巻頭の「ブルーハワイ」のように、職場で根拠なく同僚男性との仲を冷やかしてくる女性たちも嫌だし、なぜかなついて職場にまでアルバイトとして入ってくる教育実習生時代の教え子も面倒だし、「辰年」の、何かといがみ合う母と長女、口もきかない長女と次女らと一緒に住む高校生の三女の立場にはなりたくない。この話では、出会い系サイトで知り合った男の写真をこっそり撮ってきてほしい、と頼んでくる女友達も面倒だ。まあ「聖ミクラーシュの日」のように、海外の旅先で女友達と険悪な仲になったことや「わかれ道」の姉妹ゲンカ(私の場合は姉でなく兄だが)の経験はあって、その後一人で行動する時の心細さには大いに共感。

 本作の中でもっとも苦手だわ、と感じたのは「山の上の春子」の春子! でも、新潟の山間にある観光旅館の娘、みなとは、宿の仕事を手伝う彼女の心無い言動にむっとすることはあるものの、騒ぎ立てない。決められた仕事をせず、人のことをペラペラと噂する彼女にようやくみなとが怒った時は溜飲が下がる気がしたが、最終的には突き放さない様子が、悔しいような、愛おしいような……。

 唯一、こんな人が傍にいてほしかったと思わせるのは最終話の「わたしのおばあちゃん」。幼い頃から絶対的に味方でいてくれた祖母の思い出が綴られるが、終盤になって突如、不穏な事実が明かされる。

 六人の主人公たちの懐の深さとは対照的な自分の狭量っぷりに気づかされる作品集ではあるが、もちろん彼女たちはみな聖人君子ではなく、心の中に荒れ狂うものを持っている。それでも相手を受け入れるのは、関係性に屈服したわけではなく、彼女たちにとってそれが自然なことだからだ。もちろん「血縁だから」「友達だから」なんていう理由ではない。この人たちは、他者が自分と異なる価値観と行動原理を持っていると、すでに理解しているのだ。他者なんてそもそも、やっかいで当然なのだ。だからこそ、心の中で嵐が起ころうと、彼女たちは関係を簡単に手放したりしない。そこに気づいた瞬間、時にコミカルに思えるそれぞれの関係が、とてつもなく貴重で、得難いものに見えてくる。「関係性マニア」が編み出す人間関係の妙に痺れつつ、本を閉じることになるのだった。 

 

瀧井朝世

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