単行本 - 日本文学
「おれはドゥルーズだ」――坂口恭平『けものになること』の読みどころ
坂口恭平
2017.02.27
死後20年をすぎてますます読まれている哲学者ドゥルーズがガタリとともに書いた『千のプラトー』はドゥルーズの数多い著作の中でももっとも重要な本と言われています。
ただこれを普通の哲学書と思ってページをひらくと面食らうことでしょう。そこにはいまでも人を呆然とさせるような奇怪なイメージや概念が溢れかえっているからです。とりわけ本書の核心をなす「強度になること、動物になること」と題された10章はその特異さで際立っています。
『現実宿り』で小説家として新たな境地を開いた坂口さんはその次の作品でなんとこの『千のプラトー』10章を書き直すという「暴挙」にでました。しかも自分にドゥルーズを憑依させて、です。
「動物になること」は「けものになること」と読み替えられ、「けもの」にはそっと「麻薬」とルビがふられています。もちろんドゥルーズなど読んだことがなくても大丈夫、いやドゥルーズへの予備知識は余計かもしれません。
霊感に満ちたイメージの爆発的な噴出とともに語られるのはまぎれもなく「哲学」であり、同時にまだ誰も見たことのない文学です。ドゥルーズの予備知識はいらないという前言と矛盾するかもしれませんが、ここにはドゥルーズ=ガタリの全てと未來があります。
だからこの小説を読んで誰よりもよろこんだのがドゥルーズであり、ガタリであることは間違いありません。そのドゥルーズとガタリもこの小説の登場人物でもあるのですが、どこで出てくるかは読んでのお楽しみ。
(編集部A)