単行本 - 日本文学
悠久の時へさらわれる壮大な長編――谷崎由依『囚われの島』
2017.06.30
谷崎由依さん待望の長編、『囚われの島』がついに刊行いたしました。
構想7年をかけ、単行本化に際しては、「文藝」2016年冬号に掲載された360枚から、さらに80枚の加筆を経た実に440枚の大作です。
全三部からなる本書。一部は、蚕を飼う盲目の調律師・徳田に魅入られた、新聞記者の由良の物語です。由良は直属の上司との不倫に絡め取られる一方、徳田と逢瀬を重ね、今は滅びた養蚕の村を追う企画に執着していきます。二部は時を遡り、養蚕が全盛期の頃のその村と思しき集落で生きる「まゆう」の物語。幼馴染で蚕飼いの名手、すずちゃんとまゆうの運命は、思いもよらない方向へ流されていきます。そして三部は、また由良の物語へ戻るのですが……。
……と、あらすじだけでも永遠にご紹介したい、悠久の時へ攫われるような壮大な作品です。
本を手にとっていただいた方にはご存じの通り、この本の帯裏には、5人の「本読みのプロ」=書店さんからの推薦文が掲載されています。事前にゲラを読んでいただき、頂戴したコメントです。
雑誌掲載から単行本に至るまで、谷崎さんの原稿を長らく拝読してきた私ですが、5人の方の文章を目にしたとき、『囚われの島』をさらに奥まで照らす光を、数筋得た心持ちでした。月並みですが、読書のさらなる豊かさを思い知りました。
せっかくの機会ですので、皆さまの推薦文を全文ご紹介いたします。
(五十音順、敬称略)
蚕に、現代の女性が重なる。どこへも繋がらない独立した人生のつもりでも、意思をこえ生命は運ばれゆく。
時間と身体に囚われながらも、世界にふれるたび感覚は開く。
ああ、私達の営みはなんて哀しく豊かなのだろう。
――今井麻夕美(紀伊國屋書店新宿本店)
物語に没入する喜びを堪能した後、ふと気づかされる。これは現実に語りかけてくる警告のようなものだと。
それは耳を澄まさなければならないほど小さい。
そして、鈴の音のように美しい。
――小川英則(丸善ラゾーナ川崎店)
蚕と男と世間に翻弄される二人のシングルマザーの姿は、ひらがなで「かなしい」。けれど彼女たちの闘いを、蛹が羽化したのちに残った空っぽの繭玉を、美しいと思わずにはいられませんでした。
――木村綾子(本屋B&B)
絹糸は蚕が生み出す芸術か、それとも自らを縛る縄か。自ら吐き出す糸で作る繭の中で、羽化を待つ蚕はどんな夢をみるのだろう。
絹一枚の様に薄く隔たった夢と現の世界が織りなす、妖しくも美しい物語。
――白川浩介(オリオン書房ノルテ店)
由良は逃げる。父親的な力が支配する社会から、自らの再生を果たすために……。
幻想的、神話的、民俗学的でもあるこの拡がりのある小説は、硬直した現実を超えて、世界の秘密に触れる。
――辻山良雄(Title店主)
この大作が、書店さんを経て、読者のみなさまへ届きますように。
今後、谷崎由依さんのインタビューを各紙誌でご覧いただける予定です。
そちらもどうぞお楽しみに。
(編集部・M)