単行本 - 日本文学
早くも大反響!――担当編集者が語る、角田光代訳『源氏物語 上』
2017.09.25
2014年11月、池澤夏樹訳『古事記』から刊行をスタートさせた「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」の最後を飾る角田光代訳『源氏物語』(全三巻)の刊行が始まりました。
2015年春から角田光代さんが“小説断ち”をして訳に取り組んでいた『源氏物語 上』、
すでにご覧いただいている方もいらっしゃるとは思いますが、冒頭だけ少しご紹介します。
いつの帝(みかど)の御時(おんとき)だったでしょうか――。
その昔、帝に深く愛されている女がいた。宮廷では身分の高い者からそうでない者まで、幾人もの女たちがそれぞれに部屋を与えられ、帝に仕えていた。
(『源氏物語 上』「桐壺」冒頭より)
どうでしょう? この冒頭だけでも、シンプルで読みやすく、現代的……と、すでに角田さんらしい訳になっているとは思いませんか?
刊行して2週間、早くもいろいろな感想をいただいています。
「この角田訳で初めて源氏が読めた!」「最後まで挫折せずに読めそう」といった声や、「源氏は与謝野訳、谷崎訳、円地訳、瀬戸内訳を読んだけれど、今回の角田訳でストーリーがはっきりと分かって驚いた」とか、「これまでの現代語訳とは分かりやすさに格段の差がある」といった源氏通の声などなど、本当に大きな反響です。
『源氏物語』は源氏側に立つか、女たちに立つかで読み方や訳し方が違うなど、多様な読み方のできる作品です。角田さんがとったのは、男側でも女側でもなくニュートラルな立場で訳す、大きな視点である“運命と宿命”の物語と捉えるということでした。「大きな力や運命によって変わっていく物語を最後まで無理なく読めるようにしたい」。そのために、地の文の敬語を省き、主語を補う、また細かい語句の説明よりもストーリーを優先させ、読み進めるための工夫を重ねました。
角田訳は読みやすさが大きな特徴ですが、とはいえ原文にはかなり忠実で、大きく付け加えた箇所はほとんどないと言っていいかもしれません。地の文の敬語を外したため、足し算というよりは引き算。でもこの引き算は本当に難しく、「むしろ敬語はあったほうが訳しやすいんです」と角田さんがおっしゃっていたこともありました。敬語があればそこで関係性が示せるのですから。
それにしても、敬語を外すだけでここまで読みやすくなるとは驚きです。もちろん敬語だけでなく、ストーリーを際立たせるため、呼称の持ち出し方や心の襞に入ってくるきめ細やかな感情表現などいろいろ考えられているのですが……そこは小説を知り尽くした角田マジックなのかもしれません。
千年前、『源氏物語』が宮中で読まれたときは、当時の生きた、時代を反映した言葉で書かれていたはずです。
ぜひ今の言葉で読める角田訳をご一読いただけたら嬉しいです。
なお初版本にはもれなく『源氏かおり袋付き 特製しおり』の特典が付いています。京都の老舗、お香専門店・松栄堂さんとコラボレーションした特製しおり。「源氏物語」といえばお香は欠かせません。平安貴族たちにとって必須アイテム。しばし平安に想いを馳せながらお楽しみいただけたらと思います。
(編集部RT)