単行本 - 日本文学

現役フードファイターが、著者をファイターかと疑うほどリアルなフードファイト小説『エラー』の迫力とは

おかわりを求め続ける私たち

 本作を読み始めてまず真っ先に思い浮かんだのは、私が昨年出場した大食い女王決定戦の新人戦だった。まだ大食いYouTuberとしても駆け出しで、右も左もわからないまま出場し、予選から決勝までがむしゃらに食べ続け、気が付いたら優勝していた。あの大会の光景を頭に浮かべ続けながら、夢中で読み進めた。

 私は、本作の主人公・一果(いち か)のように思考しながら食べ進められる程冷静にはなれないし、華があるわけでもないが、それでもあの場で実際に戦っている人にしか分からない焦りや高揚感は、驚く程同じだった。久しぶりにファイターとしての気持ちが昂った。

 現在私は、フードファイター・海老原まよいと、大食いYouTuberえびまよという2つの軸で活動しており、それぞれ食べ方や見せ方、見られ方は全く異なる。ファイターとして舞台に立った場合は、綺麗に食べる事や美味しく感じる事に気を使えず、見苦しくなってしまう事も多々あり、批判を受けることも少なくない。それでも最も楽しく感じるのも好きな自分もファイターである時で、それは誰かに勝ちたいというよりも「自分に負けたくない、食材に負けたくない」という気持ちだ。勝てた時の喜びは何物にも代えがたい。

 一果が繰り返す、「私はおかわりを求め続けている」というフレーズが心に残った。私が YouTubeに投稿する動画の多くは、「〇㎏のデカ盛りにチャレンジしてみた」等のチャレンジメニュー系と呼ばれるもの。一方、大会では何杯食べられるか? 何個食べられるか? という積み重ねの勝負になる。自身の戦い方を振り返ると、対戦相手は一切見ずにひたすら自分を鼓舞し食べ続けるスタイルで、一果の姿と重なり、読んでいて胸が熱くなる。物語のクライマックスにある決勝戦では、「まだ食べられる! まだ入るはず!」の一心で臨んだ自分の決勝戦を投影し、気付くと涙していた。

 本作で何よりも凄いと思ったのは、食材についての描写だ。実際に自分が食べているんじゃないかと思う程にリアリティがある。尚且つ文章からシズル感が伝わってきてお腹が鳴ってしまう。噛み締めれば噛み締めるほどに疲弊していく顎の描写や、ハンバーグのチーズがもたらす胃への負担など、選手目線の感覚もとても的を射ていて、著者の山下さんは実はファイターなんじゃないかと勘繰ってしまうくらいだ。

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