単行本 - 日本文学
★まるごと1話試し読み★「5分シリーズ」創刊一周年記念!『5分後に笑えるどんでん返し』収録「初めてのSNS」
エブリスタ
2018.03.15
「5分シリーズ」創刊一周年!
エブリスタと河出書房新社が贈る短編小説シリーズ(特設サイトはこちら)。
投稿作品累計200万作品、コンテスト応募総数25000作品以上から厳選された短編は、すぐ読める短さなのに、衝撃的に面白いものばかりです。
創刊一周年を記念して、試し読みを公開します!
あなたも5分で衝撃を受けてください。
『5分後に笑えるどんでん返し』(5分シリーズ)より、まるごと1話試し読み!
読めばすぐに「脱力」確定!シリーズ初のお笑い短編集。
* * * * *
「初めてのSNS」 タッくん
スマホが欲しかった。
周りのみんなは当然のように持っている。俺(おれ)の家にはパソコンがないし、スマホだって持たせてくれない。LINEで友達と絡(から)んだり、Twitterで知らない世界を楽しんでみたかった。
必死に親を説得するが、中学生の俺には早いと言って聞く耳を持たない。ゲームで過剰(かじょう)な課金をしたり、SNSで騙(だま)されて事件に巻き込(こ)まれる可能性があると言うのだ。
確かにゲームの課金問題は後を絶たない。SNSで騙されたり、炎上(えんじょう)して心を病んだりという話もよく聞く。
でも俺は、アプリのゲームで遊んでみたい、LINEで友達と交流したい、Twitterという未知の世界を体感したい!
欲望は尽(つ)きることなく、親を一年以上説得し続けた結果、とうとう中学三年生の夏にスマホを手に入れた。
そう、俺の時代が来たんだ……
早速、仲の良い友達のLINE登録を行う。すぐに既読(きどく)がついて返事が来た。面白い。いつでも遊ぶ約束ができると感じて、テンションが上がる。
そして、Twitterも始めることにした。LINEと違(ちが)う架空(かくう)の偽(いつわ)った自分を作ろう……そう考えてアカウントを作成する。
アカウント名はブルーアイ。中二病と言われても気にしない。友達には知らせないから大丈夫(だいじょうぶ)だ。
ブルーアイは高校三年生で、バスケ部のエース。天使の羽が背中に見えると言われるほどのジャンプ力で、得意なシュートはダンクシュート。最近、勝手にファンクラブができたから困っている……やり過ぎかな? まあいいや。
こんな嘘(うそ)くさいTwitterにフォロワーがつくはずなどない。そう笑っていると、フォロワーが一人できた。名前はミーちゃん。中学生? 高校生だろうか? 俺のことをアイ君と呼んでくれて、一つひとつの反応が可愛らしく妄想(もうそう)が膨(ふく)らむ。
調子に乗って、漫画(まんが)に出てきそうなイケメン男子を演じ続けてみた。
『バスケの試合で怪我(けが)をしちゃってさ、残り五分で無理やり出場して、奇跡(きせき)の逆転シュートを決めたよ』
『凄(すご)い! アイ君、カッコいいね。でも無茶はダメだよ』
『大丈夫さ。この大会が終わったら、秋にある文化祭までゆっくり休むつもりだからね。ギターの練習をして、ライブでもやってみようかな?』
『アイ君なら似合いそう! あっ、でも……これ以上アイ君のファンが増えたら淋(さび)しいな』
『そう? じゃあ、ミーちゃんのためだけにギターを練習しようかな?』
『えっ、ほんとっ!? すっごく嬉(うれ)しいよ! 見たい! 見たいよ!』
ヤバイ……ミーちゃんが可愛くて悶(もだ)える。俺の中では、ツインテールの美少女が確立されていた。
『ミーちゃんってさ、どんな髪形(かみがた)してるの?』
『えっ? 特に決まってないけど……アイ君はどんな髪形が好きなの?』
『ツインテールとか可愛いよね』
『ツインテールか……私もツインテールにしようかな?』
キタ───!!
ツインテールの美少女……想像するだけで鼻血が出そうだ! 是非(ぜひ)、ゴスロリで写真をアップしてほしい!
『ゴッ……ゴスロリなんて……にっ、似合うかも……なーんて、あはははは』
『アイ君、そんな趣味(しゅみ)があるの?』
『じょっ、冗談(じょうだん)だよ!』
直接話してないのに、声と一緒(いっしょ)に文字まで上(うわ)擦(ず)ってしまう。
そんなやり取りが一カ月以上続いた。その間にブルーアイは変化し続ける。
高身長でバスケ部のエース。ギターの才能を開花し、ライブチケットは即完売。
親が金持ちで専属のメイドがいる。俳優としてスカウトもされ、スポーツ、音楽、俳優、どの道を進むかが悩(なや)みの種。最近では神が与(あた)えた才能の数々が疎(うと)ましくも感じて……
……
……
誰(だれ)だ、こいつは!?
俺じゃないことだけは確かだ!
そして、恐(おそ)れていたことが起きてしまった。
『アイ君に会いたいな……』
キタ───!! いや、来ちゃ駄目(だめ)なんだよ! 会えるわけないだろ!?
『ちょっと忙(いそが)しくてね。会えないんだ』
『一目だけでいいから』
『本当に無理なんだよ』
『大丈夫よ』
なにが大丈夫なんだ?
『じゃあ、今から行くね』
……えっ? 俺の所へ? 冗談だよね? 分かるはずないよね?
『ちょっと待ってよ!』
……
……
もしかして、住所が特定されるキーワードをつぶやいていたのか? どうしよう? 冗談だよって言ってくれ! なんで反応がなくなったんだ!?
とにかく逃げよう。財布とスマホをポケットに入れ、部屋を飛び出そうとする。
しかし、部屋の外から漂(ただよ)う異様な雰囲気(ふんいき)を感じて立ち止まった。
誰かいる……少しだけドアが開き、隙間(すきま)からツインテールらしき髪が見えた。
「ひいっ!」
視線を逸(そ)らして窓から逃(に)げ出したいけど、金縛(かなしば)りにあったかの如(ごと)く動けない。
不気味な音を立てながら、ゆっくりとドアが開いていく。そこには……
ツインテールで、ゴスロリファッションのオカンが立っていた。
「……SNSって恐ろしいでしょ?」
……
……
中二病な自分。
恥(は)ずかしい台詞(せりふ)をオカンにつぶやいていた自分。
女の子の趣味まで暴露(ばくろ)した自分。
そして、ツインテールのゴスロリオカン。
その後、ゴスロリのオカンを見て、泡(あわ)を吹(ふ)いて倒(たお)れたオトン。
この夏、俺は色々な意味で人生最大の恐怖を味わった。