単行本 - 日本文学

MOMENT JOONの問いと思索に引き裂かれる『日本移民日記』

痛々しさを孕んでいる日記だ。あなたをどこまでも追い詰め、常識と価値観を丁寧に丁寧に引き裂いてくる。

 著者のMOMENT JOONは韓国出身、大阪在住の移民ラッパーであり、二〇二〇年に発表したアルバム『Passport & Garcon』はその年のベスト・ヒップホップ作品との声を集めた。試しに、今数曲だけでもいいから聴いてみてほしい。普段ラップ音楽なんて聴かない、というあなたも。

 硬いキックに不穏なビート。身体が揺れる。スッと、MOMENT JOONのラップが入る。より一層リズムが補強される。しかし、すぐに様子がおかしい、、、、、、、ことに気づく。あなたは対峙し続けられるだろうか。次から次に襲ってくる、日本に対しての愛ある告発。リリックひとつひとつの音を、〝意味〟が切り刻む。身体にブレーキがかかり、引き裂かれる。それでも、言葉はとめどなく降ってくる。自分が〝常識〟だと思っていたことは、一体何だったのだろうか?

 MOMENT JOONの音楽を聴くあなたがそうであるように、『日本移民日記』は著者本人が内省を繰り返すことによって引き裂かれるさまがぐるぐると綴られている。「外人」「韓国人」「留学生」……それらがどこまでも「日本に来る前のお宅の国」を意識させ、キャラクターとして生きることを強いてくるという、想像を絶する体験。「今この日本に住んでいることをはっきりと示す」、ただそれだけのことを手に入れるために葛藤の果て辿り着いた呼び名が〝移民〟だった。

 しかし、著者の自問自答は止まらない。「正直に言えよ」「実は怒ってるくせに」「諦めたら楽になるぞ」「逃げたかっただろう?」「死ねば? 死ねばいいのよ」「残酷な話、人生よりも死の方がインパクトがあるケースがあるからさ」……。本書では、日本/韓国といった二項を数多く並べながらも決してそれらを単なる対立関係に見立てることはせず、安易に〝気まずくない〟着地点に落とすこともしない。私たちはもう、前者が過激な分断を生み、後者が毒にも薬にもならない空虚さを作ってしまうことを知っている。かと言って、著者はこの二項を脱することもしない。どちらをも愛しているから、怒りと憎しみをぶつけつつ問いを繰り返す。

 差別用語や在日といったテーマについて思考する中でも、〝外見〟をテーマに論じる「シリアス金髪」の章が興味深い。自らの重さ・シリアスさに嫌気がさし、黒髪の一部を脱色し白髪にすることで軽やかさの獲得を目指したが、結局脱色がうまくいかず金髪になってしまった旨を告白する。どれだけ色を抜いても抜けきれない、黒/白を目指しても失敗する─髪色すらもMOMENT JOONを分裂させているのだ。

 けれども、この分裂は愛おしい。ただ一人で問いを繰り返しているのではなく、誰よりも、〝あなた〟の方を向きながら悩んでいるから。ゆえに、本書に書き連ねられている日本語はまっすぐでスッとしている。固定観念がマッサージされていくように、あなたは、気がつくと引き裂かれている。

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