単行本 - 日本文学
「生きるとは」「愛するとは」を問う、 BL界の人気作家による新境地書き下ろし!
菅野彰
2016.04.07
菅野彰
自由とは、なんと恐ろしいことだと初めて知った。
書くことは長く仕事にしてきたけれど、今までは何かしらの約束を守って書いて来た。それは私が自分で望んだ約束だし、その約束を私は今現在も充分に楽しんでいる。
デビュー前に、私は奇しくも河出書房新社の「文藝」に投稿していた。二次選考を超えられることはなく、そのときから随分と時間が流れたけれど、そういった創作方法を望む思いはそもそもあった。
十二年ほど前からだろうか。
時折、
「約束ごとのない世界で執筆を試みてみませんか?」
そう声を掛けてくださる方々が現れた。
望む気持ちがあったのでありがたいと思い、どのお言葉ともその度真摯に向き合って来たけれど、今日まで何一つ成ることはなかった。
今回の自著の担当編集者とは、実は長いつきあいになる。
その中で彼女が、エッセイ「女に生まれてみたものの。」の単行本化を河出書房新社で担当してくれたのが2008年だった。
発行の際に彼女は、
「次は小説で」
と言ってくれた。
そこから現在まで、八年が経っている。
今作を脱稿するまで私には、今までいくつかの機会をいただきながら形にできないのは何故だろうという気持ちがあった。
脱稿してやっと、その問いにははっきりした答えが出た。
その日まで私には、この自由の中を泳ぐということはできないことだったのだと、わかった。何故も何もない。できなかったから、書き上げられなかった。それだけだったと、書き上げてみて初めて理解した。
今までしてきた仕事も私には全てに、誠意と真摯な愛がある。それは、前を向いて胸を張って言える。
それでもこの、心のままに、思いのままに、どんな風に書いてもかまわないという自由を泳ぎ終えた気持ちは、言葉にするのが難しい感慨がある。
自由はとても恐ろしかった。
同時に、自由に「了」をつけた歓喜は、大きなことだった。
叶うなら私の自由なページをめくっていただけることを、心から願う。