単行本 - 人文書
『和食とうま味のミステリー』刊行記念対談:北本勝ひこ×石川雅之(「もやしもん」)第2回
北本勝ひこ
2016.04.27
『和食とうま味のミステリー:国産麹菌オリゼがつむぐ千年の物語』刊行記念対談【第2回】
北本勝ひこさん(東京大学名誉教授)
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石川雅之さん「もやしもん」
麹研究の権威が、サイエンスの立場から和食の歴史をつづった書籍「和食とうま味のミステリー」が発売になりました。
農大を舞台にした大ヒット漫画「もやしもん」の著者・石川雅之さんに、カバーイラストを描いていただいたことから、刊行を記念した対談が実現。
東京大学農学生命科学研究科の北本先生の研究室での対談の第2回配信です。
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※第1回の対談はこちらをご覧下さい。
●菌が見えることがある!?
編) 「もやしもん」の主人公・沢木惣右衛門直保は菌の姿が見えるわけですが、北本先生は長い研究生活で、そんな経験はありますか?
北) 「見える」とは言いませんが、酒蔵に行き、麹の出来をみるために食べていると愛着がわいてきます。
大学では学生に「研究のためには菌を好きになれ」と言っています。
石) やっぱり好きじゃないと研究者にはなれないですよね。
北) そうですね。好きであることに越したことはないと思います。
残念な話ですが、学生の半分近くは単位を取るために研究をしています。東大生は優秀だからそれでも出来ちゃうし、修士論文も書けちゃうんですが、なにか研究成果を出そう、世界で一番になろうと思ったら、夜中でも土日でも頑張らないとダメです。そうなると、菌に対する愛情がないと続かない。麹菌が大好きで来た学生と、クジであぶれてきた人ではモチベーションが違いますから。学生から「入学前に何を勉強しておけばいいか」と聞かれることもあるんですが、「本は読まなくていいから麹菌の気持ちがわかるようになれ。日本酒を飲み、味噌汁を食べて麹菌と一体になれ」と返すことにしています。
石) 酒蔵に取材に行ったとき、どこの杜氏さんも「麹の声を聴く」「醪の音を聞く」と仰います。オリゼを擬人化するアイデアは、杜氏さんの話が大きかったですね。
北) 研究に行き詰って、方向に迷ったときに、菌の気持ちになって考えると不思議と成功するんです。科学的な話ではないですが、野球の神様がボールが止まって見えた、みたいな。
石) 興味深いですね。菌の気持ちになれるようになってきたのはいつごろですか?
北) 30歳を過ぎた頃ですかね。当時酵母の遺伝学の研究をしていました。変異株を取ってきて無菌箱で植えるんです。目には見えないですが、普通部屋には菌がいっぱいいます。なので無菌箱を使うわけですが、前の実験者の名残で、無菌箱も油断できない。場合によっては普通の部屋で実験することもありました。
窓を閉め、バーナーを燃やします。すると上昇気流が発生して、局所的に無菌状態になる。ただ菌を植えるとき、目に見えない雑菌を意識してよけながらやると、うまくいくことが多い。こういうことはたくさん経験しましたね。
編) 「もやしもん」最終13巻のラストシーンで、長年の研究の結果、樹教授がようやく沢木のように菌が見えるようになる感動的なシーンがありますが、それを思い出しますね!
●今後について
北) 昨年教授職はリタイヤし、今年は東大で研究だけの生活でした。ただ今後は、基礎的な研究は若い研究者に任せて、麹菌の良さを一般の方々に広めることに専念したいと思っています。
麹菌の良さを日本人があまり認識していません。まだまだ無限の可能性を秘めているんです。健康についてだって、乳酸菌研究は進んでいますが麹菌はまだまだ。
わかりやすいところでは、私が監修した甘酒を世に出したいと思っています。麹菌を直接摂取できる甘酒は、免疫機能改善などに非常に効果的。いま正式な東大ブランドで泡盛やワインが人気ですが、そのうち東大グッズとして甘酒が並ぶかもしれません。そのときはぜひ買ってください(笑)
石) 買います。楽しみにしています。
編) 石川先生、まさに今日、新作単行本「惑わない星」が発売になりましたが(対談日3/23)、今後の夢を聞かせてください。
石) 「もやしもん」では取材から執筆、発表、そしてその後と、僕自身とても世界が広がりました。読者の皆さんと一緒に日本酒を造るために、田植えからやったりとか。
これからも同じように世界を広げていきたいですね。また読者のみなさんにも、漫画を読んで終りにならないようにしてほしいです。靴を履いて外に出てほしい。
でも「惑わない星」は宇宙が舞台だからさすがに難しいかな(笑)
北) 今日1巻目が発売ですが、長い物語に?
石) どれくらい続くかについてはまだ全然考えてないです(笑)
ただ、大変ですが勉強は自分なりには一生懸命しました。つくづく感じるのは、物理が日本で人気がない理由は、国語と親和性が低いからだと思います。基本数式ですからね。
「もやしもん」連載時から、次は宇宙を題材にしたものをと思っていました。どこか通じるものがある。菌という極小の世界から広大な宇宙に振り切れましたが、両者の間に仕切りはありません。
なんとなくやれるだろうと思って始めたんですが、考えが甘かったです(笑) 大変ですが、楽しんでもらえるように頑張ります。
編)両先生とも、お忙しい中ありがとうございました。
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