単行本 - 外国文学

2014年度ピューリッツァー賞受賞、300万部を超える世界的ベストセラー!

9784309207100
『ゴールドフィンチ1〜4』

ドナ・タート 岡真知子訳
 
美術館爆破テロで母を亡くした少年・テオは、その時美術館から1枚の名画を持ち去った――レンブラントとフェルメールを結ぶ画家、ファブリティウスの「ごしきひわ」。孤児となったテオはそのオランダ黄金時代の小さな名画とともに、波瀾万丈の運命を辿ってゆく。友情と裏切り、恋と失望、ドラッグとギャング、そして名画をめぐる恐れと魅了……。「21世紀のディケンズ」とも称された、長編大作全4巻。
 
 
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ドナ・タートは並外れた作品を生み出した
――スティーヴン・キング

 

爆発、友情、裏切り、犯罪、活劇、そして恋。
人生のすべてがここにある
――大森望
 
堂々たる名作(クラシック)のような風格がありながら、テロ後の傷ついたニューヨークを少年に見立てた現代の物語でもある。変わらない美を守ろうとする孤児の主人公に寄り添って、永遠に一緒に冒険したい。読み終わるのが本当に惜しい本だった
――山崎まどか
 
ストーリーテリングへの愛を呼び覚ます、驚くべき到達――『ガーディアン』紙(イギリス)
アウトサイダーを描写する、並外れた才能――『タイム』紙(アメリカ)
美しく、才気に満ちた文体による成長物語――『Volkskrant』紙(オランダ)
われを忘れるほど没頭する――南ドイツ新聞
素晴らしく魅力的な小説――『ル・モンド』紙(フランス)
卓越した作品――カーカス・レビュー
2014年度カーネギー賞受賞
Amazon.comベスト・ブック・オブ・ザ・イヤー2013
『パブリッシャーズ・ウィークリー』誌2013年ベストブック
 
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訳者あとがき
 
 
本書『ゴールドフィンチ』(The Goldfinch)は、ドナ・タートの十一年ぶりの大作で、二〇一三年に出版されるやたちまち評判になり、『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラー・リストのトップにのぼりつめ、四十週以上にわたり十位内にとどまった。イギリスでも同様で、『サンデー・タイムズ』のベストセラー・リスト(ハードカヴァー・フィクション)の十位内に二十週以上ランクイン。そして二〇一四年には、ピューリッツァー賞(フィクション部門)を受賞した。
著者の三作目の長編小説である本書の舞台となるのはニューヨーク、ラスベガス、そしてアムステルダム。一人の少年の成長譚であり、冒険物語でもあり、絵画をめぐるミステリー的要素が盛り込まれた作品でもある。
主人公は十三歳の少年、テオ・デッカー。本書の語り手でもある。物語は、テオが母親と一緒に訪れたメトロポリタン美術館で爆破事件に巻き込まれるところから始まる。テオは奇跡的に生き残ったものの、母親の姿はどこにも見当たらない。周囲に瓦礫が散乱する中、テオは謎めいた瀕死の老人の指示で、美術館の名画をひそかに持ち出してしまう。その名画こそ、本書のタイトルにもなっている『ゴールドフィンチ(ごしきひわ)』だった。その絵は、十七世紀オランダの画家、カレル・ファブリティウスによって描かれたもので、テオの母親が最も気に入っていた作品でもあった。『ゴールドフィンチ』は、一六五四年にデルフトで起こった火薬庫の大爆発を生き延びた、〝値のつけられないほど〟価値のある傑作である。ファブリティウス自身がその爆発事故で三十二歳の若さでこの世を去り、残された作品は十点に満たない。そんな貴重な絵を、なぜその老人はテオに持ち出すように迫ったのだろう? 老人はいったい何者なのか? 母親は生きているのだろうか? 謎に満ちた導入部から一気に物語の世界に引き込まれる。
本書がこれほど多くの読者に支持されたのも、一つには、こうしたスリルに満ちたストーリー展開が楽しめる点にあるのではないだろうか。
主人公テオは、当時、マンハッタン区東五十七丁目のアパートで母親と二人で暮らしていた。父親は失踪し、行方がわからない。そんな中、最愛の母の死を知った彼は、呆然自失の状態で、絵をアパートに置いたまま、親友アンディの家に身を寄せることになる。絵を返還しなければと思いつつも、そのすべもわからず、結局ずっと持ち続けたため、罪の意識や恐怖心にさいなまれるはめになる。そんな彼の心情が丹念に描写される。母を失った深い悲しみと喪失感。母親への断ちがたい思慕の情。家族を捨てて失踪した父親への、愛憎相半ばする複雑な気持ち。
登場人物は多彩で、それぞれが生き生きと描かれる。ディケンズの「オリバー・ツイスト」にたとえられる、孤児同然のテオ、明るく茶目っ気のある魅力的な母親、飲んだくれで自堕落な元俳優の父親。テオの悪友でのちに生涯の友になる、愉快で奔放なボリス。小妖精のような不思議な魅力をもつピッパ。テオをさりげなく思いやる繊細で頭のいい少年アンディ。そしてテオの人生に深く関わることになる家具職人のホービー。彼はテオが母の死を乗り越え、もがき苦しみながらもなんとか自分を取り戻し、骨董商として生きていこうとするのを温かく見守る。
こういった多様な人間が繰り広げるドラマ、エピソードの一つ一つが印象深く、心にしみる。そしてさまざまな場面で交わされるユーモアに満ちた会話(ときにはロシア語やスペイン語がまじる)や、ほろりとさせられる心暖まる出来事なども描かれ、物語を読む喜びが味わえる。
なお本書の主な舞台になっているニューヨークは、テオが最初に住んでいたミッドタウンのサットン・プレース、高級アパートが立ち並ぶアップタウンのパーク・アベニュー、ホービーの骨董店があるダウンタウンのグリニッチ・ビレッジ、〈ティファニー〉が店舗を構える五番街など、実在の通りや地域が登場し、街並みも雰囲気も住民も多様な街の姿が描かれているのも興味深い。
原文で七百七十一頁に及ぶ本書には、文学、映画、音楽など、さまざまな要素が盛り込まれているが、なかでも美術と骨董に関しては多くの頁が割かれている。第一章の章題「頭蓋骨を持つ若者」は、フランス・ハルスの同名の肖像画からとったもので、第二章の章題「解剖学講義」は、レンブラントの集団肖像画『ニコラース・テュルプ博士の解剖学講義』に由来する。その他、十七世紀のオランダ絵画黄金期の名画の数々が登場する。骨董については、アン女王様式やチッペンデール様式といった十八世紀の家具も紹介され、骨董家具の魅力や、修復作業の様子、修復の極意などが述べられる。また絵画や骨董に美を見出し、生きる力を得た主人公の芸術に対する思いも真摯に語られる。
そしてこの物語において主人公が深い愛着を抱く名画の作者、カレル・ファブリティウス(一六二二〜一六五四)は、レンブラントの工房で腕を磨いた四十人ほどの弟子たちのうち、「最も才能にあふれ、独創性のある弟子だったのかもしれない」(「フェルメールとレンブラント︱17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち」展の図録)と評される人物である。また、ファブリティウスは、「卓越した深みと力強さ、そして技術的に確かな腕前をもつ画家」(同図録)であったらしい。フェルメールの師だったという説もあり、前途を嘱望された画家であったようだ。

本書には数多くの賛辞が寄せられている。主なものを紹介すると、「『ゴールドフィンチ』は十年間で五、六冊出るかどうかの稀にみる傑作で、巧みな語り口の文学作品である。……ディケンズの傑作と同様、この小説は思いもかけぬ出来事を中心に展開する。……タートの言葉は、濃密で、引喩に富み、非常に生き生きとしていて、夢中にさせられる」(スティーヴン・キング『ニューヨーク・タイムズ、サンデー・ブック・レヴュー』二〇一三年十月)。
「ディケンズを思わせるこの驚くべき小説で、ミズ・タートは多種多様な才能を駆使して、読者を想像力に富んだフィクションの世界に熱中させ、徹夜で本を読む喜びを思い出させてくれる」(ミチコ・カクタニ『ニューヨーク・タイムズ』二〇一三年十月)。
そしてまた本書は、『ニューヨーク・タイムズ』の「二〇一三年のベストブック十冊」に、アマゾンや『パブリッシャーズ・ウィークリー』の「二〇一三年のベストブック」に選ばれた。しかも二〇一四年には、カーネギー賞(フィクション部門)を受賞、『タイム』誌の「世界で最も影響力のある百人」の一人にも選ばれた。
著者ドナ・タートは一九六三年、ミシシッピー州グリーンウッド生まれの作家、エッセイスト、批評家。ベニントン・カレッジ卒。一九九二年に発表した処女作『シークレット・ヒストリー』(The Secret History 吉浦澄子訳、扶桑社)は作家や批評家たちから絶賛を浴び、大ベストセラーになり、センセーションを巻き起こした。第二作『ひそやかな復讐』(The Little Friend 拙訳、扶桑社)はその十年後の二〇〇二年に刊行され、W・H・スミス文学賞を受賞。本書は三作目の長編小説で、三十二カ国で翻訳出版され、世界的なベストセラーになっている。また二〇一四年十一月二十日付の『タイム』誌によると、本書の映画化が決定され、現在進行中とのことである。

本書の翻訳に際しては、多くの方々にお力添えいただいた。ロシア語の意味とカタカナ表記を、東京藝術大学講師の木村敦夫先生に、ラテン語の意味を、早稲田大学文化構想学部教授の宮城徳也先生に、水鳥の和名を山階鳥類研究所の平岡考氏にご教示いただいた。そして前作『ひそやかな復讐』に続いて、今回もティモシー・コールマン氏にひとかたならぬお世話になった。東京大学大学院総合文化研究科で修士号を取得したコールマン氏は、英米文学や日本文学に造詣が深く、引喩がちりばめられた本作品を理解する上で、実に多くのことを教えていただいた。心からの謝意を表したい。また「プレッシャーなど忘れて、作品、主人公、作者とだけ向き合ってください」と励ましてくれた友人にも深い感謝を。
末筆ながら、訳文についてのさまざまなアドバイスをくださった鹿児島有里さん、おびただしい数の固有名詞等を綿密にチェックしてくださった校正者の方々、翻訳に関して貴重なアドバイスをいただき、編集の労をとってくださった河出書房新社編集部の竹花進氏にも心より御礼を申し上げる。

二〇一六年四月

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著者

ドナ・タート

63年、ミシシッピ州生まれ。92年の処女作『シークレット・ヒストリー』でデビュー、世界的ベストセラーに。3作目の本書で2014年、ピューリツァー賞(フィクション部門)受賞、『タイム』誌「最も影響力のある100人」に選出。

【訳者】岡 真知子

翻訳家。訳書に、ドナ・タート『ひそやかな復讐』、アリス・ホフマン『七番目の天国』、バーバラ・T・ブラッドフォード『運命の貴公子』、セバスティアン・フォークス『シャーロット・グレイ』など。

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