単行本 - 日本文学
最大のアナキストの言葉がとてつもない勇気と救いをあたえてくれる――栗原康『死してなお踊れ 一遍上人伝』
栗原康
2017.01.24
栗原康『死してなお踊れ 一遍上人伝』
<内容紹介>壊してさわいで燃やしてあばれろ! 踊り念仏の一遍がダメな者たちをこそ救うためにアナーキーに甦る。注目の著者による渾身の力篇!
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『大杉栄伝』でアナキスト大杉の生涯を、そして『村に火をつけ、白痴になれ』でその妻でもあった伊藤野枝の生涯を描いた栗原康さんの三冊目のバイオグラフィは一遍を描きます。アナキスト二人の次になぜ宗教者を、と思われる人もいるかもしれません。しかしこの本を一行でも読めばその疑問は消えることでしょう。一遍は実は最大のアナキストなのです。
一遍は法然、親鸞とともに浄土系の宗教をつくりだしました。念仏をとなえるだけで阿弥陀仏の本願がこの身に実現されるという他力信仰はそれまでの修行や悟りによる仏教を根底からゆるがす大きな転換でした。最初に念仏だけの救いをとなえた法然、それを徹底させて「悪人こそ救われる」とまでいいきった親鸞、彼らの言葉はそれだけでもアナーキーです。だからこそ二人はいまも過激な輝きで人々をひきつけますが、一遍はさらにその教えをつきつめました。それが「捨てる」という実践であり、その果てに見出された「身体」での信仰の実現、「踊り念仏」でした。
栗原さんは一遍の軌跡をたどりながら、他力にめざめ、さらに「踊り念仏」を見出し、人々を熱狂させていく過程を描き、そこにすべての既成概念と権威から逃れて新しい民衆の思想をつくりだす可能性を普遍的なものとしてとりだしていきます。その言葉のひとつひとつが混迷する世界におしつぶされそうになっているあなたの心に光をあたえるはずです。
とてつもない勇気と救いをあたえてくれる一冊です。そしてこれを読んだら明日から会社も学校も家族も捨ててしまいたくなる危険な本でもあります。(編集部A)