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勝てば神。負ければただの負け犬だ。|期間限定公開『俺の残機を投下します』スピンオフ/ステージ0 第一話

ヒットメーカー・山田悠介、感動の最新小説
『俺の残機を投下します』
2020年7月14日(火)より全国順次発売!

著者「新境地」と評された大ヒット作『僕はロボットごしの君に恋をする』(以下、『僕ロボ』)から3年。河出書房新社は、人気作家・山田悠介の最新作『俺の残機を投下します』を2020年7月14日より全国順次発売いたします。

落ちぶれたプロゲーマー一輝に奇跡の出会いが待っていた。一輝は巻き起こる事件を乗り越え大切な人を守ることができるのか? 大ヒット『僕ロボ』から3年、ミリオンセラー作家が放つ感動大作!

 

発売を記念して、物語のプロローグとなるスピンオフ作品「ステージ0」を特別公開!
(全5篇、8月末までの限定公開)毎週1話更新

各界のトップクリエーターが集結!
PVプロジェクト進行中
特設サイトはこちら
http://www.kawade.co.jp/zanki/

 

ステージ0 ―十六歳、出会い―
山田悠介

<1>

 

「よっしゃー、ざまあみろ!」

店内に上山一輝(かみやまかずき)の叫び声がこだました。

敗れた相手は一輝の対面の筺体からすごすごと出てくる。ひ弱そうな体つきに細面の顔。大人しめの表情の上に眼鏡をかけている。身体は小さいが一輝よりは年上だろう。カジュアルな服装から大学生くらいに見えた。

しかし一輝は年上だろうが女性だろうが関係ない。いざ舞台に立ったら真剣勝負。勝つか負けるか。食うか食われるか。ただそれだけだった。

勝てば神。負ければただの負け犬だ。

〝残機〟なしの一発勝負なのだ。お互い一万円を賭けたマネーマッチであればなおさらである。

一輝は相手の筺体の上に置かれた一万円札をポケットにねじこんだ。

やや長めの前髪をはらい相手を睨みつける。

線は細いが百八十センチ近い身長と鋭い眼光、そして場慣れした度胸。

年下とはいえこれだけで大概の奴は戦意を失うのが常だった。

「俺に挑もうなんて百年早ええんだよ!」

一輝がいつものキメ台詞を口にする。負けた大学生は一輝の罵声にも反論せず大人しく引き下がる。しかし一輝は容赦ない。

「チッ、覇気のねえ奴。次は誰だ⁉」

一輝は筺体に座り直すと、店中に聞こえるほどの大きな声を張り上げた。

 

一輝がいるのは川崎駅東口に広がる繁華街の一角。業界では有名なゲームセンターだった。

オンライン対戦ができる家庭用ゲーム機が普及したことで、全国にたくさんあったゲーセンはどんどん数を減らしている。しかしこの店は首都圏の強者ゲーマーたちが集まりしのぎを削っている。特に格闘ゲーム、いわゆる格ゲーの大人気シリーズ「トランス・ファイター」のファンやプロゲーマーが集まる〝聖地〟と言われていた。オンラインではなく直接会うことで、情報交換をして親交を深めているのだった。

そんなゲーマーの中でも一輝は異質な存在である。まだ十六歳。高校一年ながらこのあたりでは一番強く、ゲーマー名〝イッキ〟の名は周辺に轟いている。小学生のころからゲーセンに入り浸って大人相手に戦ってきたが、ここ最近の成長はさらにめざましかった。

もともと手先が器用で頭もキレる。なによりセンスがいい。そんな一輝が人一倍ゲームをやり込み、常連客を相手に戦ってきたのだ。勝負勘や度胸が備わり向かうところ敵なしだった。

結果、一輝の自信とプライドはどんどん膨れ上がっていたのである。

 

一輝が声を上げて次の対戦を促す。しかし周りで見ていた多くのギャラリーは一輝の無敵っぷりに尻込みしていた。負けるとこてんぱんに罵られる。しかも一万円を賭けたマネーマッチだ。腕に自信のあるセミプロでも軽はずみに手を挙げられない。強い相手と戦いたいのはやまやまだが嫌な思いもしたくない。

するとそこに、スーツ姿の男がギャラリーの輪を割って現れた。

「おい坊主、今度は俺がやってやんよ」

スーツとはいえ堅気のサラリーマンには見えない。強めのストライプが入ったネイビーのスーツに、首元で緩く結ばれた派手めのネクタイ。パンツは太めでだらしなく腰ではいている。頭は艶のあるオールバック。目つきが鋭く全身から煙草の匂いをまき散らしていた。

笑顔で煽っていた一輝はその男を見るなり目を細めた。

この男、たまにこの店で見かける奴だ。平日の夕方からゲーセンにたむろってるなんてロクな大人じゃない。メチャクチャに打ち負かして恥をかかせてやる。

一輝は学生服のブレザーを脱いでワイシャツの袖をたくし上げる。

対戦相手が決まれば挨拶も何もない。一輝は男の目をひと睨みすると、ゲーム筺体に座り直してコントローラーに手を乗せた。

選んだのは一輝のいつものキャラクター〝ソウヤ〟だ。

日本の大手ゲームメーカーが三十年以上前にスタートさせた人気シリーズで、世界中に多くのファンを抱えている。特にお膝元である日本での人気は高く、最近は多くの大会が開かれていた。賞金総額も年々高くなり、少し前にはこの「トランス・ファイター」を扱う日本第一号のプロゲーマーが生まれている。

ソウヤはいくつもあるキャラクターの中で、このゲームを代表する主人公キャラである。常にセンターを勝ち取っている自分に相応しい。

一方、相手のスーツ男は〝ダバロス〟を選んだ。毛むくじゃらな巨体に棍棒を振り回す醜いモンスターキャラである。この男にぴったりだ。

「Fight!」

ゲーム筺体から戦闘開始の声が轟く。

それを聞いた瞬間、一輝は流れるような操作でソウヤを突進させた。

何度も戦った相手なら出方も分かるし対策も取れる。しかし店で見かけてきたとはいえこいつと戦うのは初めてだ。初めての相手は何もかもが未知数である。

とはいえ一輝はこれまで数々の修羅場をくぐってきた。相手の雰囲気を見れば瞬時に戦い方を決められる。

男の様子を見るに明らかに血の気の多いバカだろう。当然〝攻撃重視〟のスタイルのはずだ。こんな相手に守りに入っては後手に回る。相手の攻撃を上回るほどの攻撃を見せて圧倒する。リズムを失った相手は為す術がなくなるはずだ。

そこで一輝は一気に相手の刃圏に入ると、いきなり高速のコマンドを打ち込んで高難度の技を繰り出した。

まず相手の蹴り技を膝蹴りで牽制し、そのまま相手の頭を抱え込む。そして背負い投げの要領で地面に叩きつけると、そのままソウヤの大技・烈風投掌拳を炸裂させたのだ。

周りから驚嘆と称賛の声が上がる。

画面上部にお互いの持ち点である〝ライフ〟が表示されている。一輝のソウヤが100のままなのに対してダバロスは早くも83まで減っていた。敵を先に0にすれば勝ちである。

ダバロスはフラフラになりながら立ち上がろうとする。しかしこのコンボ、いわゆる連続技を喰らうとすぐに臨戦体勢を取れなくなるのだ。

その一瞬の隙を一輝は見逃さない。畳みかけるようにダバロスを投げ飛ばし、続けて烈風投掌拳を決めた。こうなると敵はもうこのループから抜け出せない。ライフを使い切るまでただサンドバッグになるだけである。いわゆる〝永久コンボ〟というやつだ。

一輝はこのモードに入り筺体の中でほくそ笑んだ。

「クソリーマンが調子乗りやがって。もう終わりだ」

一輝はソウヤによるこの永久コンボを十八番にしていた。非常に難しいコマンドをわずか六十分の一秒の中で正確に打ち込まなければならない難しい技だ。ゆえに決まったときはギャラリーから歓声が上がる。技の演出も派手でその爽快感はハンパない。相手が為す術なく足元に転がるのも優越感を満たしてくれた。

ただ、永久コンボはかけたときこそギャラリーも沸くもののそのあとは静まり返る。かけられたほうにもう勝ち目はない。ただライフが無くなるのを待つしかないのだ。見ているほうはドキドキしないらしい。

しかし一輝にとってそんなことはクソ喰らえだ。

勝てばいい。どんな手段を使っても勝てば正義なのだ。

四回目のコンボが決まりダバロスは早くもライフを一ケタまで減らしている。もう勝利も時間の問題だ。

ところがあと一回で勝利確実と思っていた矢先、その永久コンボが突如破られたのである。ダバロスがその巨体でヒラリとかわし烈風投掌拳が空を切ったのだ。

予想外の展開に一輝は啞然とする。

この技が決まったら逃れられるはずがない。だから〝永久〟なのだ。

その間隙をダバロスは見逃さない。持っていた棍棒をブーメランのように投げてソウヤに軽い一撃を喰らわすと肩の上にソウヤを乗せる。そのまま回転しながら宙を舞い、体重を乗せたまま地面に叩きつけられたのだ。

その一撃でソウヤのライフは50を切っている。今度は連続攻撃を喰らったソウヤの頭に星が飛び散り、レバーを動かしても操作できない。そこにふたたびダバロスが肩にソウヤを乗せた。

永久コンボを永久コンボで返された――

一輝の頭の中が一気に沸騰する。

いくらコントローラーを操作してももう遅い。逃れようともがくが、その努力も虚しくふたたびダバロスが回転をはじめたのだ。

しかも、敵はすぐに叩きつければいいものをわざと長く回転を続けている。勝負のついたこの状況で一輝を晒し者にしているのだ。

一輝は奥歯を嚙みしめた。

こんな敗戦の仕方は初めてだ。

まさか永久コンボをかわされて逆にかけられるなんて。

さっきまでかましていた余裕から一転、冷や汗が噴き出る。

注目しているギャラリーも思うだろう。

最高にダサい負け方だ。

そう思った瞬間、まだ相手のコンボが決まる前に一輝は筺体を飛び出した。

そのまま対面の筺体に近づく。

周りで見ていたギャラリーは呆然としている。

一輝はまだコントローラーを握っているスーツ男に飛びかかった。

「てめえイカサマしてんじゃねえぞ!」

「何言ってんだよ、このガキ」

「あの技が破れるわけねえだろ。どんな細工した!」

「おい、やめろよ!」

一瞬固まっていたギャラリーたちが止めに入る。

しかし頭に血が上った一輝の耳には届かない。

胸倉を摑み捻り上げると、逆に男の拳が一輝の頰に飛んできた。鼻血が噴き出し口の中が切れる。一輝はお返しとばかりに相手の顔面に頭突きした。

「てめえ、ふざけんなよ!」

「上等だこのヤロウ。相手んなってやんよ!」

スーツの男が一輝を押し倒し馬乗りになる。さすがに大人だ。高校生の一輝は力では敵わない。そこで一輝は男の腕を思いっきり嚙む。相手が叫んでいる隙に立ち上がると、腹に向けて蹴りを入れた。

「おい、誰か店員呼んでこい」

「いや警察だ! 手に負えねえ」

周りで見ていたゲームファンも巻き込んでトランス・ファイターのコーナーが大混乱になる。

数分後、ゲーセンの前にパトカーが急停車したころには店内はムチャクチャになっていた。

 

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