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【4日連続公開】町田康『ギケイキ』試し読み 第2回

町田康さんのデビュー20周年となる記念すべき今年、超娯楽大作『ギケイキ 千年の流転』が刊行されます。6年ぶりとなる長篇小説『ギケイキ』は、室町時代に成立したとされる『義経記』をベースとしたオリジナル小説。4日連続試し読みの第2回を公開します。
今回は義経が菊門を狙われる名場面です。

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町田康『ギケイキ 千年の流転』試し読み 第2回

 それから何日か経ったある日のこと。夜中になって少進坊が私の部屋に来た。もはや誰もが寝静まった時間で私も布団に入っていた。そこへさしておっさんが忍んできて、するっと布団に入ってくるということは当然、菊門をつけ狙ってのことだ、と思うから肛門を引き締めて身を固くしていると少進坊は耳に口を押しつけてきた。
 いよいよだ。気色悪いなあ。そう思っていると少進坊は意外なことにそれ以上のことをしようとせず陰気な口調でぼそぼそ話し始めた。少進坊は以下のように語った。
「あなた様はなにも知らないのですか。本当に? だったら申し上げますがねぇ、あなたはねぇ、清和天皇様十代の御末裔で、左馬頭様のお子さんなんですよ。こんなとこで白身魚のフライとか食ってていいんですか。っていうおまえはどこのどいつじゃ。四条の堂の坊主がなんかしとんじゃ、と思うかも知れませんから申し上げますがねぇ、私は左馬頭様にお仕えした鎌田正清の子です。あなたね、自分のお父さんがあんな風になって、一門の方々がみなあっちゃこっちゃで、平家の奴らばっかし偉そうにしくさって意味なく威張り散らしてる今日のこの状況をなんとも思わないんですか。蹶起しようと思わないんですか。チンポないんですか」
 咄嗟にこれは罠だと思った。
 勿論、父のことは母から聞いて知っていた。そして母は、「おまえたちはいつ殺されるかわからない。平家の人たちは隙あらばおまえたちを殺そうとしている。隙を見せてはならない。見せたら瞬間的に殺される。自分は無害な人間だと周囲に思わせなければならない。っていうか、本当に無害な人間であらねばならない。そうしないと殺される」と一日四十回くらい言っていた。
 そう言い聞かされて育ったものだから、こいつは平氏の人に言われて、私を扇動しにきたのではないか、と思ったのだ。こいつの口車に乗って、「よっしゃ、ほないっちょやったろかい」などと口走った瞬間、物陰に隠れていた屈強な男たちが走ってきて捕縛されて連れて行かれてろくな裁判もないまま惨殺されるのではないか、と先ず思ってしまうのだ。
 そこで薄目を開けて、あ、そうなんだ。え、マジ? すごーい。を順番に言って気のない風を装っていたのだけれども、この少進坊というのがめげないというか、偏執狂特有の粘り強さでいつまでも語ってやめず、話を聞くうちに、もしかしたら罠ではなく、こいつマジで平家打倒を狙ってるんじゃないか、と思うようになった。
 そう思って話を聞くと、身内しか知らないようなことも知っているし、鎌田正清の息子が逃げているという話も聞いたこともあって、そこのところは本当だと思うようになった。
 また、母が言わなかった父の話もあって、そこいらはもっと聞きたかったし、怪しい奴ではあるが、また、会おう、と言って別れた。最終的には菊門もやられた。
 そのとき、「ただ、人目につくところで会うのはまずいよね」と私の方から言った。なぜそう言ったのか。菊門は関係ない。私の心のなかに既に謀叛の志が芽生えていたからだ。
(続きは『ギケイキ 千年の流転』(5月13日発売)でお楽しみください)

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『ギケイキ』の特設サイトができました。登場人物紹介などもありますのでぜひご覧ください。

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【サイン会情報】
ギケイキ』の刊行を記念いたしまして、町田康さんのサイン会を開催いたします。ぜひお越しください。

2016年5月20日(金) 19:00~
紀伊國屋書店新宿本店 8階 イベントスペース

※整理券の配布は終了致しました。
[参加方法]
整理券の配布:
2016年5月12日(木)午前10:00より2階レジカウンターにて『ギケイキ』(税込1,728円)をお買上げの方、先着100名様に参加整理券をお配りいたします。

○電話予約:お電話でのご予約は整理券に残部がある場合に限り5月13日(金)10:00より下記電話番号にて承ります。お電話で予約されたお客様はイベント当日までに2階レジカウンターで書籍と整理券をお求めください。
○ご予約・問合せ先:紀伊國屋書店 新宿本店 2階文学・文庫売場 tel:03-3354-5702

詳しくはこちらをご覧ください。

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