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【4日連続公開】町田康『ギケイキ』試し読み 第3回

町田康さんのデビュー20周年となる記念すべき今年、超娯楽大作『ギケイキ 千年の流転』が刊行されます。6年ぶりとなる長篇小説『ギケイキ』は、室町時代に成立したとされる『義経記』をベースとしたオリジナル小説。現代に甦った源義経が怒濤の生涯を語り出す、4日連続試し読みの第3回を公開します。
おねぇ言葉を駆使する泥棒、藤沢入道にご注目ください。

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町田康『ギケイキ 千年の流転』試し読み 第3回

 そしてその日の夜中、あの事件が起こった。
 私たちが泊まっていた家に泥棒が入ったのだ。
 どんな事件だったか。それを言うには説明を要する。
 実はその年、記録的な不作で地方によっては農作物がまったく生産できなかった。
 農作物は当時の主要な産品で、それが生産できないということは経済がうまくまわらなくなるということ。経済がうまく回らないと、いろんな不都合が起きるが、最大の不都合はみんながそれぞれのレベルで生活に困る、という不都合。
 それは農民であろうが貴族であろうが変わりない。
 そして匪賊の方々も生活に困った。
 それまでであれば富裕だけれども軍事力が弱い領主のところとかに、うわああああっ、と適当に押し寄せていけばそれなりのものを奪えたのに、そもそもそういうところに産品が貯蔵されなくなって、そいつ自身が餓えているという体たらくと成り果てた。
 そこで、秋田県でトップクラスの泥棒の、由利太郎という人が、新潟県上越市というところに住む、これも有名な泥棒、藤沢入道と組み、長野の佐久太郎、山梨の八代権守、静岡県浜松市の蒲与一、静岡県清水市の興津十郎、群馬県の豊岡源八といった、東国の有名どころの匪賊・盗賊の方々、二十五名程度にお声がけをし、それぞれの部下を引き連れ、総勢七十名程度で東海道を強盗と遊興を繰り返しつつ京都まで行き、夏まではさんざんに銭とか米とかいろんなものを盗んで、秋になったら、東海道は手配りをしてあるだろうから、こんだ北陸道を通って、こっちでも無茶苦茶をしながら、それぞれの居住地に帰っていくという、東日本強盗連盟主催・東海北陸強盗ツアー、というプロジェクトを立ち上げた。
 一言で言うと、地元にいても食えないから、物資の通り道へ、そしてそれが最終的に集まるところへこちらから出向いていきましょう、という企画だ。
 まったくもって物騒な企画といえるが、確実に実行に移され、私たちが鏡の宿に泊まった夜、強盗ツアーはちょうど鏡の宿にさしかかったところだったのだ。
 強盗ツアーは大成功で、いくところいくところで無茶苦茶にものを盗んだり、人をあやめたり、婦人を凌辱するなどして、もはや京都も目前、夕方に鏡の宿についた一行は、通常に宿をとって酒を飲むなどして遊興していた。
 しかし、組織のトップに立つ人というのはやはり違う。
 強盗ツアーの最高幹部の由利太郎は宿に着くや、さっそく周囲の状況を探らせ、私たち一行がこの宿場に泊まっているという情報を得た。
 由利太郎は、ははは、いい気持ちだわ。などと言って酒を飲んでいる藤沢入道に言った。
「いい気持ちなんて言っている場合じゃありませんよ」
「あら、なんでよ。強盗ツアーは大成功、京都ももう目の前。こんな気持ちのいいことないじゃないの」
「それがそうじゃないんだよ。いまちょっと調べたらね、今日、この宿に京都で有名な金商人の吉次という人が泊まっているらしいんですよ」
「え、金商人。ってことはなに、大量の物資を輸送中ってこと?」
「That’s right. 藤沢入道」
「だとしたらこんなことしてる場合じゃないわ。すっごい儲けじゃない。行って強盗しなきゃ」
「だから、いい気持ちなんて言ってる場合じゃないって言ってるんですよ」
「ホントね。ごめんなさいね。すぐ支度するわ。みんなもいい? すぐに支度するのよ」
 という話になったらしい。
 それから深夜を待って、武装した開発領主の館などではなく、非武装の宿に押し入るのだから大人数はかえって邪魔、とて気が利いて力もある奴、六人が、胴に巻く腹巻という防具を着け、明るい明るい携行松明を掲げ、由利太郎、藤沢入道がチームリーダーとなって、合計八人で表へ出た。

(続きは『ギケイキ 千年の流転』(5月13日発売)でお楽しみください)

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『ギケイキ』の特設サイトができました。登場人物紹介などもありますのでぜひご覧ください。

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【サイン会情報】
ギケイキ』の刊行を記念いたしまして、町田康さんのサイン会を開催いたします。ぜひお越しください。

2016年5月20日(金) 19:00~
紀伊國屋書店新宿本店 8階 イベントスペース

※整理券の配布は終了致しました。
[参加方法]
整理券の配布:
2016年5月12日(木)午前10:00より2階レジカウンターにて『ギケイキ』(税込1,728円)をお買上げの方、先着100名様に参加整理券をお配りいたします。

○電話予約:お電話でのご予約は整理券に残部がある場合に限り5月13日(金)10:00より下記電話番号にて承ります。お電話で予約されたお客様はイベント当日までに2階レジカウンターで書籍と整理券をお求めください。
○ご予約・問合せ先:紀伊國屋書店 新宿本店 2階文学・文庫売場 tel:03-3354-5702

詳しくはこちらをご覧ください。

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