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秦建日子『And so this is Xmas』試し読み 第2回

篠原涼子さん主演でドラマ・映画が大ヒットした「アンフェア」シリーズの原作者であり、最近ではドラマ「そして、誰もいなくなった」などの脚本も手掛ける秦建日子さんの最新小説『And so this is Xmas』が間もなく発売になります。
試し読み第2回を公開します。
(第1回はこちら
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秦建日子『And so this is Xmas』試し読み 第2回

冷静に考えれば、それはまだ大した事件ではなかった。
被害はゴミ箱が一つだけ。轟音とともに砂埃は派手に舞ったが、その時点では怪我人一人出てはいなかった。
しかしそれは、前田の肝を潰すには十分な出来事だった。犯罪の予告があり、そして、その予告通りの時間に爆発が起きた。
(テロかもしれない)
前田は咄嗟にそう思った。アメリカが世界の警察を気取って中東で戦争を起こしてからというもの、自爆テロのニュースを聞かない日はほとんどない。去年はパリで大きなテロがあった。その後、アメリカの片田舎でも、過激思想に共鳴した若者の銃乱射事件があり、更に東南アジアでも幾度となく爆破テロや銃の乱射事件が起きた。中東でのテロは、あまりにも数が多くてニュースにすらならない。でも、テレビではいつも、過度の心配は必要ないと言っていた。
日本では、多分、起きない。
日本は、島国だから、他の国に比べて安全。
日本は、お金を出しているだけで、空爆に直接は参加していないしね。
「だから、言ったじゃないですか!」
男の叫び声が、室内に響き渡った。
「あんたが俺たちの言うことを信じないから‼」
前田は、男の言葉で自分の仕事を思い出した。避難。そうだ、客を避難させないと! 前田は館内放送用のマイクを掴むと、動揺した心のまま話し出した。
「ただ今、広場で爆発が起きました! お客様はどうか避難をしてください。私は、これから警察に連絡をします。とにかく、避難をしてください!」
マニュアルを無視したアナウンス。「落ち着いて」の言葉もなく、「係員の指示に従え」もなく、「どこに避難するのか」の具体的な指示もなく。なので、警備室からのこの館内放送は、当事者に恐怖と混乱を与えただけだった。百貨店の全ての売場でパニックが起こった。人々は我先に階段やエスカレーターに殺到した。幼児は泣き叫び、老人や女性が突き飛ばされて床に転んだ。流血事故が起き、「助けて」と言う声が、方々からあがる。踊り場の真ん中で転んだ女性につまずいて更に人が転ぶ。それを踏みつけるようにして大人の男が走る。

来栖公太は、彼と同じ「外せない腕時計」を着けた女とともに、その混乱の中を走った。そして、三越の外に出ると、恵比寿駅には向かわず、陸橋を渡ってから最初の信号を左に折れた。女の震える手を掴み、とにかく歩く。それが、犯人からの指示だと女が言うのだ。歩きながら携帯を道端に投げ捨てる。もちろん、それも犯人からの指示だ。途中、何台ものパトカー、機動隊のバス、それに救急車とすれ違った。どの車両も、手をつないで歩道を歩く、歳の差二十歳ほどのこの奇妙なカップルに注意は払わなかった。そう言えば、高沢はどうしているだろう。あのベンチはまだ、爆発せずに残っているだろうか。そして彼は、震えながらまだあそこに座っているのだろうか。
と、その時だった。
先ほどよりはるかに大きな爆発音が聞こえてきた。何かがまた爆発したのだ。そう思った。重低音が、猛烈なスピードで地面を走り、そのパルスが公太の足の裏から駆け上るように、彼の全身と、そして精神を激しく揺さぶった。
公太はその場にしゃがみこんだ。高沢は死んだだろう。公太にとって、高沢はただの職場の先輩で、友情めいたものを感じたことは一度もなかったが、それでも、知人の無残な死を想像すると、ショックでやりきれない気持ちになった。高沢が死に、自分が今こうしてまだ生きているのは、ほんの偶然に過ぎないのだ。自分が先にあのベンチに腰を掛けていたら、高沢がここにいて、自分はあの広場でバラバラになっていたのだ。
と、連れの女が、公太の腕を強く引っ張った。
「行くわよ」
「……」
「私たちは、行かなきゃ」
「……」
公太は、自分の右手首に巻き付いている黒いシロモノを見た。腕時計としての機能も持っている。でも、これの本来の用途は時計ではない。これは、遠くの誰かが起爆装置を押すだけで、公太の半身を砕き、その生命を奪うものだ。公太はもう、それを疑わなかった。
彼は、のろのろと立ち上がった。

二人は、目黒駅前を通過し、線路脇の小道を延々と五反田駅の手前まで歩いた。連れの女は、何度か携帯を取り出して地図らしきものを見る。
「それ、おばさんのですか?」
公太が尋ねる。
女は首を横に振り、
「私のは取られちゃったの」
と短く答えた。

やがて二人は、住宅街の中にある、地味なグレーのマンションまで来た。特に特徴らしきもののない七階建てのマンションだった。玄関脇の看板に「ウィークリー&マンスリー」と書かれていたので、ここは普通のマンションではなく、中長期の出張者向けの家具付き物件なのだろうと想像ができた。
「このマンションの七〇三号室へ行けって」
女は言った。
「……わかりました」
二人は、エントランスのガラス扉を押して中に入った。ダイヤル式の集合ポストの前を通過し、奥のエレベーターに乗り込む。「7」というボタンを押し、上向きに体が動き出すのを感じる。振り返ると、連れの女の顔色がやけに白く思えた。
「大丈夫ですか?」
間抜けな質問だと思いつつ、そう訊いてみた。
「あんまり大丈夫じゃないみたい」
と小さく首を横に振り、女は肩をすくめた。当たり前だ。大丈夫なわけがない。この状況では、大丈夫な方がどうかしている。
七階への到着を告げる音が鳴り、二人はエレベーターを降りた。出ると、右に二つ、左に一つ、シルバーのドアがあった。
「この部屋ね」
そう言って、女は左端のドアを指差した。
「七〇三」
公太は、ドアノブに手を触れてから、急に嫌な予感がして手を引っ込めた。サスペンスの映画などでは、こういう時、ドアを開けた瞬間に爆弾が爆発したりする。いや、まさか。それは考え過ぎだ。テロとかそういうものは、人が大勢いるところでやるものだ。犯人が公太たちを殺すつもりなら今までいくらでもチャンスがあったわけで、わざわざ三十分以上ここまで歩いてこさせる理由もない。
公太は、一度、深呼吸をした。そして、
「開けますね」
と女に宣言した。
「……はい」
か細い声で返事がきた。
「開けます」
もう一回そう言って、公太は思い切ってドアを開けた。ドアは施錠されておらず、音もなくするっと開いた。玄関口に入る。靴を脱ぎ、短い廊下を進む。突き当たりのリビングは八畳ほどの大きさで、窓は二つ。部屋の真ん中には木の小さめのテーブルがあり、それを囲むようにL字の黒い合成皮革のソファー。左の壁には、四十二インチの薄型液晶テレビが置かれている。そして、電源の入っていない真っ黒なテレビ画面に、白い封筒がセロハンテープで仮止めされていた。
「あれ、何かしら」
女が言った。
「手紙かしら。犯人からの」
公太は、無言でその手紙を手にとった。ペリペリとテレビから剥がす。外側には何も書いていない。思い切って封を切った。
中には、四つ折りの白い便箋が一枚入っていて、公太と女への次なる指示が書かれていた。

男は、恵比寿で起きた事件を、スマートフォンのワンセグ視聴アプリを使って観た。
番組名は『ニュース・ドクター』。
お笑い芸人からニュースキャスターに転身した司会者が、珍しく緊張で表情を硬くしていた。スタジオの後方に置かれた大型モニターでは、恵比寿ガーデンプレイスの広場からのライブ映像が映し出されている。
大勢の人間が、我先にと逃げている。
サイレンの音が聞こえてくる。
消防と、警察と、それぞれのサイレンが入り混じっている。台数まではわからない。
カメラの映像は、ずっとグラグラっと揺れている。そして、
「助けてくれ! 誰か、重石を! 三十キロ必要なんだ! 頼む! 誰か三十キロ‼」
という叫び声がやけに大きくモニターされている。
警察官たちが、バラバラとカメラの側に駆け寄ってきた。
「切れ。カメラは切れ」
そんな声がした。
「でも、犯人からの指示なんだ! このベンチの下に爆弾があるんだ‼」
悲痛な声で、カメラを持っている男が言い返す。
「液体窒素来ました!」
別の声がした。
液体窒素で起爆装置を凍らせるつもりなのだと男は思った。予想通りだ。それが、爆発物処理の最も基本的なやり方だからだ。起爆装置を凍らせ、安全な場所に移動し、そこで改めて爆破する。
(でも、そのやり方が、いつでも通用すると思ったら大間違いだ)

男は、恋人の声を思い出した。
もう二度と聞くことのできない声だ。

(もしこれが戦争なら……)

画面の中で爆発が起こった。轟音とともにカメラ画像は乱れ、そしてすぐに、何も映らなくなった。

警視庁渋谷署内の空気は、その日、激しく乱高下した。
「恵比寿で爆破テロ発生!」
十五時三十一分。署内は大きくどよめいた。その一一〇番通報は、担当の所轄に回されると同時に、警視庁警備二課爆発物対策係、通称「爆対」にも回された。通常は、所轄が先に現場に行き爆発物の可能性ありとの報告を受けてから爆対は出動するのだが、今回は「既に爆発している」との通報だったので、爆発物の処理装備を完備している機動隊「S班」とともに、爆対にも出動命令が出た。
五分後に、第二報がきた。
「ゴミ箱に仕掛けられた、ただの大きめの花火かもしれない」
「悪質なイタズラのせいでパニックが起き、転倒などで負傷者は出ているが死者はいない」
最初の衝撃が大きかった分、署の雰囲気は一気に緩んだ。なんだ。その程度なら、機動隊S班も爆対も必要ないじゃないか。渋谷署だけで対応できるだろう。たかが花火を使ったイタズラを「テロ」だなんて、よっぽど通報者は小心者かつ粗忽な人間に違いない。捜査員たちはそう軽口を叩いた。
その二分後に、第三報が来た。
「ベンチ下にもう一つ、爆発物らしきものがある」
再び署内に大きなショックが走った。
機動隊S班が、起爆装置を無効化するために極低温の液体窒素を噴霧。ところが、逆にそれをきっかけにして「それ」は爆発した。
いや、正確には、爆発ではない。それは「空砲」だった。
轟音と閃光。しかし、爆風は起きなかった。
それでも、ベンチに座っていた高沢というテレビ局員は、ショックのあまりカメラをコンクリートの地面に落として壊し、自らの精神も同時に損傷した。現在は現場のすぐ近くにある東京共済病院に収容されているが、まだ満足に会話ができないという。また、その時、爆破物の無効化にあたった機動隊員三名も、それぞれ死を体感し、同じ病院に運び込まれた。特に外傷はないが、手指の震えや吐き気などを訴えているという。

さて。この事件を、一体どのように判断すべきか。
捜査本部を設置し、大々的な捜査体制をとるのには、「国民に不安感を与える」「愉快犯を増長させる」として反対の声がすぐに出た。が、本庁公安部長の鈴木学警視監は、「この事件は警察組織をあげて解決すべき最優先事項だ」と強く主張した。鈴木の主張の根幹は、機動隊S班と爆対が合同であげてきた、そのレポートの内容にあった。
(そのレポート作成の迅速さに、鈴木学は深い感謝を覚えたことも付け加えておく)

  爆発物の残留物を収集分析した結果、現段階で下記の特徴が認められた。
・当該物は重量センサーを内蔵し、重量の変化に合わせて起爆する性能を有していた。
・当該物は温度センサーも内蔵し、設定した温度を下回った瞬間に起爆するよう設計されていた。これは、機動隊による爆発物処理が、主に液体窒素による急速冷凍であることを熟知した人間による仕業と思われる。
・当該物は、あえて爆音と閃光のみ発生するように組み立てられていたが、通常はプラスチック爆弾などを内蔵できるよう、そのスペースとそこへの通電装置も装備されていた。

〈 結論 〉
・この事件は、爆発物の設計・取り扱いに熟達した人間の手による犯行と思われる。

爆発物の設計・取り扱いに熟達した人間の手による犯行と思われる……
その一行を、鈴木は繰り返し繰り返し読んだ。
一体、どういう犯人なのだ。重量センサー。温度センサー。ネットで爆発物の作り方をダウンロードした程度の愉快犯とは次元が違うことは間違いない。では、犯人はどんな人間か。まさか、元機動隊員? あるいは元自衛官? それとも、海外から日本に潜入した本物のテロリスト? 最悪を想像すればキリがなかった。

鈴木の主張が通り、恵比寿の事件が起きた二十二日の十七時ちょうどには、警視庁渋谷署に捜査本部が設置された。
「恵比寿狂言爆弾事件捜査本部」
という〝戒名〟が付けられた。
狂言、という言い方はいかがなものか。そう鈴木は、内心ため息をついた。どんな時にも、事態を矮小化したい人間というのは存在する。矮小化することによって、自分の仕事が増えないよう、あるいは経歴に傷が付かないよう、そんなことばかり考えている人間たちだ。今回の事件は、狂言ではない。事実、機動隊と警備二課爆対というプロフェッショナルたちの目の前で、「それ」は爆発しているのである。それが空砲で、避難の混乱で怪我人が出ただけで死者はゼロという結果になったのは、犯人のある種の「温情」に過ぎないのだ。だが今は、戒名についてあれこれ言っている時間はない。捜査そのものをとにかく前に進めなければ。鈴木は自ら渋谷署に出向くことにした。

渋谷署生活安全課少年係に所属する泉大輝巡査は、直属の林課長より「恵比寿狂言爆弾事件捜査本部」への出向を命じられた。泉の警官人生は、まだ始まってからわずか四年で、「捜査本部」と呼ばれるものへの参加はこれが初めてだった。
捜査の相棒は、同じ渋谷署の交番勤務、世田志乃夫という警部補だと伝えられた。
「あと十五分で会議が始まる。おまえも出ろ。世田警部補ももうこの署に来ているはずだ。ちゃんと先に挨拶をしておけ。あの人は今は交番勤務だが、その昔は本庁でバリバリだった人だからな」

それで、泉はまず、父親ほど年齢の離れた新しい相棒を探しに署内を走った。課長の林は失念していたようだったが、実は、泉は世田と一緒だったことがある。かつて泉が新人だった頃、半年ほど交番勤務の時に一緒だった。指導係だったのだ。
世田は、刑事課にはいなかった。食堂にもいなかった。大会議室にもまだいなかった。彼は、一階の正面入口横にある喫煙スペースで、とても不味そうな顔をしながら短いタバコをくわえていた。
「世田警部補。お久しぶりです。泉です」
泉は張り切った声で挨拶したが、世田はウンともスンとも言わなかった。ただ眠そうに目を細めて泉を見ただけだった。
「あと五分で会議です。捜査一課だけでなく、なんと公安部長まで来るみたいですよ」
「……」
「世田さん?」
「おまえ、相変わらずだな」
「? はい?」
「おまえ、そんなピチピチのスーツで捜査ができるのか?」
「いや、これ、実はストレッチ生地なんで、結構動きやすいんですよ」
そう泉が答えると、世田は、
「はは。おまえ、余裕だな」
と言って、手をヒラヒラとさせた。自分の何が余裕なのかまったく泉にはわからなかったが、その辺りを追及していると会議に遅れそうだったのでスルーした。

捜査本部には、署の四階にある大会議室が使われることになっていた。正面のシルバーの扉には「恵比寿狂言爆弾事件捜査本部」という戒名を書いた紙が貼られていた。ノブに手を掛け、重い扉を押して中に入る。会議室には、木の長いテーブルが横に三つ、縦に十列並べられている。既に、本庁の捜査一課と公安部の刑事たちで前方は埋め尽くされていた。後方は、所轄の捜査員だ。強行犯係を中心に、署内のあらゆる課から人員が集められたようだ。正面壇上奥には百五十インチの大型モニター。そして、捜査員側を向いて一列長いテーブルがやはり三つ。右から、渋谷署副署長の飛野和義。渋谷署署長の飯倉健治。本庁公安部長の鈴木学。それから、名前はわからないが、明らかに本庁のお偉いさんが数人。そして左端には、渋谷署の警備課長、相良一郎が座っていた。
「前の方に二つ、席が空いてますよ」
そう言って歩き出した泉の腕を、世田がグイッと掴んだ。
「所轄は後ろでいいんだよ」
世田は、会場の最後尾に行き、端っこのパイプ椅子を引いてそこにドカリと腰を掛けた。泉は、いつか捜査会議に出られるようになった時は絶対に前の方に行こうと思っていた。それが、やる気ある捜査員のアピール方法だと思っていた。が、相棒にそういう気持ちはないらしい。
「座れば?」
「わかりました」
世田の隣に座る。そして、机に置かれた資料に目を通し始める。横で、世田が大きなあくびをするのが目の端で見えた。
「捜査資料をいくら読んでも、俺たちゃ爆弾の専門家にはなれねえぞ」
泉は小声で反論した。
「だからって、読まないよりは読んだ方がマシでしょう」
「それはどうかな」
「は?」
「資料ってやつは、必ず人間が書いている。人間には必ず『先入観』ってやつがある。で、捜査に一番邪魔なのは、その『先入観』なのさ」
「……」
屁理屈だ、と泉は思った。世田の言葉は無視して、捜査資料にざっと目を走らせる。泉が一番「おおっ」と思ったのは、犯人像の分析のくだりだった。
 ・爆発物に熟達した人間。きちんと爆破物取り扱いの訓練を受けた人間。プロフェッショナル。
・軍人や特殊工作員の可能性あり。

……つまり、訓練されたプロのテロリストの可能性ありと、この捜査資料では言っている。だからこそ、死者ゼロの状況でも捜査本部が置かれたのだと泉は改めて理解した。
司会役の、渋谷署副署長の飛野が立ち上がった。
「では、会議を始めます」
が、飛野はその一言しか言えなかった。
顔面を蒼白にした渋谷署の警務課長が、大声を出しながらこの大会議室に飛び込んできたからである。
「大変です! 恵比寿の事件の犯人から、犯行声明が出ました! そして、次の犯行予告も!」
大きな音をたてて、椅子から鈴木が立ち上がった。捜査員たちも一斉にどよめいた。
「犯人は何と言っているんだ?」
鈴木が語気鋭く尋ねた。警務課長は、一度唾をごくりと飲み込んでから答えた。
「次は、明日だと」
「あ、明日?」
「はい。明日の十八時半。場所は渋谷。渋谷のハチ公前」
そして、プリントアウトした紙を前に差し出しながら、警務課長はこう付け加えた。震える声で。
「次回はホンモノだ。次は、爆発すれば人が死ぬ。そう言っています」

泉は自分の腕時計を見た。次回の犯行予告時間まで、一日と一時間しかなかった。


私は、恵比寿ガーデンプレイスに爆発物を仕掛けた者です。

私と、日本国の首相とで、テレビの生放送番組にて、
一対一の対話をさせなさい。
この要求が容れられない場合は、新たにまた、私の仕掛けた爆弾が爆発します。

期限は、明日の十八時半。
場所は、渋谷駅のハチ公前。

次回はホンモノですよ。
爆発すれば、多くの人が死ぬことになります。
いいか。勘違いはするなよ。

これは、戦争だ

(続きは11月21日更新予定です。)
第1回はこちら、第3回はこちら
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