「タイという土地の裸の姿」 タイ出身の作家が自国のデモや政変を背景に流動する国家の欲望を描く──ウティット・ヘーマムーン 著/福冨渉 訳『プラータナー 憑依のポートレート』書評
評者・小佐野彈
この小説においては、すべてが「流体」である。いや、小説自体が、何色もの絵の具が溶かされた、極彩色の「水」なのだ。 時系列も、空間も、性も、そして主人公である「彼」自身の肉体や精神も。常に流動し、混ざりあっている。 冒頭、カラヴァッジョの「ナルキッソス」さながら、水面に映る自身を見つめて
2019.08.29