文藝

保坂さんの文章は読む者の記憶を呼び覚ます働きがある。『遠い触覚』 保坂和志

『遠い触覚』保坂和志『遠い触覚』保坂和志著【評者】種田陽平 ──言葉による長回し──映画には長回し撮影というものがある。短いカットの積み重ねには、作り手の意図を確実に反映させることができる。しかし、長回し撮影においては、どんなに計算してとりかかっても、撮影時の演技の流れやカメラワーク、タイ

この社会を覆う空気の正体は何なのか?『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』

『紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす』武田砂鉄著『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』武田砂鉄著【評者】中島岳志「全米が泣いた」「停滞を打破するためのメソッド」「若さで改革!」「待望の文庫化」「本当の主役は、あなたです」─。巷には陳腐で紋切型の言葉が溢れている。しかも、それがそれなりの

「リアル」を追求する姿に撃たれる。漢 a.k.a. GAMI著『ヒップホップ・ドリーム』

『ヒップホップ・ドリーム』漢 a.k.a. GAMI著『ヒップホップ・ドリーム』漢 a.k.a. GAMI著【評者】陣野俊史少し個人的なことを。十二年前、DEV LARGE(BUDDA BRAND)に呼び出されたことがある。私の本で引用したリリックに致命的な誤りがあり、それを謝罪せよ、ということだっ

世界の見え方や生の手触りが変わる読書体験。『はたらかないで、たらふく食べたい── 「生の負債」からの解放宣言』

『はたらかないで、たらふく食べたい「生の負債」からの解放宣言』栗原康著『はたらかないで、たらふく食べたい ──「生の負債」からの解放宣言』栗原康著【評者】トミヤマユキコ本書はアナキズム研究者による現代社会論だが、タイトルからしてなんだか可笑しい。「はたらかないで、たらふく食べたい」と訴える研究者なん

友達にはなりたくないがずっと見ていたいヒロイン。『風と共に去りぬ』(全五巻)

『風と共に去りぬ』(全五巻)マーガレット・ミッチェル著/鴻巣友季子訳『風と共に去りぬ』(全五巻)マーガレット・ミッチェル著鴻巣友季子訳【評者】江南亜美子過去の海外文学の名作を、現代的な読みやすい訳文と装幀でよみがえらせる各出版社の古典新訳の試みは、日本語翻訳者のレベルの高さもあって、もはや一過性のブ

僕はかつてこのような小説を書いてみたかったのだ。『アメリカ大陸のナチ文学』

架空の事象について、ああでもないこうでもないと考えて過ごすのは、楽しい……ありもしないことについて、できるだけ、もっともらしく心がけて書くのも楽し い。ロベルト・ボラーニョの『アメリカ大陸のナチ文学』は、小説の根源的な面白さである、いい年した大人がデタラメを真剣に捏ねくり廻すという、まともな 人間で

なぜ、鷗外と漱石は同時代人なのか。『鷗外と漱石のあいだで──日本語の文学が生まれる場所』黒川創

『鷗外と漱石のあいだで──日本語の文学が生まれる場所』黒川創著『鷗外と漱石のあいだで──日本語の文学が生まれる場所』黒川創著【評者】加藤典洋なぜ、鷗外と漱石は同時代人なのか。こういう問いを、起点とした本はこれまで見なかったように思う。この本の主人公は、人というよりも時代と地理である。冒頭に出てくる台

「悪」と名指すもの/名指されるものたちすらも転倒する、 異形の小説。『悪声』いしいしんじ

『悪声』いしいしんじ著(文藝春秋)『悪声』いしいしんじ著【評者】水無田気流廃寺のコケに置かれていた「なにか」。赤ん坊のような姿だが、あきらかに人間とは異なる物を見、聴くことができる。いや、聴覚や視覚といった感覚の間の垣根が低く、混在した独自の感性を持っていると言ったほうがいいだろう。とりわけ特異なの

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