単行本 - 日本文学
別に同情とかじゃないの。私が、寂しかっただけ|期間限定公開『俺の残機を投下します』スピンオフ/ステージ0 第四話
山田悠介
2020.06.22
ヒットメーカー・山田悠介、感動の最新小説
『俺の残機を投下します』
2020年7月14日(火)より全国順次発売!
著者「新境地」と評された大ヒット作『僕はロボットごしの君に恋をする』(以下、『僕ロボ』)から3年。河出書房新社は、人気作家・山田悠介の最新作『俺の残機を投下します』を2020年7月14日より全国順次発売いたします。
落ちぶれたプロゲーマー一輝に奇跡の出会いが待っていた。一輝は巻き起こる事件を乗り越え大切な人を守ることができるのか? 大ヒット『僕ロボ』から3年、ミリオンセラー作家が放つ感動大作!
発売を記念して、物語のプロローグとなるスピンオフ作品「ステージ0」を特別公開!
(全5篇、8月末までの限定公開)毎週1話更新
各界のトップクリエーターが集結!
PVプロジェクト進行中
特設サイトはこちら
http://www.kawade.co.jp/zanki/
ステージ0 ―十六歳、出会い―
山田悠介
※第一話はこちら
↓
第一話を読む
<4>
その後、小橋は見事ライブのチケットを二枚ゲットした。
お手柄の小橋が「一緒に行こう」と言うのを、一輝は「面倒臭え」と言って断ったが、内心行きたくてしょうがなかった。素直になれない一輝は小橋に「一緒じゃなきゃチケットあげないよ」と笑いながら言われ、しぶしぶ納得するフリをしたのだった。
ちょうどそのときマネーマッチによって懐も温かかったし、一輝はカッコつけて二人分のチケット代を小橋に渡したのである。
ライブは思っていた以上に盛り上がり大満足だった。ライブ終わりに二人でメシを食いその日はそれで別れた。
一見正反対のキャラクターだが小橋とは何かと話が合う。
好きなアーティスト、芸能人、本、映画、食べ物、ファッション、それに笑いのツボまで……
そして決定的だったのは二人が似たような境遇だったことだ。
小橋も幼いころに母親が亡くなり父親の実家で暮らしているという。祖父母こそ家にいるので一輝とは違い鍵っ子ではないが、片親という寂しさは同じだったのだ。
「なんで俺に声かけたんだよ」
一度、小橋にそう訊いたことがある。ほとんどしゃべったこともなかったのに、昼メシを食べている自分に声をかけてきたのが不思議だったのだ。
すると小橋は笑いながら言った。
「だって、同じ匂いがしたから」
「は? 俺と小橋が?」
慌てて鼻に制服の袖をくっつける。
「ははっ、体臭のことじゃないよ。雰囲気のこと」
笑われて顔が赤くなる。小橋は続けた。
「独りでランチしてたじゃない? 昔の私と同じだなって……。上山くんと中学が同じの子に聞いたよ。お母さんと二人暮らしなんだってね。私も、母親いないんだ。中学時代もなんか友達関係なじめなくて、気づくといつも独りだったの。お節介って言われるかもと思ったけど、この人なら私の気持ち分かってくれるかなって。別に同情とかじゃないの。私が、寂しかっただけ」
そう言って静かに笑っていた。
その後、ライブ翌週にあったeスポーツの大会に一輝は参加したのだが、小橋はそれにも応援に来てくれた。惜しくも優勝を逃したが、プロゲーマーも交じった大会で準優勝だった。一輝は不満タラタラだったが、小橋は大袈裟なくらい喜んでくれた。
夏休みが終わり学校がはじまると、サボる一輝を小橋は本気で怒ってくる。毎度毎度そんなだから一輝も仕方なく学校にだけは行くことにした。
お昼休みにあいかわらず総菜パンを齧っていると必ず小橋が現れる。時には自分が握ったというおにぎりを分けてくれることもあった。
小橋は一輝のゲームの話を真剣に聞いてくれていつしか知識だけは豊富になっていた。たまにゲーセンでプレイすると以前と変わらずメチャクチャ弱い。どうやらセンスは無いようだ。それでも大会があるたびに応援に来てくれる。
こうして夏が終わり、秋になり、そして年末、年明け――
一輝は、小橋といるときは自分がよく笑っていることに気づく。
いつしかクラスメイトたちは二人をカップルとして扱っていた。
ところが、高校一年ももうすぐ終わろうとしていた二月のことだった。
平日の夜、珍しく一輝が家のアパートで独りカップラーメンを食べているとスマホが鳴った。画面には『小橋結衣』と出ている。
「もしもし結衣、どうした?」
しかし、自分からかけてきたくせに一瞬静まり返る。
「結衣?」
『あ、ごめん。一輝、明日からちょっと学校休む』
さんざん自分のサボりを怒ってきた結衣だ。当然彼女が学校をサボることなんてない。たぶんここまで皆勤賞のはずだ。
そんな結衣が当分休むという。
「どうした? 何かあったのか?」
『……うん、実はさっき警察から電話があってね――』
そこまで聞いて胸騒ぎを覚える。
これまで何度も警察の厄介になってきた。その単語を聞くだけでドキッとしてしまう。
結衣は静かな声でつぶやいた。
『お父さんが、死んじゃった……』
聞いた瞬間スマホを落としそうになる。まだ一度も会ったことはなかったが、話に聞く結衣の父親は穏やかな人物だった。以前写真を見せてもらったことがある。結衣と並んで撮られた写真には優しそうな紳士が写っていた。
聞けば、東北地方への出張で乗っていた長距離バスが、アイスバーンになった高速道路で横転し谷底に転落したらしい。
結衣が淡々と事故の経緯を伝えてくる。
ひとしきり聞いたあと一輝はつぶやいた。
「大丈夫か? なんか手伝えることがあれば――」
『ううん、大丈夫。急だったから驚いたけど、おじいちゃんたちもいるしね。それより一輝はサボり過ぎて単位ギリギリなんだから、必ず学校に行ってね。うるさいのが居ないからってサボってゲームセンター行ったらダメだよ』
こんなときに冗談を口にして小さく笑う。
葬儀の予定だけ告げると、最後に『本当に大丈夫だから』ともう一度つぶやいて電話が切れた。