単行本 - 外国文学

『黄色い雨』の著者フリオ・リャマサーレスの短篇を無料公開!クリスマスには決して読めない、クリスマス・イブの物語。 - 4ページ目

 教会までの道は冷え込んだが、それでも大勢の人が歩いていたのを覚えている。連れだって教会まで足を運んだ幸せな人たちが、道々ビリャンシーコ[スペインのクリスマスキャロル]を歌いながら家に戻っていった。われわれは歌どころではなかった。ご主人や帰ってからのことを考えていたが、まさかあのような事態が待ち受けているとは夢にも思わなかった。
 今回はドーニャ・アナがその場で卒倒した。ドアの敷居をまたいだとたんに、彼女は羽根のようにふわりと床に倒れた。何が起こったのかわからないまま、みんなが急いで駆けつけた。しかし、それで収まりはしなかった。女主人と息子たち、その妻、使用人、歌をうたいながら戻ってきた孫たち、誰もが家の中に足を踏み入れたとたんに石のように固まってしまった。それも無理はなかった。玄関の間の天井に取りつけられた照明器具のアームに、ご主人と七面鳥がクリスマスの二つの飾りのようにぶら下がってわれわれの帰りを待ち受けていたのだ。
 驚いたことに、当初いちばん落ち着いて見えたのは女主人だった。
 その日のために蝶ネクタイを締め、白のショートブーツをはいていたご主人をみんなで下に降ろしているときに、七面鳥も同じように降ろすのよ、それは明日料理するから冷蔵庫に入れておいてちょうだい、と女主人は指示した。
「主人は墓地に運ぶけど」と硬い表情で言った。「七面鳥は一緒に埋葬しないからね」
 しかし、女主人の毅然たる態度は午前中で崩れた。まず、ユーマが騒ぎを引き起こした。高齢のあの運転手は葬儀用の花輪を買うためにリャネスまで行ったのはいいが、せっかくここまできたのだからと酒場を何軒かハシゴしてまわった。戻ってきたときはまるでカー・レースで優勝したかのように首に花輪をかけ、七面鳥のように足元がふらついていた。ついで、ドーニャ・アナの番だった。彼女は突然神経の発作に襲われて、わっと泣き出すと棺のそばに付き添っていた司祭にしがみついた。もう少しで棺が二人の間に落ちそうになった(幸い、喪主として付き添っていた——検事の——長男ドン・アベリーノが宙に浮いたその棺を何とか支えた)。次に、女主人が崩れ落ち、床にばったり倒れたが、そのときに、私は埋葬に立ち合いませんからね、それだけじゃなく、私がいなければ主人は今も照明器具のアームからぶら下がっていたはずよ、とわめきながら部屋をあとにした。そのときにコックのヘレンが(包丁を手に持ったまま)通夜の部屋に飛び込んでくると、いつもの控え目な態度ではあったが、大声でこうわめいた。
「奥様、七面鳥の死体はそろそろ料理してよろしいでしょうか」

 

 

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