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【イベントレポート】少年十字軍はなぜ恋をしたのか? ――アナキスト、作家に訊く【早助よう子×栗原康】 - 2ページ目

 

■ノートを白紙にしろ!

 

早助 では、次の箇所、読みましょう。次も、同じ「恋する少年十字軍から」

 

声明を出さず、黙って実行し、なおかつ民衆に理解されることは可能だろうか。闘争という特別な言語に習熟した仲間なら、すぐにこのメッセージを理解してくれるはず。でも現実には、すべての民衆が、その言語に習熟しているわけではない。だから今日も瞬点は、声明案を練るために、テーブルにノートを広げている。まだノートは白紙。なにも書かれていないページを見つめていると、どこからかため息が聞こえてくる。行列を作って並ぶのはいつも貧乏人ばかり。金持ちはいつでも先頭に割り込めるか、そもそも並ばなくてもいいようになっている。ノートの罫線が憎い。罫線に字を並ばせようとするのは誰だ?

出典「恋する少年十字軍」(『恋する少年十字軍』収録)

 

早助 主人公は、瞬点という男の子と旅先で会うんですね、子供なんだけど、テロリスト志願、みたいな子で。このシーンは、その子供が闘争準備をする、ちょっと不穏な場面です。(画面を見て)何書いてんだろうね、これね(笑)

栗原 ははは。「行列を作って並ぶのはいつも貧乏人ばかり」というのが、わかるなと。これはどこから出てきたんですか?

早助 えーと、わたしは学生時代からしばらく、路上で生活を余儀なくされている皆さん、いわゆるホームレスと呼ばれる皆さんと共同キッチン、一緒に食事を作るということをしていたときがあって──、

栗原 自分の食事は自分で作る、というものですね。

早助 (うなずいて)よくしてもらって、すごくいい思い出が残ってるんですけども。炊き出しって、どうしても、配る側と並んで受け取る側とに別れてしまうんですが、それを止めてみようという試みだったので、そのときには、行列、ということについて、よく考えてましたね。その経験がきっと、無意識下から出てきたんじゃないかな、と思います。

栗原 ホームレスの人たちの話だけじゃなくても、結構、共感する人は多いんじゃないかな。「金持ちはいつでも先頭に割り込めるか、そもそも並ばなくてもいい」。

早助 わたしの小説って、オリジナリティは、そうそうないんですね。BLMでも同じような言い回しを聞きましたし、まあ、よくある、わりあい、ありふれてる言い方だとは思うんですが、でもありがとうございます、ここを取り上げてくださって(笑)

栗原 (笑)ここを読んだとき、思い出していたのが、僕、ある著名人にライター仕事でお世話になっていた時があったんですけど、やっぱり有名な人だから──金持ちでもあると思うんですけど──行列とか、行けないじゃないですか。ある日、その方が「クラムチャウダーが食いてえ」って言いはじめて。本人は行かないんですよね、スタッフが慌てふためいてて。いろんなところに電話をかけて、頭を下げて、買いに行っている様子を、すげー思い出しました。「金持ちはいつでも先頭に割り込めるか、そもそも並ばなくてもいい」。

早助 (笑)

栗原 そういうのを僕は思い出して、勝手に(胸を手でおさえて)「ウウッ」と。

早助 読んでて何かを思い出す文章って、結構いいんじゃないかなと。人ごとのようにいうのもあれなんですが。すごいありがたい感想だなと思います。

栗原 ノートの罫線を、白紙にしたいですね。

早助 はい。

栗原 闘争勝利!

早助 はい、では次も、「恋する少年十字軍」から読みたいと思います。

 

■因果関係を破壊せよ!

 

懐かしいという感情は、過去ではなく、よく肥えた未来の大地に抱く感情なのか。行ったことのない場所だからこそ、何度も思い浮かべた未来に対する執着心は強い。未来を懐かしむあなたは、横になって暗闇を見つめる。

出典「恋する少年十字軍」(『恋する少年十字軍』収録)

 

 

早助 主人公がちょっとした分岐点にいるシーンですね。この作品を書いたときに参考にしたのが、「グロリア」という、わたしはこの監督の名前をまともに言えたことがないんですが、カ、カ、カサフェでス……。

栗原 言えましたね(笑)

早助 するっと言えたことはないんですけど。大人の女性が自分の子じゃない子供を連れて逃げるという話がいいなと思って。

栗原 あ、マフィアから逃げるやつですか。

早助 そうそう。

栗原 俺、午後のロードショーで三回くらい観ましたよ。

早助 そんなに? 無職エピソードですね。この作品(「恋する少年十字軍」)でもホントは連れて逃げて欲しかったんですけど、作者の性格の弱さを反映してか、主人公は子供を連れて逃げられませんでした。と、そんなシーンです。

栗原 この後に、「見ているのは辛い現実、ひとつ部屋に寝ている子供が、実は爆弾犯だったなんて」と続く。

早助 連れて逃げるだけの胆力があって欲しいところですけど、わたしの作品の主人公って、みなさんそろって無能力が特徴で。

栗原 でも、すごい表現しますよね。「懐かしいという感情は、過去ではなく、よく肥えた未来の大地に抱く感情なのか」──未来を懐かしむ、って、すごいな。

早助 そう言ってもらえると嬉しいんだけど、実は宇多田ヒカルの歌なんだよね。

栗原 わははは!

早助 わたしがすごいんじゃないんですよ。いや、これ事前に栗原さんに選んでもらった時、「これって……」と思って。

栗原 俺も、人にいいって言ってもらえる場所って、だいたいパクった場所だったりしますね。「また剛か〜」と。「ひとつになってもひとつになれないよ」とか(笑)

早助 宇多田ヒカルに代わってお礼を申し上げます(笑)

栗原 早助さんの文章って、もちろんストーリーで読んでいって、それも面白いな、と思うんですけど、フレーズが面白いんですよね。実は、おととい大学で早助さんの文章を扱ったんですけど、そのとき学生が言っていたのが、「後ろから読んでも面白い」。

早助 わははは!

栗原 フレーズだけ読んで面白い人って、意外とそんなにいないですからねえ。

早助 栗原さんの学生さんは本当に勉強熱心で、何年か前、一度、講師で読んでいただいたんですけど、そこで本当に酷評されて。

栗原 いや〜、あいつら……(笑)

早助 わたしの作品が至らなかったんです。

栗原 いやいやいや。今年は反応、超、よかったですよ!

早助 ありがとうございます。以前、栗原さんの学生さんたちに酷評された時は──、

栗原 俺が一番、頭抱えてましたよ。

早助 「ファミリーレストランの、ジュースバーのジュースが出なくなって、ボタンを押してもスカスカの水しか出ない、そういう感じの小説だ」って。

栗原 わははは。

早助 ありがたかったですよ、率直な意見を聞けて。普通、面と向かうと、「いいところを探して、褒めよう」という厚意からの感想が多くなるじゃないですか(笑)

栗原 いやいやいや。

早助 素敵な子たちでした。わたしが執念深いから言われたことを覚えているだけです。「味のない豆腐のような小説だ」とか(笑)

栗原 そもそも、豆腐に味なんかないんだよ!

早助 いえ、豆腐には味がありますよ。では、次読みますね。

 

 それとも、もしかすると、本当に背が縮んでしまったのかもしれない。

 

 それから、横へ横へと滑走する。

 

  恋愛体質とは、感染してテロリストになることだった。そんなことも知らず、

 

   あなたはだんだん小さくなった。

 

 親友にハガキを書いた。

 

出典「恋する少年十字軍」(『恋する少年十字軍』収録)

 

 

早助 挫折して自分探しの旅から帰ってきた主人公が日常生活に戻るんですけど、場面転換があって、この直後にいきなり数十年後に話が飛ぶ、というシーンです。

栗原 この場面転換がすごいな、と。「それとも、もしかすると、本当に背が縮んでしまったのかもしれない」のところで、パーっと変わって。最初は、読んでいると、とまどうと思うんですよね、「なんだ?」と。今がいつでどこにいるのかわからなくなる、という。この書き方が、すごくうまいな、と思って──、

早助 ありがとうございます。

栗原 早助さんの文章って、さっき挙げた「懐かしい未来」もそうなんですけど、過去とか未来とかっていう、時間の感覚をズラしていくんですよね。普通、物語を書くって、未来があって、そこへ向けて、「これこれこういう出来事があったから、こうなっていきますよ」という風になると思うんですけど。でも、普通に生きていても、将来を設定されるって、支配じゃないですか。「将来、金を稼げるようになれ」とか、「それができなければ落ちこぼれ」とか、言われてしまう世の中だと思うんですけれども。早助さんの場合は、時間の感覚をいつもぶっ壊してくれるっていうか。ああなったからこうなって、未来になる、というような因果関係じゃなくて、突然、すーっと未来なのか過去なのかわからないところへ人を引き込んでいく。このシーンもそういう文章のひとつなのかな、と。

早助 そうですね、この作品を書いたくらいの時期が一番、因果関係を嫌だな、と思っていて。というのは、東日本大震災があったとき、当時の都知事が「天罰だ」って言ったじゃない?

栗原 (中指を立てて)石原慎太郎ですね。

早助 「原因があって、こういう結果になったんだ」みたいな考え方、すごく嫌だなあ、と。

栗原 2011年くらいから、僕と早助さんって、結構、一緒にいたりするので、考えてることってわりと共有しているのかな、と思うんですけども。

早助 「この本を読んだから、これ書いたんだな」というのが、なんとなくわかりますよね。

栗原 僕も、因果関係があってこういう結果になるんだ、みたいな考え方っていつも壊したいな、と思っていて。僕にとってはそういうのって、一遍上人とか、宗教だったりするのかもしれませんね。極楽に導かれて動いちゃう(笑)極楽って、死後の世界だから、将来なんですけど、一遍上人とか浄土教の考え方だと、一千億年前にみんなが極楽に行けることを阿弥陀っていう仏が保証してくれました、みたいにいうんですよ。一千億年前の未来?っていう。南無阿弥陀仏って唱えて阿弥陀に身を任せたら、一千億年前から決まっているかのように動いちゃう。それで動いちゃう人の動き方って、因果関係ないですよね。だって、生まれる前から決まってたもん、ダメだってわかっててもやっちゃった、不倫しちゃいましたー、とか。そんなことを、この「恋する少年十字軍」で改めて思い出したりしました。

 

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著者

早助よう子(はやすけ・ようこ)

1982年生まれ。2011年「monkey business」(winter vol.12)にて短篇「ジョン」でデビュー。著書に『ジョン』がある。

栗原康(くりはら・やすし)

1979年生まれ。著書に『大杉栄伝 永遠のアナキズム』『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』『働かないでたらふく食べたい』など。

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