「弱い人間」がただ生きる物語――闘病中の 32 歳女性の視点で描いたマイノリティに対する社会の束縛
評者:竹田ダニエル(ライター)
『彼女が言わなかったすべてのこと』桜庭一樹著 評:竹田ダニエル(ライター) 我々が今生きている時代は、想像力が問われている。 主人公の小林波間なみまは、病気の治療をしているということ以外は「普通の三十二歳」。ある日、幸せそうな若い女性を狙った通り魔事件
2023.10.02文藝
評者:竹田ダニエル(ライター)
『彼女が言わなかったすべてのこと』桜庭一樹著 評:竹田ダニエル(ライター) 我々が今生きている時代は、想像力が問われている。 主人公の小林波間なみまは、病気の治療をしているということ以外は「普通の三十二歳」。ある日、幸せそうな若い女性を狙った通り魔事件
2023.10.02評者:皆川博子(作家)
『あなたの燃える左手で』朝比奈秋著 評:皆川博子(作家) 緊迫した場面から始まります。人物の行動が何を意味するのか、この段階では読者にはわからない。しかし引き込まれる。まず、文章に惹かれました。余計な説明は交えず、必要な事実を的確に、しかも魅力的に(こ
2023.09.29評者:山崎ナオコーラ(作家)
『腹を空かせた勇者ども』金原ひとみ著 評:山崎ナオコーラ(作家) ちゃんと生活して、たくさん食事して、行きたくて学校に通って、前を向いて人と関わっていく「陽キャ」の主人公。金原さんのこれまでの作品とはちょっと異なる風が、冒頭の数ページから清々しく吹いて
2023.09.28評者:初谷むい(歌人)
『五月 その他の短篇』アリ・スミス著岸本佐知子訳 評:初谷むい(歌人) あなたのすべてをわたしは知り得ない、という絶望がある。表題作「五月」は、次のようにはじまる。「あのね。わたし、木に恋してしまった。」 わたしたちの世界はひょんなことで線路のポイントが
2023.08.08評者:深緑野分(作家)
『風配図 WIND ROSE』皆川博子著 評:深緑野分(作家) 人類という動物はなぜか、自分たちの半分を中心に社会を形成し権力を持たせ、もう半分は学問や権力に相応しくないとして、家庭や生殖の役割に縛り付ける。前者は男、後者は女である。 皆川博子の最新長編『風配図
2023.08.07評者:梅﨑実奈(書店員)
『うみみたい』水沢なお著 評:梅﨑実奈(書店員) 水沢なお「うみみたい」を説明するとき、〈反出生主義〉という言葉が力強く使われていたら、そうだけど、そうなんだけど、ちがうよね、と心に引っかかってしまうと思う。確かに主人公であるうみは、うみたいけれどそれ
2023.08.04桜庭一樹(作家)
自分はずっとずっと差別してきたと思う。 多くの場合、「心を痛めてはいるが、よく知らない事柄だから口を挟み辛い」として沈黙を選んできた。そもそもよく知らないんだから私は差別をしていない、という言い訳もしてきた。でも、知らないままでいる、知ろうとしないことも差別への加担だったんじゃないか。酷い時は、自
2023.02.28廣田龍平(文化人類学者、民俗学者)
十六歳の少女ふうかは父親と同じくらいの年齢のITベンチャーCEOである碧と同棲し、金銭的には不自由なく暮らしている。リビングルームには、碧が前に交際していた女性の制作したマネキンが置かれていて、それに見つめられながら、ふうかは「浮遊」というホラーゲームに没頭する。ゲームの主人公はふうかと同世代の少
2023.02.24橋本絵莉子(ミュージシャン、シンガーソングライター)
書評執筆のご依頼を受けてすぐに、ネットで書き方を調べました。普段から加納さんのエッセイを読んだり、Aマッソの漫才を見たりして、なんて頭の回転が速くてまっすぐな人なんだろうと思っていたから、そんな人が書いた本の書評が私に務まるんだろうかと、とても不安になったからです。 でも、新刊の発売をすごく楽しみ
2023.02.24上坂あゆ美(歌人)
短歌をつくるのが楽しかったことなど、一度もないのかもしれないということについて考える。私にとって短歌制作は、嘔吐をこらえながら自分の呪いを見つめ、ひたひたと泣く夜を乗り越え、なんとか形にする作業。どちらかと言えば快楽主義の自分が、なぜそこまでするのだろうと考えると、それはきっと私が、できるだけ鋭く
2022.11.15