「男同士の、とりわけ1対1の関係に宿るなんとも言えない感触」抱きしめ合えない俺たち。芥川賞作家が拓く新らしい男子――町屋良平 著『ふたりでちょうど200%』
評者・清田隆之(桃山商事)
本書は4つの短編からなる連作小説集だ。すべて鳥井陽太と菅航大というふたりの男性が主人公になっているのだが、バドミントンのダブルス、ブラック企業の同僚、男性アイドルとそのアンチ、有名俳優とゴシップライターと、作品ごとに関係性が異なっている。一方、ふたりは同じ小学校の同級生で、当時の記憶の
2020.12.04文藝
評者・清田隆之(桃山商事)
本書は4つの短編からなる連作小説集だ。すべて鳥井陽太と菅航大というふたりの男性が主人公になっているのだが、バドミントンのダブルス、ブラック企業の同僚、男性アイドルとそのアンチ、有名俳優とゴシップライターと、作品ごとに関係性が異なっている。一方、ふたりは同じ小学校の同級生で、当時の記憶の
2020.12.04評者・三宅唱
これは活劇だ。という言葉に今ようやく、ひとまずたどり着いたのだが、これまでの道のりを。まずは一度読み通して、本を読むのってこんなに疲れるっけ、というのが最初の感想。感想というよりも肉体的な実感。一日中外にいてなんとか終電に飛び乗ったときのような。 早助さんがあとがきで「逃げる」と書いて
2020.12.02評者・細馬宏通
「足立区島根町」は、著者自身の一番古い記憶の話から始まる。母親におんぶされながら近所のおばさんにほっぺたを撫ぜられ、「たけちゃんは誰の子?」と訊かれると、必ず「アメリカ人の!」と答えていた、と書いてから、著者はすぐに、自分の記憶の出所を疑い出す。「いざ自分が書くとそれが本当だったのか、ど
2020.12.01評者・宇垣美里
柔よく剛を制すって言葉に時々不満を感じていた。理不尽な言動や扱いに対し、優しく丁寧で相手をいい気持ちにさせるような対応をすることこそ、〝大人の女の振舞い〟であると諭されるたびに、舌打ちをしてきた。本当はハンムラビ法典が如く、目には目を、歯には歯を。殴られればその辺にある鈍器で殴打し返し
2020.11.30新胡桃
第57回文藝賞優秀作受賞者は新胡桃(あらた・くるみ)さん。16歳の高校2年生です。文藝賞史上2番目に若い受賞者となります。受賞作『星に帰れよ』で描かれるのは、作者と同じ16歳の高校生3人の世界。家庭に問題を抱えながらも、クラスでは明るい「変わり者」キャラとして振る舞う、「モルヒネ」というあだ名の女の
2020.11.16藤原無雨
第57回文藝賞は史上最多の応募作の中から受賞作として、藤原無雨さんの『水と礫』が選ばれました。砂漠に隣接する架空の町を舞台に繰り広げられる、壮大なスケールの一大叙事詩。「同じ物語の反復」という、大胆な手法で描かれるのは、東京で負った傷を癒すため砂漠を越えようとする男と、その一族の物語。生きづらい現代
2020.11.16評者・太田莉菜
時たま友人と話題にあがる話で、子供の時にふと「今見えているこのリンゴの赤は私にとっては赤だけど、他の人には違う赤かもしれない、丸く甘酸っぱいこの果物は、他の人には四角く苦い他の何かかもしれない、そうなると私の生きている世界は信じていいの? 正しさってなに? 絶対ってなに?」と考えたりすることがあっ
2020.11.10評者・彩瀬まる
読みながら、これまでの人生で遭遇した数々の不穏で心もとない一瞬が、水底から立ちのぼる泡のようにふつふつと眼裏へ浮かんだ。道端にしゃがんでこちらを見ていた、年齢も背丈も同じくらいなのに腕の太さが自分の半分しかない子供。うちの母親は馬鹿だから殴っているんだとファミレスで熱っぽい目をして語った同級生。鉄
2020.11.09評者・今泉力哉
肉食なのに乾いている小説『破局』を読んで笑った――遠野遥 著『破局』今泉力哉 私は普段小説を読む習慣がないので、一冊の本を読み終えるのに相当な時間がかかる。最初から最後まで一気に読めたことなんてほとんどない。でもいつぶりかに一気に読めたのが、この遠野遥という人が書いて文藝賞を受賞した前作『改良』だっ
2020.09.15宇佐見りん
宇佐見りん『推し、燃ゆ』が、第164回芥川賞を受賞しました。「推しは私の背骨」と言い、アイドル上野真幸を”解釈”することに心血を注ぐあかり。その推しが炎上し――。他の人ならなんなくこなせる「普通」ができず、推しを推すときだけ生きていることを感じられるあかりの生きづらさ、切実
2020.09.09